マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の金融政策について解説していただきます。
金融市場では、米国において利上げサイクルが停止され、さらには利下げが開始されるとの観測が強まっています。
米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は昨年3月から高インフレ抑制のために利上げを続けてきました。5月2—3日開催のFOMC(連邦公開市場委員会)で10回連続での利上げを決定したばかりです。
早ければ7月にも利下げ!?
ただし、OIS(翌日物金利スワップ)に基づけば、金融市場が予想する次回6月のFOMCでの利上げ確率は10%に届かず、政策金利据え置きの確率が90%以上です。そして、9月からは(予想期間の来年1月まで)4回連続で利下げが行われるとの観測が強まっています。5月11日に発表された4月CPI(消費者物価指数)の前年比の伸びが3月から鈍化したことで、早ければ7月にも利下げ開始との観測も浮上してきました。
金融市場が積極的な利下げを予想する理由
高インフレと大幅な金融引き締めによって米国経済はリセッション(景気後退)に突入する可能性が高まっています。そうしたなかでインフレ圧力は弱まり、インフレ率は早晩FRBが目標とする2%への低下が展望できるようになると金融市場は予想しています。さらに、今年3月のシリコンバレー銀行の破たんに端を発した金融不安が、金融機関の融資基準の厳格化を通して景気にブレーキをかけるとの見方も強まっています。
FRB自身は利下げを想定せず
もっとも、FRBは上記の金融市場の懸念を共有しつつも、利下げへの政策転換は視野に入れていないようです。5月のFOMC後の会見で、パウエル議長は「FOMCは金融市場の期待ほど早くインフレが鈍化するとはみていない」、「利下げは我々の予想ではない」と、金融市場の先走りをけん制しました。また、「利上げ休止の判断はしていない」とし、「現在の政策金利の水準が(物価目標の達成のために)十分に抑制的かどうかの評価を続ける」と続けて、追加利上げの可能性を排除しませんでした。
5月のFOMC後に明らかになった4月の雇用統計では、NFP(非農業部門雇用者数)が前月比25.3万人増と、金融市場の予想を上回りました。失業率は再び3.4%に低下し、過去半世紀の最低水準に並びました。労働市場は非常に強いとするパウエル議長の発言を裏付けた格好です。
米景気の4-6月期の滑り出しは良好!?
米国の今年1-3月期のGDP(国内総生産)は前期比年率1.1%と、前期の2.6%から伸び率が鈍化しました。ただ、GDPの7割を占める個人消費は同3.7%と、前期の1.0%から大幅に加速しました。1—3月期のGDPは在庫の取り崩しによって足を引っ張られた格好でしたが、次期以降は在庫投資がGDPを押し上げる可能性が高くなっています。
アトランタ連銀(*)のGDPNowという短期予測モデルによれば、5月8日時点で4—6月期のGDPは前期比年率2.7%と堅調が予測されています。まだまだ投入されるデータ数が少ないので、今後予測は大きく変わるかもしれませんが、4—6月期の経済の滑り出しは悪くないようです(上述の雇用統計もGDPNowに投入されるデータセットの1つ)。
(*)FRBの傘下にある12の連邦準備銀行(地区連銀)の1つ。地区連銀はワシントン本部の指示を仰いで各地区の中央銀行の役割を果たします。
6月の「ドット・プロット」に注目
やや古いですが、3月のFOMCで発表された政策金利見通し、いわゆる「ドット・プロット」の中央値では、23年末の政策金利予想は5.00-5.25%で、現行水準と同じでした。24年末の政策金利予想が4.25%だったので、利下げは24年になってからと解釈できます。
次の「ドット・プロット」が発表されるのは6月13-14日のFOMCです。そこでどんな政策金利見通しが示され、それを金融市場がどう受け止めるのか、大変興味深いところです。