楽天グループは5月12日、2023年度第1四半期の決算を発表した。モバイルセグメントの営業利益は1,026億円の赤字となり、前年同期比で297億円の改善。今後については、KDDIとの新たなローミング契約、新料金プラン「Rakuten最強プラン」などにより、顧客体験の向上から顧客獲得の加速を目指していくという。

  • 三木谷浩氏代表取締役会長

    オンラインの決算説明会に登壇した三木谷浩氏代表取締役会長

  • モバイルセグメントの四半期業績

    モバイルセグメントの四半期業績

  • モバイルセグメントの四半期業績の推移

    モバイルセグメントの四半期業績の推移

新たなローミング契約をふまえた今後の事業方針

決算発表に合わせて開催されたオンラインの決算説明会においては、5月11日に発表されたKDDIとの新たなローミング契約の締結を念頭においた今後の事業方針が示された。

楽天モバイルは、携帯キャリア選択において最重視される価格面では高い評価を受けているものの、通信品質が高いイメージはないという。この通信品質への不満が解約の主な要因となっており、通信品質の改善が解約を抑制する鍵になると分析する。

  • キャリア選択時の要素と楽天モバイルのイメージ

    キャリア選択で最重視される価格面では高く評価されているが、次に選択のポイントとなる通信品質がよいというイメージはない現状

  • 楽天モバイルの解約理由

    通信品質への不満が多くを占める楽天モバイルの解約理由

通信品質の改善についてはこれまで楽天自身のインフラ整備を進め、4G屋外基地局5.7万局/4G全国人口カバー率98.4%と結果を残してきた。しかし現在不満の多い屋内/繁華街などについては、プラチナバンドの利用ができるようになるまでは改善が難しい状況。そこで早急に通信品質とカバー率を一気に向上させるための手段が、KDDIとの提携強化ということになる。

  • 楽天のモバイルインフラの現状

    楽天自身によるインフラ整備も進んでいる

  • 改善依頼がある場所

    現在、改善依頼がある場所の多くはプラチナバンドが必要となる屋内・繁華街・地下だという

KDDIとのパートナーシップにより、人口カバー率は4月末時点の98.4%から99.9%に改善。屋内や繁華街/高層ビルなど現状でつながりにくさが指摘される場所でも、プラチナバンドを持つパートナー回線によりつながりやすくなる。今回、KDDIとのパートナーシップを受けて投入される新プラン「Rakuten最強プラン」ではパートナー回線エリアの利用が無制限となり(従来は通信量が月5GBを超えると通信速度制限)、楽天回線エリアとパートナー回線エリアのハンドオーバーの際のラグも解消されるというため、これらの施策が想定どおりに機能すればユーザーの通信品質への不満は解消されることが期待できる。

  • カバー率拡大の効果

    KDDIとのパートナーシップで、人口カバー率の改善と屋内/繁華街/高層ビルでのつながりやすさが期待できる

  • エリアマップ比較

    パートナー回線エリアが楽天回線エリアとシームレスに利用できるようになることで、他キャリアと同等のカバー率となる

  • 楽天最強プラン

    6月1日よりサービスインする「Rakuten最強プラン」

この新ローミング契約によりローミング費用が上昇し、収支に影響することが懸念されるが、KDDIのインフラを利用することで楽天自身のインフラへの設備投資が抑制できることから、財務へのマイナスの影響は大きくなく、今後ローミング費用が安定的に減少していくことをも含めればむしろ財務の安定性に貢献するという。

  • 新ローミング契約の財務への影響

    新ローミング契約により財務の安定性は向上するという

また新ローミング契約が締結されたとはいえ、引き続きプラチナバンドの割り当てを求めていく姿勢はかわらず、700MHz帯については2023年秋ごろという現状で想定される割り当てスケジュールに則って準備していくという。

  • プラチナバンドの現状

    プラチナバンドの現状

  • プラチナバンドのスケジュール

    プラチナバンドのスケジュール

新ローミング契約による通信品質の向上、新プランの投入以外にも、ワンストップMNPサービスの提供、楽天会員向けのワンクリック開通サービスといった施策で、契約獲得の加速と解約率の正常化を目指す。そして楽天モバイル単体ではなく楽天エコシステム全体の利用拡大、および楽天モバイルの成功による楽天シンフォニーからのシステム外販により収益の改善を図る方針だ。

