新生活をスタートさせてから、早くも一か月が過ぎようとしています。新型コロナウイルスの影響で、これまで当たり前だったことすら困難に。授業もリモートが当たり前、そんなコロナ禍の3年間でリアルなコミュニケーションが激減してしまった学生たちが、今年度より新社会人として働き始めています。

「就労支援センターでは、リモートワークになってからうつになってしまったという人も増えました。そのため、新卒のメンタルクライシスが、これから先の2年間で爆発的に増えるであろうと考えています」

そう話すのは、Je respire代表取締役の臨床心理士・松島雅美先生。精神科クリニックやスクールカウンセラー、就労支援センターなど、これまでに25000人以上のカウンセリング経験があるいわばメンタルのスペシャリストです。

なぜ今年の新社会人がメンタル危機に瀕しているのでしょうか。また、メンタルケアの重要性やその方法について紹介していきます。

■心は「脳」にある!?

気分が落ち込んでいるときや悲しいときは「メンタル(精神面)が弱っている」と表現することも多いのではないでしょうか。みなさん、心は体のどこにあると思いますか? もちろん、心臓でしょ。いやいや、それは違うみたいです。

「心は脳にあり、心の状態は脳によって作られています」

メンタルがあるのは、なんと『脳』。松島先生いわく、人はメンタルに関係する脳の部位(メンタル脳)が機能低下すると、メンタル不調を起こしてしまうことがあるそうです。

  • 臨床心理士・松島雅美先生

そのメンタル脳の1つが、脳の最高司令塔と言われる「前頭前野」。ここは感情をコントロールする、状況に合わせて判断する、意思決定するなど多くの働きを担っています。実はこの前頭前野は、快・不快に反応する「扁桃体」と言われるもう1つのメンタル脳と密接な関係にあるそうです。

人は扁桃体が過敏になると不快を強く感じやすいそうですが、前頭前野が活性化していると扁桃体は落ち着くのだとか。しかし、近年のリアルコミュニケーション不足により、これら2つのメンタル脳の機能低下が引き起こされ、その結果2つの問題が浮上していると先生は話します。

「1つは社会性いわゆる共感力の機能低下です。人は情動伝染といって、(特に対面コミュニケーションで)共感細胞が働き、他者に共感するというメカニズムがあります。ですが、その機能を使う機会が減少したことで、共感力(脳機能)が低下してしまったのです」

さらに、リアルコミュニケーションの機会喪失は自己理解の機能低下も招いたそうです。

「人間は、他者との関わりの中で自分の長所や得意なことを見つけていきますよね。その中で、できないことを受け入れ、工夫することを身に付けていきます。ですが、コロナ禍の3年間で(他社との関わりを必要とする)社会生活のリハーサルができなかったばかりに自己理解の機会を喪失してしまったのです」

さらに先生はこう続けます。

「それにより『できるだろう・知っている』と思っていたことが、いざ社会へ出たとき全くできず、壁にぶち当たってしまうのです。社会生活のリハーサルができていないためできないことを受け入れられない、工夫や相談の仕方も練習をしていないためわからない。その悪循環が最終的に、他者批判や自己批判、辞職や休職といった現実逃避へつながってしまいます。これは本人はもちろん、会社側にとっても大きな問題です。上司にも心身のダメージがあり、生産性低下にもつながってしまいます」

そう、新卒のメンタル危機は、本人たちはもちろん会社全体にとって大きなダメージを与える可能性があるのです。

■不安を感じやすい日本人に必要なメンタルケアとは?

「日本人のメンタル特性として、遺伝子レベルで不安を感じやすい民族であることが分かっています」

世界的に見ても日本人は不安を感じやすい脳であるのに、ストレス対処の方法を学ぶ機会が少ないため、日本人の3人に1人がストレス耐性が弱いと感じているというデータも出ているそうです。とすれば、より一層メンタルケアが重要になってくるこの時代、どのようにメンタルケアをしていけばよいのでしょうか?

「誰にでもできる『メンタルブレス』という方法の1つとして1日3分ででき、アスリートも実践しているストレッチを紹介します。これは前頭前野を元気にするものです」

メンタルを元気にするための土台である前頭前野を活性化する簡単な方法の一つに、アスリートも実践している「眼球体操」があります。そのやり方はこちら。

  • 眼球を動かすストレッチ①首を固定して眼球のみを動かすのがポイント

  • 眼球を動かすストレッチ②

「このストレッチは毎日続けることで効果が期待できるので、疲れたなと思ったときや、朝のリセットとして行うことがいいと思います。デジタル文化が普及し、あまり目を動かさなくなってしまっている今、特に眼球運動を大事にしてみてくださいね」

このほか、メンタルケアとして自分の取扱説明書を作ってみるのもオススメとのこと。

「こうなりたい、こうしたいという思いを明確にすることが大切です。それだけでなく、ストレスに直面したときの対処法も理解しておくとさらにいいですね。これをやっているときは気分がいいな、この人と喋っていると楽しいな、などそんな時間を作るだけでも脳の疲労回復になります。脳の健康を維持するために、それを習慣化できたら、なおいいと思います」

また、社会に出てから、特に大事なのはモチベーションのコントロール。快適な毎日を送るためには欠かせません。松島先生いわく、メンタルが強い人の絶対的な共通点は「自己決定力が身に付いていること」だそう。

「社会生活では、好きなことばかりやっていられるわけでもありません。理不尽なことも増えますが、やるもやらないも自分で決めるかどうか。『自己決定力』があるかどうかでストレスの度合いは大きく変わります。人がどう思うかわからない、次の一手が見えないときに、人は必ず緊張するもの。ポジティブな人は、緊張したときにどう対処すればいいかわかっているから、不快な時間が短くなります。対処するために動けるか動けないかはスキルの1つです。自分自身を深く理解して、ぜひそのスキルを身に付けていってください」

こう話す松島先生はメンタル脳の鍛え方をはじめ、自己決定力の上げ方、自分取扱説明書作成などを学び実践できるメンタルブレス講座を6月より開講。気になる人はチェックしてみてください。