ソフトバンクは5月10日、2023年3月期の決算を発表した。連結業績は、前期比約2,213億円の増収、約946億円の増益。通信事業では、ワイモバイルブランドが好調に推移したこともありスマホ契約数は168万件の増加となったが、通信料の値下げによる平均単価の減少などでコンシューマ事業セグメントの利益は前期比1,770億円の減益となっている。
連結業績は増益増収、「営業利益1兆円」の中期経営目標を達成
2023年3月期の連結売上高は前期比3.9%(2,213億円)増の5兆9,119億9,900万円、営業利益は同じく9.8%(946億円)増の1兆601億6,800万円と、増収増益の決算となった。なおこの数字には、2023年3月期にあったPayPay株式会社の子会社化にともなう段階取得に関わる差益2,948億円が含まれている点には注意されたい。
この内容は、2022年11月発表の業績予想の情報修正には満たなかったものの、2022年5月の期初予想および2020年8月に発表した「2023年3月期に営業利益1兆円を達成する」という中期経営目標を達成するものとなっており、ソフトバンク株式会社 代表取締役社長執行役員兼CEOの宮川潤一氏は決算説明会において、「通信料の値下げで事業環境が変化する中、考えられる施策をうったことで掲げた事業目標を達成でき、安堵している」と語り、株主還元についても計画どおり実施するとした。期末配当は43円で、年間配当は前期と同じ86円となる。
コンシューマ事業セグメントは増収減益
コンシューマ事業セグメントの業績は、先の宮川社長のコメントにもあったとおり、通信料値下げの影響を大きく受けており、売上高は4億円増の2兆8,831億円、セグメント利益は1,770億円(27.7%)減の4,624億円という増収減益の決算。サービスごとの売り上げを見ると、モバイルサービスで945億円、ブロードバンドで78億円、物販等で511億円の減収となっており、それを1,539億円の増収となった電力サービスが埋めるという内容となっている。
モバイルの売上の減少は、ソフトバンク/ワイモバイルの両ブランドにおける新料金プラン導入、ソフトバンクからワイモバイル/LINEMOへの移行による平均単価の減少の影響によるもの。ブロードバンドについては、「SoftBank 光」の契約数は伸びているものの、キャンペーン施策により平均単価が減少したことが減収につながったとしている。物販については、機種変更の減少により端末販売台数が減少したことが影響したという。これを埋めた電力サービスの増収は、主として電力市場での取引量の増加と価格の上昇を要因に挙げている。
ソフトバンク/ワイモバイル/LINEMO/LINEモバイルのすべてを合算したモバイルサービスの事業データを見ると、回線数は277万2千件増の5,228万1千件で、このうちスマートフォンは2,926万2千件、通信モジュール等が1,262万1千件。2023年3月末で公衆サービスを終了したPHSも、その時点で6万4千件が残っていた。また期中のスマートフォン契約数の純増は168万2千件で、前期よりも2万7千件の増加となっている。
総合ARPU(1契約あたりの月間平均収入)は4,070円から3,850へ220円の低下となっており、宮川氏のいう通信量の値下げによる影響があらわれている。
法人事業/流通事業はともに増収増益
法人事業は、売上高が前期比346億円(4.8%)増の7,503億円、セグメント利益が前期比66億円(5.2%)増の1,351億円。売上増は主として通信売上の増加によるものだという。
流通事業は、売上高が前期比895億円(17.9%)増の5,900億円、セグメント利益が前期比14億円(6.0%)増の243億円となっている。売上増の主な要因は、ICT関連の商材およびクラウド/SaaSなどのサブスクリプションサービスの伸長によるもの。
ヤフー・LINE事業はコマース/フィンテック領域の売上増で増収増益
ヤフー/LINEブランドののメディア・コマースサービス、ZOZO/アスクルグループのコマース、今後の収益の柱を目指すFinTechサービスなどを展開するのがヤフー・LINE事業領域。期初の時点ではPayPayを中心とする金融事業もこの領域に含まれていたが、期中に新たに「金融」セグメントが追加され、そちらに移動している。
ヤフー・LINE事業の売上高は前期比402億円(2.6%)増の15,617億円、セグメント利益は前期比3億円(0.2%)増の1,597億円。なお今期の業績の比較対象となる前期業績も、前述の金融事業のセグメント見直しを反映して訴求修正されている。
売上の内訳をみると、メディアが5億円(0.1%)減、コマースが255億円(3.2%)増、戦略売上が155億円(24.5%)増、その他が2億円(1.5%)減となっている。メディア売上は、LINEのアカウント広告とヤフーの検索広告の増収と、ディスプレイ広告の減収が相殺している状況。コマースの売上増は、アスクル/ZOZOの両グループ取扱高の増加、経済活動の再開に伴う旅行関連の売上増によるものだという。戦略売上は主にFinTech領域での売上増。
なお、アスクル/LINE両グループの売上原価増、LINEグループの人件費増などで営業費用も前期比で399億円(2.9%)増加し、14,019億円となっている。
新たに設けられた金融事業セグメントは110.8%増収も124億円の損失
PayPay株式会社、PayPayカード株式会社、SBペイメントサービス株式会社、PayPay証券株式会社などから構成される金融事業は、2022年10月1日付けでPayPay株式会社を子会社化したことに伴って追加されたもの。売上面・費用面のいずれでもこの子会社化の影響を大きく受けており、売上高は前期比748億円(110.8%)増の1,423億円、セグメント利益は前期比268億円減の124億円の損失となっている。
2024年3月期の連結業績予想は売上6兆円/営業利益7,800億円
2024年3月期の連結業績予想は、売上としては80億円(1.5%)増の6兆円を見込む一方、営業利益については、2,802億円(26.4%)減の7,800円と減益を想定。これは2023年3月期にあったPayPay株式会社の子会社化にともなう段階取得に関わる差益2,948億円がなくなるためで、この差益分を除いては増収を見込んでいる。
各事業セグメントについては、コンシューマ事業が通信料の値下げの影響を見込みつつ、スマホ契約数増や減価償却費の減少による増益を予想。法人事業ではソリューションサービス、流通事業ではサブスクリプションサービスの拡大を見込んでおり、グループ内再編で事業の効率化が見込めるヤフー・LINE事業とあわせ、増益を予想している。金融事業セグメントについては、2022年10月1日に子会社化したPayPay株式会社の第2四半期連結累計期間の損失が今回の決算に含まれていない影響などがあり、減益を見込んでいるという。