2023年4月から、デジタルマネー(電子マネー)による給与の支払いが解禁されました。キャッシュレスで給与が支払われれば、銀行口座からお金を引き出す手間が省けるなど、従業員にとってもメリットがあるでしょう。
今回は、デジタル給与の仕組みや他の支払い方法との違い、従業員にとってのデジタル給与のメリット・デメリットを解説します。
■デジタル給与はどんな制度?
<デジタル給与とは>
デジタル給与(給与デジタル払い)とは、銀行口座に振り込むのではなく、スマートフォンの決済アプリや電子マネーを利用して給与を支払うことができる制度です。会社が従業員にデジタル給与を振り込むには、会社と従業員の「資金移動業者」の口座間において、デジタルマネーを移動させます。
資金移動業者とは、銀行以外で送金サービスが行える登録事業者のことで、2023年現在、84の業者が登録されています(※)。「PayPay」や「メルペイ」などの「○○ペイ」、または「d払い」などを提供している事業者だとイメージするとわかりやすいでしょう。デジタル給与は、こうした「○○ペイ」などで給与が受け取れるのです。
デジタル給与の場合、これまでの銀行口座への振込とは違い、銀行を介さずに、会社から従業員の資金移動業者のアカウントへ直接資金が移動します。また、現金支払いのように、従業員に現金を渡す手間をかけることなく給与を支払うことができます。
(※)財務省関東財務局「資金移動業者登録一覧」参照
<デジタル給与が解禁された背景>
これまで、従業員への給与の支払いは、銀行口座や証券口座への振込を例外として、「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と労働基準法24条に定められていました。
しかし、急速に推し進められるキャッシュレス化やデジタル化の流れを受け、2022年11月、厚生労働省は、デジタル給与の導入に関する労働基準法の改正省令を公布しました。これにより、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座に限り、従業員への給与をデジタルマネーで支払えるようになります。
この改正省令は2023年4月から施行され、資金移動業者は、給与支払いに対応した業者となるための指定申請が行えます。ただ、審査から承認までは数ヶ月かかるとされており、さらに、会社でデジタル給与の仕組みを採用するには、会社単位で労使協定の締結が必要です。
そのため、制度はこの4月から始まるものの、実際に会社で給与デジタル払いが実施されるまでには、まだしばらく時間がかかることが見込まれています。
<デジタル給与を利用するには>
デジタルマネーで給与が受け取れれば利便性がよくなりますが、デジタル給与を利用したい場合はどうすればいいのでしょうか。会社がデジタル給与の制度を導入するには、指定された資金移動業者を選んだうえで、会社単位で労使協定の締結をする必要があります。
そのうえで、従業員がデジタル給与の支払いを希望した場合のみ、デジタルマネーで給与を受け取ることができます。
なお、デジタル給与を受け取るためには、資金移動業者の口座のほかにも銀行口座を登録する必要があります。そのため、国籍などの関係で銀行口座を作ることが難しい外国人や、何らかの事情で日本の銀行口座を持っていない人の場合、デジタル給与は利用できません。
■デジタル給与のメリット
デジタル給与が利用できるようになると、給与を受け取る従業員にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
チャージの手間が省け利便性がよくなる
電子マネーを利用するには、通常、電子マネーにお金をチャージする必要があります。しかし、デジタル給与では、給与が資金移動業者の口座に直接支払われますので、これまでのようにお金をチャージする手間が省けます。
「電子マネーを日常的に使用している」「ほとんどの買い物をキャッシュレスで済ませている」という人にとっては、お金をチャージする手間がなくなり、キャッシュレス決済の利便性がさらに向上するでしょう。
給与の一部をデジタル給与で受け取れる
デジタル給与の利用を希望する場合、従業員は会社へ同意書を提出する必要があります。その際、デジタル給与として受け取る範囲や金額を従業員自身が設定できます。
「給与のうち3万円だけをデジタル給与で受け取る」「ボーナスはデジタル給与で受け取らず、銀行口座への振込にする」などと決めることも可能です。
給与のうち、自分がキャッシュレスで使う分だけデジタル給与で受け取れば、銀行口座にお金が残らない、口座引き落としにしている生活費の支払いが不便になるといった事態を避けることができます。
支出管理をアプリ上で行える
給与の一部をデジタル給与で受け取ることもできますが、反対に、デジタル給与にまとめることで、電子マネーのアプリで一括して支出管理ができます。
残高もわかりやすいため、お金をいくら使えるのか確認しながらの計画的な買い物に役立ちそうです。
■デジタル給与のデメリット
デジタル給与は便利な一方、以下のようなデメリットもあります。
希望の資金移動業者が利用できない場合もある
自分が希望する資金移動業者では、デジタル給与が受け取れない場合もあります。デジタル給与で利用できる資金移動業者は、厚生労働省が認可した資金移動業者に限られるからです。
また、デジタル給与での受け取りを希望しても、会社の労使協定で締結された資金移動業者と、自分が希望する資金移動業者が異なるケースも考えられます。
その場合は、会社が指定する資金移動業者の口座を新たに作る、もしくは、デジタル給与での受け取りを諦めなければなりません。
口座入金額に上限が設けられている
資金移動業者の口座は預貯金口座とは異なり、あまり多くのお金を置いておくことはできません。資金移動業者の口座に入金できる金額の上限は、100万円に設定されています。そのため、給与やボーナスをデジタル給与で受け取る場合は、口座残高が100万円を超えないよう、あらかじめ資金を銀行口座に移すなどしておく必要があります。
資金移動業者の口座残高が100万円を超えると、自動的に、事前に登録した銀行口座へ資金が移動されます。その場合、送金手数料が従業員の口座から差し引かれることがありますので、口座残高が100万円を超えないよう調整しましょう。
口座残高の金額が大きくなり過ぎないよう、ボーナスの受け取りはこれまで通り銀行口座への振込にするといった工夫が必要です。
■デジタル給与でキャッシュレスがより便利に
2023年4月からデジタル給与が解禁されましたが、実際にデジタル給与が受け取れるようになるにはまだしばらく時間がかかりそうです。また、そもそも、勤め先の会社がデジタル給与を導入しなければ、デジタルマネーで給与を受け取ることはできません。
しかし、キャッシュレスで給与が受け取れるようになれば、買い物や支払いがこれまで以上に便利になるでしょう。キャッシュレス化やデジタル化の波に乗り、今後多くの企業が、新しい給与の支払い方法としてデジタル給与を導入するかもしれません。