女優の土屋太鳳が、フジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』(毎週日曜14:00~ ※関東ローカル)のナレーション収録に臨んだ。担当したのは、7日・14日の2週にわたって放送される『人力車に魅せられて 3 ~浅草 女たちの迷い道~』。東京・浅草で人力車に魅せられた女性たちの奮闘を追った作品だ。
このドキュメンタリーの中で、特に親子の関係が印象に残ったという土屋。そして、『ザ・ノンフィクション』でのナレーションという仕事について、「恩返しをしたような気持ちです」と心境を語る――。
■心に刺さった「私は娘に、心からおめでとうと言えませんでした」
番組に登場するのは、大学4年生の俥夫・ミイさん(23)。今でこそ指導する側だが、かつては研修生からの卒業試験に落ち続けた“問題児”で、「すぐに諦めてしまう自分を変えたい」と、歴代最長となる10カ月も研修生を続け、念願の俥夫になった。
自分のように失敗ばかりの研修生を導くことにやりがいを感じる日々を送る中、大学卒業を間近に控え、ミイさんは卒業後の進路に迷っていた。元々は、アナウンサーになることを夢見て就職活動をしてきたが、「このまま東京力車で働きたい」と考え始めていたのだ。しかし、実家の母親は猛反対で、「あなたは何がしたいのか?」と娘を問い詰める…。
今回のドキュメンタリーで、この親子関係が特に印象に残ったという土屋。後編で、ミイさんの大学卒業式に出席した母親が、番組ディレクターに「私は娘に、心からおめでとうと言えませんでした」というメッセージを送っているが、土屋は「このお母さんの言葉が、心に刺さりました。親子の言葉ではあるけれど、どの人にも、どのことにも存在する葛藤だと思います。悩みの種類はいろいろありますが『どうして悩んでしまうんだろう』という悩みは本当につらいですし、人が人に期待してしまうことは愛情の裏返しでもあり、そのコントロールは家族でも難しい…。心に重く刺さりました」と受け止めた。
それを踏まえ、「人生は本当に難しいと思いました。もともと『ザ・ノンフィクション』を子どもの頃からずっと拝見してきて、人生や人の難しさは痛感してきたつもりでしたが、ナレーションは視聴者の立場とは全く違う近い距離感がありました」というだけに、「自分のことのように感情が動くのですが、当事者に近い気持ちになる分、腹立たしさや戸惑いも共感を超えた強さで感じ、驚きました。ですが、この“共感を超えた強さ”こそ、この番組の魅力だと思います」と感じた。
■残酷さを全力の愛情で包む番組
このナレーションという仕事については、「私は映像の仕事から演技の世界に入ったので、顔の表情が存在しない声の仕事にはコンプレックスがありました。そのコンプレックスは、私自身が子どもの頃に声や言葉を出すことが難しく、小さな手術やリハビリを繰り返しながら今に至っている経験からも来ていると思います」と打ち明ける。
それでも、「つらいとき、迷うとき、私はこの番組を拝見し、時には録画して勇気を頂きました。ある意味、今回のナレーションは恩返しをしたような気持ちです」という心境で臨んだそうだ。
そんな『ザ・ノンフィクション』という番組について感じることを聞くと、「共感を超えてしまうほどの生々しい当事者的な感情と、映像の向こうの世界であるという客観的な視聴者の感情の両方が存在する稀有(けう)な番組だと思います。まるでこの番組そのものが、生き物のようです。単にドキュメンタリーというだけでなく、“その後”を追い続けることで人生の波を痛感することができますが、それはとても残酷なことでもあって、その残酷さを全力の愛情で包んでいる番組が『ザ・ノンフィクション』ではないかと思います」と表現。
その上で、今回のテーマについて、「2年という長い間ひとりの人に寄り添いながら、その過去をもひも解いていくところには、『ザ・ノンフィクション』ならではの深さと厳しさがありますし、その深さと厳しさがあるからこそ、観る人の心の深い部分、見たくないとフタをしてきた部分につながる物語だと思います」と見どころを紹介しながら、「何かに迷ったとき、続けるのか別の道を選ぶのか。一見、二択のように見えながら、その迷い自体にヒントがあるのかもしれないと、改めて実感しながら言葉を寄せました」と、語りに込めた思いを話した。
●土屋太鳳
1995年生まれ、東京都出身。08年公開の映画『トウキョウソナタ』で女優デビュー、10年に大河ドラマ『龍馬伝』でドラマ初出演を果たした。翌年のドラマ『鈴木先生』での女子生徒役で注目を浴び、その後も連続テレビ小説『まれ』(15年)でヒロインを演じるなど、活躍を続けている。映画『orange -オレンジ-』(15年)で日本アカデミー賞新人俳優賞に輝き、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』(17年)では同優秀主演女優賞に選ばれた。今後は、映画『マッチング』の公開、舞台『印象派NEO vol.4 「The Last of Pinocchio ピノキオの終わり」』の上演が控える。