伊藤園お~いお茶杯第64期王位戦(主催:新聞三社連合、日本将棋連盟)は、挑戦者決定リーグ紅組の羽生善治九段―豊島将之九段戦が5月8日(月)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、124手で勝利した羽生九段がリーグ成績を4勝1敗として紅組優勝と挑戦者決定戦進出を決めました。白組優勝の佐々木大地七段と挑戦権を争います。

ソフト時代の最新研究

勝った方が紅組優勝となる大一番、先手の豊島九段は角換わり腰掛け銀を採用。後手の羽生九段もこれに追随し、局面は最先端の課題局面に進みました。後手は先手に9筋の突き越しを許しているのが工夫で、代償として早目の銀ぶつけから先攻を狙います。ハイペースで指し手が進むなか、豊島九段が2筋の歩を突き捨てたところで羽生九段の手が止まりました。

盤上右方に歩の手筋で味付けをした豊島九段は、4筋に角を打って攻めを続けます。香取りと角成りを同時に狙うこの手は一見厳しそうに見えますが、羽生九段の対処は冷静でした。たたきの歩で先手玉を危険地帯におびき寄せてからじっと4筋の歩を取り込んだのがうまい呼吸で、これは同時に「両取り逃げるべからず」の格言通りの対応にもなっています。

羽生九段が二転三転の終盤制す

ともに決め手を与えぬまま長い中盤戦が続きます。盤上は先手玉近くに攻めの拠点を築いた後手の羽生九段が主導権を握っていますが、先手の豊島九段も後手陣に作った馬を自陣に引き付けて徹底抗戦。局後の検討では、難解な押し引きを前にしてともに形勢に自信を持てなかったことが明かされました。戦いの中で豊島玉は左辺への逃げ出しに成功しました。

盤面全体を使った攻防のすえ、形勢を抜け出したのは羽生九段の方でした。一気の寄せを狙う豊島九段が歩を打って王手をかけたのに対し、あえて狭いほうへ玉を逃したのが読みの入った好手。羽生玉は打ち歩詰めの筋でぎりぎり逃れています。終局時刻は19時40分、難解な終盤戦を乗り切った羽生九段が冷静な寄せを見せて大きな白星をつかみました。

これで勝った羽生九段はリーグ成績を4勝1敗として紅組優勝を決めました。敗れた豊島九段は3勝2敗でリーグ残留の結果に。同日に行われた白組最終局では佐々木大地七段が池永天志五段に勝って5戦全勝で白組優勝を決めています。羽生九段と佐々木七段の間で行われる注目の挑戦者決定戦は、5月18日(木)に行われます。

  • 勝った羽生九段は「全局きわどい将棋で終始大変だった」と今期リーグを振り返った(写真は第62期王位戦挑戦者決定戦のもの 提供:日本将棋連盟)

    勝った羽生九段は「全局きわどい将棋で終始大変だった」と今期リーグを振り返った(写真は第62期王位戦挑戦者決定戦のもの 提供:日本将棋連盟)

水留 啓(将棋情報局)

<記事へのコメントを見る・書く>