  • ワンストップMNPサービス

    ワンストップMNPサービス

  • 楽天会員向けのワンクリック開通サービス

    楽天会員向けのワンクリック開通サービス

  • 2023年5月10日時点でのMNO契約回線数は465万件。2023年1月時点では451万件で、回復傾向にあるのは間違いない

  • 解約率の推移

    解約率は減少傾向にあり、新ローミング契約/新プランによる顧客体験向上でさらなる改善を目指す

  • 楽天エコシステム

    楽天エコシステム全体への貢献も楽天モバイルの役割のひとつ

  • 今後想定される収益源

    検討されている新たな収益源

  • 楽天シンフォニーの売上推移

    楽天モバイルのために構築したシステムを楽天シンフォニーから外販するというのも、モバイルセグメントの将来的なビジョン

質疑応答

決算説明会後の質疑応答における、モバイル事業に関連する主なやり取りは以下のとおり。

Q.オンラインのワンクリック契約はデータ通信の契約しかできないということだが、その理由は。また音声SIMへの導入スケジュールは。

三木谷:海外ではポストペイについては本人確認がいらなくなってきているが、日本では役所から音声SIMの本人確認をするよう指導されている。ただ、楽天グループにはカード会員など、本人確認が済んでいるユーザーが多数いるので、そういった対象には2カ月遅れ程度で音声SIMにも導入していきたい。デュアルSIMにしている人など、「最強プラン」を試したいという人にはぜひ試してほしい。いったんデータSIMに移行した後に音声SIMに乗り換えていただくようなことも考えいている。「最強プラン」に移る際の面倒を取り除こうということ。

Q.楽天モバイルは音声SIMのみ提供していると思うが、データSIMのサービスを開始するということなのか。

三木谷:音声SIMと同じ料金で、「最強プラン」を試したいという人向けにデータ通信を提供するということになる。音声を使いたいということになれば、対応しだい乗り換えていただくという形を想定している。

Q.KDDIとの新ローミング契約で、プラチナバンドのスケジュールや展開エリアの計画に変更はあるか。

三木谷:これまで東名阪エリアでKDDIのプラチナバンドは屋内を除いて使ってこなかったが、今後は使うことになる。我々のプラチナバンド獲得については、予定どおり、700MHzおよび800/900MHzとも将来的に考えていく。コストについてはソフトウェア化を進めているので、一定量の導入であればそれほどの費用負担にはならない。

Q.5Gがメインになってきたときの楽天モバイルの競争力についてどう考えるか。5Gがメインになる時期はいつごろと想定しているか。

三木谷:4Gも5Gも電波であり、我々は通信信号をソフトウェアで処理しているので、同じ周波数帯域であればソフトウェアのアップデートで4Gも5Gも処理できる。周波数帯が違うのでハードウェアの更新も必要ではあるが、我々は参入が遅かったぶん、5Gも見据えて基地局のロケーション等も決定しており、5Gだからといって新たなサイトの獲得の必要がない。他社に比べてコスト面で優位なのが仮想化のメリット。Sub-6は衛星放送事業者との干渉問題があり、2024年中に解決されるということなので、それくらいに変わっていく。ただ、プラチナバンドを5Gに変えたからといってパフォーマンスは上がらず、それでは意味がないということを国・監督官庁にも考えてほしい。

Q.「通信の安定性/速度」といって楽天モバイルを最初に思い浮かべる人が0.2%しかいないということをどう受け止めているか。

三木谷:先ほども言ったように、3つのポイントがあると思っていて、ひとつは都市部以外のところ、もうひとつは地下鉄でのコンジェッション(輻輳)、3つめは楽天回線エリアとパートナー回線エリアの間のハンドオーバーの問題。3つとも、今回新ローミング契約で解消されるはず。また、パートナー回線エリアでのデータ通信量が5GBを超えると1Mbpsに速度制限するという設定があるが、それを継続してしまっている人が少なからずいるが、今回その制限がなくなるので、文字通り最強になると思っている。

Q. ユーザー数が底を打って増加に転じていることをどう評価するか。

加入については計画どおり、ワンクリック加入の導入により、これまでの2倍3倍となることを期待している。脱退についてはその理由のほとんどがカバレッジなので、6月1日以降は改善されるはず。