渡辺明名人に藤井聡太竜王が挑戦する第81期名人戦七番勝負(主催:毎日新聞社・朝日新聞社)は、第3局が5月13日(土)・14日(日)に大阪府高槻市の「高槻城公園芸術文化劇場」で行われました。対局の結果、87手で快勝した渡辺名人がスコアを1勝2敗としました。
挑戦者の作戦は雁木
開幕2連勝を飾った藤井竜王は、後手として迎えた本局で序盤早々に角道を止める趣向を見せます。角換わり腰掛け銀の研究勝負を避けて相居飛車の力勝負に持ち込む狙いがあり、これによって局面は前局に続いて力戦調の序盤戦に落ち着きました。藤井竜王が雁木囲いに組む間に、先手の渡辺名人は自玉を矢倉囲いの堅陣に収めて戦いの時を待ちます。
定跡のない展開を前に1日目からともに長考が続きます。駒組みが頂点に達した局面で、藤井竜王は6筋の歩を突いて戦端を開きました。角のにらみを生かした後手からの攻めにぴったりとした受けがないと見た渡辺名人も攻め合いで応じ、ここから局面は激しい攻め合いに突入します。渡辺名人が記した封じ手が開封されて2日目の戦いが始まりました。
勝負を分けた2度の角切り
盤面全体を使った押し引きの末、手番を得た後手の藤井竜王は歩の手筋を駆使して先手陣を乱しにかかります。たたきの歩で金を引きつけておいて飛車を走ったのが軽いさばき。直後の十字飛車と連動したこの攻めがうまく、藤井竜王がペースをつかんで盤上は中盤の山場を迎えます。先手の渡辺名人が角交換を迫って開き直った局面が分岐点となりました。
角をかわして穏やかに指す展開も予想された局面で、藤井竜王は角を敵銀と刺し違えて一気の決着を求めます。「終盤は駒の損得より速度」の要領で先手玉への寄せを見た形ですが、こうなると守勢の渡辺名人にも手持ちの角という主張点が生まれました。今度は手番を得た渡辺名人が盤上の角を捨て、後手陣に竜を作って局面は終盤戦に入ります。
華麗な詰めろ逃れの必至で渡辺名人が勝利
自玉に受けがないと見た後手の藤井竜王は質駒の桂を取って下駄を預けます。素直に応じれば竜切りから一気に先手玉を即詰みに討ち取る狙いながら、渡辺名人はここで攻防の決め手を用意していました。後手の守備桂の利きがあるところに角を打ち込んだのがそれで、自玉の詰み筋を緩和しつつ後手玉に必死をかけるという条件を見事に満たしています。
終局時刻は20時20分、最後は自玉の即詰みを認めた藤井竜王が投了。渡辺名人が防衛に向けて大きな1勝目を挙げました。渡辺名人の1勝2敗で迎える注目の第4局は5月21日(日)・22日(月)に福岡県飯塚市の「麻生大浦荘」で行われます。
水留啓(将棋情報局)
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