日本マイクロソフトは品川オフィスにてメディア向けに「Surface Lab Tour」を開催。SurfaceシリーズのPCにどのような素材を使い、どのような設計哲学に基づいて開発されているのか。米国本社からSurfaceシリーズの開発に携わる数名の担当者が来日し、詳しく解説した。

  • 日本マイクロソフトが「Surface Lab Tour」を開催。Surfaceシリーズの開発に携わるキーパーソンたちが来日して解説してくれた。左から、CVP of Surface Product + ExperiencesのPete Kyriacou氏、Design LeadのKaeling Gurr氏、Human Factors TeamのEdie Adams氏、Surface Product TeamのCarlos Carrasco氏、Prototyping TeamのJohn Haley氏

ユーザーの創造性の向上をサポート

今回のSurface Lab Tourは、今年(2023年)1月に米ラスベガスで開催された「CES2023」で公開された内容を含む形だ。冒頭、MicrosoftのCVP of Surface Product + ExperiencesのPete Kyriacou氏が概要を説明した。

Surfaceシリーズの目指す方向として「ユーザーの創造性と生産性の向上」を第一に掲げており、そのためには「目の前にあるデバイスは背景にフェードインすることが理想」とまで考えているようだ。

「ハードウェアとソフトウェアを連携させ、その人が可能な限りもっとも創造的な作業に没頭できるようにしたい」(Pete氏)

  • クラムシェルタイプの「Surface Laptop 5」

デザインチームのKaeling Gurr氏は、2in1のSurface Pro 9を例にその機能性について紹介していく。キックスタンドは「私たちがユーザーに提供するシンプルな体験」としつつ、過去9世代にわたって使いやすいものに改良してきたとする。

  • ヒンジを3Dプリントしたものも展示(右)。開発チームが可動域の全体を確認できるよう、また今後の研究に活かせるよう、あえて実際のヒンジの何倍も大きなものを作っている

プロトタイピングチームのJohn Haley氏は、さまざまなチームと連携を取り合って試作(Prototyping)を生み出していると紹介する。たとえばワイヤレス接続のためのアンテナをどの位置に配置するか。Surface Pro 9のSIMフリーモデルなら、Wi-Fi、Bluetooth、5Gのアンテナを積んでいる。

  • アンテナをどこに配置するともっとも感度が高くなるか

Surface Slim Pen 2の試作モデルも展示されていた。やはり実物よりかなり大きなサイズの3Dプリント製で、ペンの内部コンポーネントをすべて見られる仕様。フォルムがどこかかわいらしい。

「表面材についても、最終製品に到達するまで何千回も繰り返し検討を重ねていきます」(John氏)

  • 3Dプリント製のスリムペン

  • 限られたスペースをどう使うか

ユーザーは毎日のようにPCを開いて作業をスタートさせ、仕事を終えたときに閉じる――。この単純な行為もユーザー体験のひとつであり、Microsoftは「One Finger Opening」にこだわりを持っている。Surface Laptopなど、デバイス前面のどこからでも指1本で簡単にPCを開けることができるという設計だ。

「(開けやすさは)すべてのラップトップで個別に最適化されており、ちょうどいい重量バランスになっています」(Kaeling氏)

  • 「One Finger Opening」へのこだわり

続いてEdie Adams氏は、ヒューマンファクターについて解説する。Edie氏が所属するチームは、生物医学技術と視覚および神経科学の人々で構成されている。

「PCのハードウェアとソフトウェアは、エンドユーザーにどのような刺激をもたらしているのでしょうか。その実態を解明しようと研究しています」(Edie氏)

具体的には、ユーザーが何を見て、どんな操作をし、そのとき何を感じているかを分析している。脳内の活動を探ることで、UXの向上に役立てるという。

  • どんなときに、人の脳は活動が高まる?

「優れたユーザー体験を生み出すために、多くの労力を投入しています。たとえばキーボードであればその動き、質感、キーから得られる感触、すべてに焦点を当てています」(Edie氏)

肉眼では平らに見えるキーボードも、表面には0.3ミリの凹みをつけている。

「非常にささいなことですが、これにより指先をキーボードに置いたときに正確さと快適さを提供できると考えています」(Edie氏)

また、Microsoftは2030年までに廃棄物をゼロにすることを宣言している。そのため、製品にも持続可能性を組み込む方法を模索中だ。たとえばサトウキビなど、バイオテクノロジーの一部をすでに採用済み。プロダクトチームのCarlos Carrasco氏は、Surfaceシリーズに使われているバイオテクノロジーを紹介した。

  • 持続可能性を確保するために、タイプカバーなどにバイオテクノロジーを採用している

  • タイプカバーの表面素材ひとつとっても、相当な試作数になるとか

最新のSurfaceシリーズは、底面のネジを外すと上部が簡単に外れる仕様(一部を除く)。マシンの特定部分へと比較的簡単にアクセスでき、SSDドライブの交換といった作業性も考えられている。こうした設計は「セキュリティ向上にも役立つ」(Carlos氏)という。

  • 背面にSSDの収納とSIMスロット。SSDドライブの交換・破棄も簡単になった

  • 内部構造を見るのは楽しい

  • テスト環境を再現したもの

サウンドもこだわりのひとつ。Surfaceでもスピーカーとマイクの音だけでなく、ユーザーがタイピングしたときの音、PCを閉じたときの音など、すべてに気を配って設計しているという。

Windows 11で導入した新しい要素には「タッチの改善」(Kaeling氏)も含まれる。28インチのタッチスクリーンを備えるSurface Studio 2+を紹介しながら「強力なヒンジによって使いやすくなっており、大きな画面でタッチ操作したり、Windows 11のジェスチャーを使用したりするのに適しています」とアピールする。Surface Slim Pen 2に搭載した触覚信号についても触れ、「スクリーン画面に手描きするときに紙の質感も再現します」と紹介した。

PCの多面的なユーザー体験はどのメーカーも研究していると思うが、PCに触れるとき1つ1つの細かいところも気にしてみると、次のマシンに買い換えるときにより自分好みの1台を選べるようになるだろう。

  • Surface Studio 2+を操作するKaeling氏

  • Surface Slim Pen 2の触覚信号は、ぜひ試してみたい機能