ナス生産の動向

ハウス内でのナス栽培は、ホルモン処理や、交配用ミツバチによる着果処理が広く行われてきましたが、これらの処理は労力がかかることから、新たな技術の開発が、ナス産地にとって重要な課題となっていました。この状況のなか、近年注目を集めているのが、着果処理を必要としない「単為結果性」をもつナス品種です。

タキイ種苗では、単為結果ナスのシリーズ化を目指して品種開発を進めており、2017年に九州を中心に使用される長ナスタイプの「PC筑陽」、2021年には高知県のハウス促成栽培向けに「PCお竜」を発表しました。これらの品種を導入した産地では、その省力性が高く評価されており、普及拡大が急速に進んでいます。

今回、単為結果ナスシリーズ第3弾として発表する「PC鶴丸」は、関東地方を中心に産地が広がるハウス半促成栽培をはじめ、あらゆる作型に適した長卵形品種です。濃い黒紫色でつやのある果実が、着果処理なしに安定的に収穫できることが、最大の魅力です。

また、果肉がしっかりと詰まっており、輸送性や日もち性にすぐれることも特長の一つです。2020年から、群馬県のハウス半促成栽培にて試作を実施しており、その高い単為結果性と秀品性のよさが高く評価されています。

品種特性

強い単為結果性(関連特許出願済)

「PC鶴丸」の開花時の花には、通常品種よりも高い濃度のオーキシンが元々含有されており、これが単為結果を引き起こす一因です。これにより、高温期や厳寒期といった厳しい環境下であっても、安定的に高い単為結果性を発揮することができます。

特に、作期が盛夏期にかかるハウス栽培では、梅雨明け以降に、ハウス内が極めて高温になる条件においても、着果力が劣ることなく単為結果性が発揮されます。

高い秀品性

果形は、首太でボリューム感のある長卵形で、従来品種によく見られるような曲がり果や奇形果も少なく、時期を問わず高い秀品率を維持します。また、果実は濃い黒紫色でつやがあり、高温期の色ボケ果の発生が少ないことも特長です。

すっきりとした草姿で 栽培管理が簡単

葉が小さくすっきりとした草姿をしているほか、側枝が過繁茂になることも少なく、日々の整枝管理が比較的簡単にできます。また、枝が間伸びしにくく草丈がコンパクトになるため、低軒高ハウスでも扱いやすく、作りやすい品種です。

緻密な果実で店もちがよい

歯切れがよい薄めの果皮をもつ一方で、果肉はやや固めでしっかりと詰まっており、輸送性や店もち性がよいことが特長です。炒め物や煮物、焼きナスなど、幅広い用途の料理に適します。

適作型

最適作型は10~12月まきのハウス半促成栽培です。コンパクトな草姿は、春先の定植後に行う小トンネルによる保温管理も容易なほか、低温期の着果性もよく、初期収量が上がる品種です。そのほかにも、ハウス促成冬春栽培や夏秋栽培など、さまざまな作型に適します。

栽培ポイント

強い単為結果性をもつ「PC鶴丸」は、開花した花がほとんど着果肥大することから、従来の非単為結果品種に比べて、着果負担がかかりやすいという性質があります。長期間にわたって草勢を維持するためには、根張りを強く健全に保ち、いつでも十分な量の水や肥料を吸収できるようにしておくことが、最大のポイントです。この点に着目して、栽培要点を説明します。

本圃の準備

生育初期からしっかりとした根張りを促すためには、まず、根が張りやすい圃場を準備することが大切です。圃場づくりの際は、できるだけ深耕して十分に堆肥を施し、保水性を高めておきます。

接ぎ木栽培

接ぎ木は、土壌病害の回避と草勢維持の手段として有効です。「PC鶴丸」の着果力を最大限に生かして、良品多収をねらうためにも、接ぎ木栽培を原則としましょう。台木品種には「トレロ」や「トナシム」などの強勢台木を使用しますが、青枯病の被害が発生する圃場では、耐病性のある「台太郎」がおすすめです。

適期定植と樹作り優先の管理

単為結果性をもつ「PC鶴丸」の定植は、1番花のつぼみが膨らんできた状態の、やや若苗が適期です。老化苗の定植は、定植後の発根が遅れて根張りの確保に時間がかかり、生育バランスを崩しやすくなるため、避けてください。定植後しばらくの間は、根張りと樹作りを優先させるような栽培管理に努めます。また、活着不良や草勢低下を招いた場合は、適宜、摘花(摘果)を行い、過度な着果負担を避けます。

肥培管理

追肥は、最初の収穫果実が肥大しはじめたタイミングから開始し、以降は定期的に行います。草勢や収量に応じて、従来の非単為結果品種よりも、日数間隔を詰めて追肥することも上作のポイントです。粒状肥料や液肥による施肥が基本ですが、低温期や根傷みで追肥が効きにくい際は、葉面散布や発根促進剤の施用も効果的です。根のはたらきが悪くなると、果実に焼けやガク枯れなどの生理障害が発生しやすくなるので、できるだけ根を健全に保つようにしましょう。

低温期の温度管理

ハウス半促成栽培などの春先定植の場合は、定植後の最低地温は14℃以上が理想です。日中は、ハウス内の気温上昇に合わせて換気を進めますが、急な換気によって、ハウス内湿度を一気に下げすぎないよう、徐々に換気窓を開けるようにします。急な乾燥は、草勢低下や生理障害果の発生を助長するので、注意しましょう。

また、ハウス促成栽培など、収穫が厳寒期にかかる作型の場合は、収穫期間中は最低夜温12〜13℃を維持し、夜温が過度に低くならないよう管理することが必要です。

「PC鶴丸」は葉が小さく、枝が間伸びしにくいコンパクトな草姿のため、作りやすい品種

(執筆:タキイ研究農場 河西 孝昭)