単層のみが選択的に得られる理由に関して、成長した物質自身がそれ以上の化学反応を止めるように働く「自己制限成長」という成長モデルの検証も行われた。
その結果、WS2が合成される際に固相のWxOyと気相の硫黄が、固相-気相界面で反応するために自己制限成長が起きると推測された。固相-気相界面で硫黄とタングステンが反応し、その界面に単層WS2が成長した場合、単層WS2によってそれ以上の化学反応が阻害され、多層WS2の生成が抑制されるとしている。
このモデルの妥当性検証のために、密度汎関数理論(DFT)計算が行われたが、単層WS2による自己制限機構が起きるためには、硫黄原子が単層WS2を通過しないことが必要条件になることから、DFT計算によって硫黄原子が単層WS2を通過するためのエネルギー障壁が計算されたところ、合成中の熱エネルギーでは、硫黄原子がエネルギー障壁を超えることはほとんどないことが示唆されたという。
また、直線偏光を用いたラマン分光およびPL分光が行われ、光学特性が調べられたところ、通常のWS2シートでは偏光特性を持たないが、WS2ナノリボンでは偏光特性が確認されたとする。このような偏光特性はグラフェンナノリボンなどでも観測されており、WS2ナノリボンの一次元性が示されていることが考えられると研究チームでは説明している。
さらに、合成直後はWS2ナノリボンがWxOyナノワイヤ上に成長しているため、WS2ナノリボン単体の特性を調べることが困難だったことから、WS2ナノリボンのナノワイヤからの単離が試みられることとなった。成長基板の上にポリマーの薄膜を形成して剥離することにより、WS2ナノリボンをナノワイヤから機械剥離し新たな基板に転写することに成功。単離されたWS2ナノリボンの厚みは1nm以下であり、単層であることが示されていたとする。
なお、光学特性からWxOyナノワイヤ上で受けていた格子歪みやドーピングが軽減されていることも判明。単離された単層WS2ナノリボンの結晶構造に対する電子顕微鏡観察が行われたところ、ジグザグのエッジが確認されたほか、単層WS2ナノリボンを用いたFETが作製され、電子伝導型(n型)として動作させることにも成功したとのことで、研究チームでは今回の研究成果により、TMDCナノリボンの新規物性開拓とIoE社会を支える次世代ナノスケール光電子デバイスの実現に近づくことが期待できるようになるとしている。