そして同分布図を用いて、宇宙の大規模構造の成長過程や最近の宇宙の膨張速度が見積もられた。するとその結果は、アインシュタインの一般相対性理論に基づく標準宇宙論の予言値と一致しており、その理論の正しさが裏付けられる結果となったという。
近年、標準宇宙論の破綻の可能性が一部の研究者から指摘されており、「宇宙論の危機」ともされている。しかし、今回のACTを用いた最新結果により、標準宇宙論は宇宙の進化の過程や膨張速度を上手く記述できていることが示されているとしている。
ダークマター分布図に関する研究は、上述したように銀河や銀河団の像が歪むのを観測することでも行われている。そのことから研究チームは、「宇宙論の危機」は、CMBではなく光を用いた観測に起因している可能性を指摘しているといい、それぞれのアプローチにおける研究の今後の進展が期待されるとした。
なお15年間運用されたACTは、2022年9月に観測が終了。ACTの研究チームは、同じアタカマ砂漠でCMB観測を行っていた「POLARBEAR(ポーラーベア)」の研究チームと合流し、次のCMB観測プロジェクト「Simons Observatory(サイモンズオブザーバトリー:SO)」の運用を2024年から開始する予定だという。
なおSOは、ACTの約10倍の速度でCMBの大規模観測を行うことが可能だ。その大規模データから、インフレーション理論の裏付けとなる原始重力波の痕跡を探ったり、今回同様にダークマター分布図から宇宙の進化を探ったり、現在も謎に包まれているニュートリノ質量の絶対値と同素粒子が大規模構造の成長に与えた影響を調べたりと、さまざまな研究が行われる予定だとされている。また並河特任助教が開発したバイアスハードニングは、SOの研究でも活用されることが期待されるとしている。