俳優がたくさんの役を間断なく演じているとき「何人いるんだ?」という常套句がある。最近の山田裕貴はまさにそれ。大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)で本多忠勝(平八郎)役を1年間演じ続けながら、1月期は月9『女神の教室~リーガル青春白書~』(フジテレビ系)で、主人公を翻弄する変わり者のロースクールの教師役を演じ、4月期の金曜ドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(TBS系)では、突然、現代社会から隔絶されてしまいサバイバル生活を余儀なくされるカリスマ美容師を演じている。

  • 大河ドラマ『どうする家康』で本多忠勝(平八郎)役を演じている山田裕貴

さらに映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』が4月21日に公開され、続いて『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』が6月30日に公開予定となっている。昨年前半は朝ドラこと連続テレビ小説『ちむどんどん』に主人公の姉の夫役を務めていた。毎週月曜24時から放送の『山田裕貴のオールナイトニッポンX』にも出演している。

これだけ連続してテレビドラマや映画に出演すると、パブリシティの取材仕事もあって、ネットニュースにも連日、山田は登場している。認知度が広がり、かつ定着する利点があるが、ともすれば飽きられかねない。だが山田はどの役も工夫して、同じ人物に見えないようにしている。山田当人の個性を引っ込め、それぞれのキャラクター性を際立たせているため、また山田裕貴が出ている、という印象が薄まる。

本多平八郎は黒尽くめの衣裳にギラギラした目つきでどっしりと立っている。『女神の教室』の藍井は前髪で目が少し隠れ気味で思索的な印象を受ける。『ペンディングトレイン』の萱島は丸いサングラスに金髪、『東京リベンジャーズ』のドラケンは漫画原作なので漫画の独特な髪型(剃りあげて片方前髪だけ長く垂らしている。かつらではなく実際剃っていたとか)でインパクト大。

もちろん、演技もその都度違うとはいえ、中身だけ重視して、外見を変えないでいると、なかには同じと思ってしまう人もいるから、そういうツッコミを入れる余地のないほど徹底して見た目を作り込むことは有効である。大事なのは、それだけ手間をかけている、その精神性である。とくに若いうちはそういう手間をかけたほうがいい。四十代過ぎると、そうやってきた経験が顔や身体に刻まれて、当人の味わいになっていく俳優もいるから。山田にはぜひそうなってほしい。

さて、多くの役で、今、とりわけ注目したいのは『どうする家康』の本多平八郎(のちの忠勝)だ。なにしろ1年かけてひとりの人物を深めていけることはなかなかない機会である。

平八郎は徳川四天王のひとりとされている人物で、腕っぷしが強い。主君のために命を賭すことを厭わない。だからこそ、徳川家康(松本潤)には、命を懸けるにふさわしい人物になってほしいと、常に叱咤激励する役割を担っている。素直ではない性格なので、一見、家康に反発しているように見えるが、なんだかんだ言いながら付き従っていて、家臣団にはなくてはならない人物である。

家康についての史実で、家康3大ピンチのひとつ「三方ヶ原の戦い」でも平八郎は活躍する。三方ヶ原の戦いを描いた第17回では面頬をつけ、これから赴く戦場の過酷さを物語っていた。偵察に出た場で武田軍と遭遇、みごとに戦い抜いて戻ってきたとき、血まみれの顔をしているにもかかわらず、かすり傷ひとつ負ってないと嘯き、大久保忠世(小手伸也)にからかわれる場面があった。戦いでかすり傷ひとつ負ったことがないことが平八郎の自慢なのだ。

家康3大ピンチのひとつなので、2回にわたって描かれる三方ヶ原の戦い。第18回「真 ・三方ヶ原の戦い」について山田は、叔父の本多忠真(波岡一喜)に注目してほしいと『TV Bros.』2023年5月号のインタビューで語っている(取材筆者)。「オンエアではバズると思います」とのことである。忠真は酒好きなところがたまにきずだが、彼もまた腕っぷしが強く、平八郎には父代わりのような存在。その叔父が、どうなるのか――。

山田は、叔父上との関係性を表すような芝居や工夫をしているそうで、インタビューで語る話を聞いていると、いろいろ考えて提案していく熱意ある俳優なのだなと思う。

『TV Bros.』の取材で、ほかの番組と平行して撮影していたことも山田は明かしている。そんなとき、松本潤が気遣ってドリンク(プロテイン)をくれたそうだ。家臣団の結束力が高いことを感じる。ラジオでは、ブルーノートで上映された、山田が声優を務める『BLUE GIANT』を殿こと松本潤と見たと語り、『どうする家康』ファンを喜ばせた。

三方ヶ原の戦いは、平八郎のみならず家康にとってもかなり重要な局面になる。この戦いを経て徳川軍はますます結束を固め、戦国の荒波を渡っていくのだ。平八郎もこれからまだまだ活躍していく。なにしろ徳川四天王のひとりなのだから。

大河撮影と平行して、山田は今後もまだまだ仕事を重ねていくのだろうか。でも例えば、歌舞伎俳優はほぼ1年中、劇場に住んでいるかのように連日、芝居に出続けている。一般人が毎日、月から金、朝から夕方まで労働するように本来、役者も労働者のひとりなのかもしれないと思うと、山田裕貴はじつに俳優らしい俳優であるといえるだろう。

(C)NHK