「かしこ」という言葉を、手紙の末尾に見掛けたことがある人も多いでしょう。しかし何となくで使ってしまうと、相手に失礼になる可能性もあります。
そこで本記事では「かしこ」について、詳しい意味や古語の由来、ビジネスシーンやメールで使えるのかや、例文を紹介します。男性が手紙で使える言い換え表現や、その他の結語、英語表現もまとめました。
「かしこ」の意味や由来とは
「かしこ」は、女性が手紙を締める際に添える挨拶の言葉です。
「かしこ」で締めることで、手紙を受け取る相手に敬意を示すことができます。そのため、女性が目上の人に出す手紙に使われる結語です。なお「結語」とは、手紙や文章における結びの言葉のことです。
「かしこ」は女性が手紙やはがきで使う挨拶の言葉
前述のように、「かしこ」は、主に女性が手紙やはがきで挨拶として使用する言葉であり、男性が使用したり、手紙・はがき以外のシーンで使ったりすることはほぼありません。
「かしこ」は手紙で使うことで「これで失礼します」「恐縮です」といった意味になり、相手に敬意を示すことができます。ひらがなであるため、物腰が柔らかいニュアンスがあるでしょう。
「かしこ」は古くから日本で使われている言葉で、もともとは手紙でも男女ともに使用していたといわれています。
「かしこ」の由来は古語の「かしこし(畏し)」
「かしこ」は、平安時代ごろから手紙で使われるようになったといわれています。
「かしこ」は「恐れ多い、もったいない」という意味の古語「かしこし(畏し)」という形容詞から来ています。
なお「かしこし(畏し)」は、もともと人知を超えた能力に対する畏怖、畏敬といった意味がありましたが、それが恐れ多い、もったいないという意味になり、さらに資質や能力が優れている、利口であることなどと意味を広げていきました。「畏」以外にも「賢」や「恐」と書くこともあります。
手紙では「かしこ」とひらがなで書くことが多いです。
男性の場合は「恐惶謹言」を使う
現代において、「かしこ」は主に女性が使う言葉です。では、男性はどのような結語を使えばいいのでしょうか。
主に男性が使う結語としては、「恐惶謹言(きょうこうきんげん)」という言葉があります。
「恐惶謹言」は、「おそれ謹んで申し上げる」という意味があり、こちらも手紙を受け取る相手への敬意を表します。「かしこ」とほぼ同じ意味のため、「かしこ」の男性版と覚えておくといいでしょう。
「かしこ」の使い方と例文
ここでは、「かしこ」の使い方のポイントや、具体的な例文を見ていきましょう。
「かしこ」を使う際は、頭語はなくてもいい
先ほど、「かしこ」は手紙や文章の結びの言葉である「結語」だと説明しました。
通常、手紙は「頭語」で始まって「結語」で締めるというマナーがあります。「頭語」とは手紙の冒頭に用いる言葉です。
詳しくは類語の章でもまた説明しますが、例えば、下記のようにセットの形で使用します。
- 頭語…拝啓/結語…敬具など
- 頭語…謹啓/結語…敬白または謹言など
しかし、「かしこ」は例外で、頭語を使わず「かしこ」のみで使用可能です。
もし、「かしこ」に頭語を使いたい場合は「一筆申し上げます」や、「謹んで申し上げます」などと書きましょう。
「かしこ」を使った例文
かしこの使い方や意味を確認した上で、実際に「かしこ」を使ってみましょう。かしこの例文は以下の通りです。
- 寒い日が続きますので、何とぞご自愛ください。かしこ
- ご指導いただき、心より感謝を申し上げます。かしこ
- 今後のご活躍とご健康を、心よりお祈りしております。かしこ
このように、手紙の締めの文章を書いた後に「かしこ」と書きます。「かしこ」には句読点を付ける必要はありません。
「かしこ」はビジネスシーンでも使える言葉?
