トヨタ自動車の高級車「クラウン」がSUV中心のモデルラインへと転身を図ったことについては賛否がわかれているようだが、少なくとも新型クラウン第1弾の「クロスオーバー」は受注好調な様子だ。これからのクラウンはどうなるのか、追加情報を基に考えてみた。

  • トヨタの新型「クラウンクロスオーバー」

    新型「クラウン」の第1弾「クラウンクロスオーバー」は好調な様子。2023年3月の登録台数は5,303台と受注も順調に推移しているようだ

「スポーツ」は人気爆発の予感?

新型クラウンはセダンとSUVを融合したスタイルの「クロスオーバー」、ミッドサイズSUVの「スポーツ」、ラージSUVの「エステート」、ラージセダンの「セダン」という4種類のラインアップとなる。第1弾のクロスオーバーは2022年9月に発売済み。残り3タイプについては先ごろ、追加情報が発表になった。内装デザインやボディサイズなどが主な内容だ。

  • トヨタの新型「クラウンスポーツ」
  • トヨタの新型「クラウンスポーツ」
  • 新型「クラウン」のミッドサイズSUV「スポーツ」。ボディサイズは全長4,710mm、全幅1,880mm、全高1,560mm。パワートレインはハイブリッド(HEV)とプラグインハイブリッド(PHEV)。発売予定時期はHEVが2023年秋ごろ、PHEVが2023年冬ごろ

  • トヨタの新型「クラウンセダン」

    ラージセダン「セダン」は全長5,030mm、全幅1,890mm、全高1,470mmでパワートレインはHEVと燃料電池自動車(FCEV)。発売は2023年秋ごろの予定

  • トヨタの新型「クラウンエステート」

    ラージSUV「エステート」は全長4,930mm、全幅1,880mm、全高1,620mmでパワートレインはHEVとPHEV。発売は2024年の予定

新型クラウンの第2弾と目されるミッドサイズSUV「クラウンスポーツ」は、一部のメディアやジャーナリスト向けにプロトタイプの試乗会が行われ、その情報が報道されている。実は筆者も新型クラウンスポーツの姿を4月下旬に目撃したのだが(大胆にも公道を偽装なしで走行していたのですぐに気がついた)、その力強いスタイルはSUVブームにばっちりはまっていて、クロスオーバー以上に人気が出そうな予感がした。

  • トヨタの新型「クラウンスポーツ」

    2022年7月の発表会で撮影した「クラウンスポーツ」

「エステート」が担う役割とは?

明かされた情報だと、新型クラウンのスポーツとセダンは2023年秋、エステートは2024年に発売予定とのこと。セダンは先代までの流れをくむ後輪駆動の正統派だが、従来のクラウンよりもボディサイズが大きくなる。

SUV系の新型2台はクロスオーバーと同じくFFベースの4WDだ。パワートレインはハイブリッドに加え、プラグインハイブリッド(PHEV)も用意するという。

この2台で注目したいのはボディカラーだ。クラウンスポーツの宣材写真が昨年同様、スポーティーな赤を採用している一方で、クラウンエステートは落ち着きのあるブロンズに変わっている。今回が初公開の内装も、エステートは落ち着いた色合いのファブリックシートだ。おそらくエステートは、スポーツよりも大人な世界観を目指しているのだろう。

ただ、エステートの足元には引き続き、赤いブレーキキャリパーが備わっている。ここから想像すると、エステートでは快適性を重視したコンフォート系のグレードと、従来の「アスリート」のようなスポーティーなグレードを展開するのかもしれない。発売もエステートが最も遅いので、商品力の磨き上げも図ってくるはず。このクルマが、セダンタイプの従来型クラウンからSUVに乗り換えたいと考えるユーザーの受け皿として重要な役割を担うことになりそうだ。オールマイティなSUVとして、エステートが新型クラウンの象徴的存在となるのかも? そんなことも考えた。

  • トヨタの新型「クラウンエステート」

    2022年7月の発表会で撮影した「クラウンエステート」。初披露の際には鮮やかな黄色系のボディカラーをまとっていた

セダンについては、ボディ形状からして後輪駆動車だろうと思っていた。ベースには、トヨタの大型後輪駆動車用のプラットフォームが活用されるようだ。パワートレインはハイブリッドに加え、同じく後輪駆動車のFCEV「MIRAI」も使っているシステムを採用し、クラウンシリーズで唯一のFCEVを用意する。

  • トヨタの新型「クラウンセダン」

    2022年7月の発表会で撮影した「クラウンセダン」。前輪タイヤの位置から後輪駆動車であることが予想されていた

なぜセダンは後輪駆動車にこだわるのか? そんな疑問もあるかもしれないが、後輪駆動車は前後の重量バランスがよくて重心が低いので、走りや乗り心地のいいクルマが作りやすい。高級車の市場には、まだまだセダンを欲しがる顧客がいるのも事実。メルセデス・ベンツやBMWなどの世界的な高級車メーカーが、エンジン車だけでなく電気自動車(EV)でも大型セダンを継承していることからもニーズがあるのは明らかだ。またトヨタとしては、今の資源を最大限活用したFCEVを用意したかったということもあるだろう。

新世代クラウンは世界戦略車でもあるため、高級セダンのニーズがある国にクラウンセダンを供給することも可能。国内では需要が少ないかもしれないが、国産大型セダンの選択肢はトヨタとレクサス以外にないので、一般ユーザーだけでなくタクシー、ハイヤー、公用車、送迎車などを独占できるのも強みとなる。セダンを残すことで、伝統の高級車であるクラウンのブランドイメージもアピールできるはずだ。

何かと話題となることの多い新生クラウン。「クラウンといえばセダン」というのが常識となっていた側面があるので、今回の新型クラウン、特にSUV系クラウンに対しては戸惑いを覚える人もいるだろう。

ただ、クラウンだってセダンだけでやってきたわけではない。初代クラウンはセダンのみだったが2代目にはステーションワゴンの「カスタム」があったし、3代目にいたってはスタイリッシュな2ドアハードトップに加え、なんと商用仕様であるピックアップトラックやライトバンも設定していた。クラウンの名に恥じない性能や品質を追求しつつも、顧客のニーズに応じたモデル展開を行ってきた歴史がある。そんな経緯を踏まえると、SUVブームなのにクラウンでSUVが選べなかったことが、むしろ不思議な気すらしてくる。技術や流行の最先端を追求するのも、クラウンの流儀なのだ。