「かしこ」は、「これで失礼します」という意味があり、目上の人に向けて使う言葉です。特にマナーが重視されるビジネスシーンでは目上の人や取引先への言葉遣いが大切ですが、ビジネスシーンでは「かしこ」という言葉は使いません。
ビジネスシーンで「かしこ」という言葉を使わない理由は、「かしこ」自体は丁寧な言葉ではありますが、ひらがな表記ということもあり、フランクな印象を与えてしまうからです。
ビジネスの手紙において締めの言葉を使う際は、「かしこ」ではなく「謹んで申し上げます」という意味を持つ「敬具」などを、適した頭語とともに用いるといいでしょう。
また、メールで「拝啓」「敬具」などを使うことがほとんどないように、「かしこ」を使うことも基本的にはありません。なぜなら、メールは用件を簡潔に伝える手段だからです。
「かしこ」の類語・代わりに使える結語
先ほど紹介した通り、「かしこ」は手紙やはがきで使用する言葉ですが、ビジネスシーンやメールでは使いません。特に、ビジネスシーンでは「かしこ」を使うとフランクな印象だ、失礼だと捉えられる可能性があるため、類語表現を使用するといいでしょう。
そこでここからは、「かしこ」の代わりに使える結語を紹介します。場面に応じて使い分けましょう。
敬意が高い結語
まず紹介する類語は、相手への敬意が高い結語です。
- 敬具(けいぐ)
- 敬白(けいはく)
- 謹言(きんげん)
上記の類語表現は、頭語とセットで使う言葉です。「敬具」は「拝啓」や「拝復」などに対して、「敬白」「謹言」は「謹啓」などに対して使います。どれも「謹んで申し上げます」という意味です。
「拝啓」と「敬具」の組み合わせが最も基本的な組み合わせです。
なお、「拝啓」などの頭語の後には、季節の挨拶(時候の挨拶)を入れるのが一般的です。
季節の挨拶・時候の挨拶と結びの言葉を各月ごとに紹介【ビジネス編】
端的な手紙に用いる結語
- 草草/草々(そうそう)
- 早早/早々(そうそう)
- 怱怱/怱々(そうそう)
「草草(草々)」「早早(早々)」「怱怱(怱々)」も頭語とセットで使う言葉で、「前略」や「冠省」などに対して使います。
ただしこれらは端的な手紙に向いており、意を十分に尽くした手紙ではないことを謝罪するという意味があります。頭語の後に季節の挨拶(時候の挨拶)などは省いて、用件をいきなり書きます。
そのため、目上の人に宛てた手紙や、正式な文書には用いない方が無難でしょう。
かしく・あらあらかしこ
「かしこ」の類語には、「かしこ」と同じくビジネスシーンではあまり使用されませんが、「かしく」「あらあらかしこ」もあります。
「かしく」は「かしこ」の音が変化したもので、「かしこ」と同じように使用できます。
「あらあらかしこ」は、「粗略で意を尽くさずに恐縮です」といった意味で、女性が書いた手紙、あるいは女性に宛てた手紙の結語です。
「かしこ」の英語表現
外国人に向けて英語で手紙を書く場合、「かしこ」はどのように英語で表現すればいいのかを紹介します。
まず、カジュアルな手紙には「Regards(よろしく)」「Best wishes(幸運がありますように)」などがいいでしょう。
フォーマルな手紙の場合は、「Sincerely(真心を込めて、敬具)」や、より丁寧な「Sincerely yours(真心を込めて、敬具)」などが適しています。
実際にはこれらの言葉の後に、「Regards, Hanako」のように自分の名前を添えます。カジュアルな場合はファーストネームのみ、フォーマルな場合はフルネームを記すといいでしょう。
なおこれらは、手紙だけでなくメールに使用することもできます。
「かしこ」は手紙の末尾に添える敬意を表す言葉だが、使用時には注意点もある
手紙の締めに書く「かしこ」。手紙を受け取る相手への敬意を表す言葉ではありますが、主に女性が使う言葉であったり、ビジネスシーンやメールでは使えなかったりといった制限があります。
かしこの意味や適したシーンを把握し、他の結語と使い分けられるようになりましょう。