5日の放送で「高知編」が完結し、8日より「東京編」に突入する神木隆之介主演の連続テレビ小説『らんまん』(NHK総合 毎週月~土曜8:00~※土曜は1週間の振り返りほか)。制作統括の松川博敬氏は手応えを口にする。松川氏に『らんまん』の反響や制作秘話についてたっぷりと話を伺った。
■視聴者の声に喜び「想定外に大変高い評価をいただいています」
高知県出身の植物学者・牧野富太郎をモデルにした本作では、幕末から明治、大正、昭和と激動の時代に、植物を愛し、その研究に情熱を注いでいく主人公・槙野万太郎(神木隆之介)とその妻・寿恵子(浜辺美波)の波乱万丈な生涯を描く。脚本を担当しているのは、ミュージカルや戯曲などの舞台や、NHKのドラマ『群青領域』(21)や『旅屋おかえり』(22 )などで知られる長田育恵氏だ。
松川氏は、これまでに本作を含めて6本の朝ドラに関わってきたが、『らんまん』で初めて重責の制作統括を担当。
「朝ドラはたくさんの方に期待されている枠なので、否定的な意見も多くあるのではと覚悟はしていましたが、放送が始まってみたら、想定外に大変高い評価をいただいています。視聴者の方々に物語をちゃんと受け止めていただいていることにすごく感激をしております」と手ごたえを口にする。
視聴者からは「大河ドラマ並みの重厚さだけど、序盤からこんな調子で息切れしないの?」と心配する声も入ってくるそうで、松川氏は「視聴者の方も制作の裏事情をよくわかっていらっしゃるなと驚きました」と言う。
「実際にそうなんです。正直、序盤の5週にかなり勝負を懸けました。朝ドラは長期のマラソンなので予算配分やスケジュールについてペースメイクをしていくのがプロデューサーの務めなんですが、5週まではリミッターを外して、やりたいことを全部やってしっかり視聴者の心をつかもう! という方針を早めに伝えてやっていきました。もちろん東京編にも力を入れていきますが、その気合いがちゃんと伝わっているのがうれしかったです」
意外な感想としては「『らんまん』は命の物語ですね』と言われたことが強く印象に残っています。ちょうど、広末涼子さん演じる万太郎の母親が亡くなる回の時でしたが、確かにそうだよなと。植物の話は生命の話でもあるから、『らんまん』は命の物語なんだなとその時に気づかされました」と述懐する。
■龍馬と同じく「常識にとらわれず、道を切り開いていった人」
植物学者の牧野富太郎とその妻の物語を描きたいというのは、脚本家の長田氏による提案だった。
「最初にメールをもらった時、朝から植物というテーマが描かれるのはいいなというのが第一印象でした。自然を相手にしなきゃいけないというものすごい苦労が伴うことになるんですが、その時はあまり深く考えておらず……。実際に取り組んでみたら、やはり自然や植物はすごく力があると感じています」
とはいえ、牧野富太郎は知る人ぞ知る植物学者で、世間的にはあまり認知されていない偉人。そこで松川氏は『らんまん』の企画を上層部にプレゼンする際に、「牧野富太郎は、学者版の坂本龍馬です」というキャッチーなフレーズで売り込んだと言う。
「牧野さんの魅力をわかりやすく伝えようと思って、そう言い続けました。ちょうど坂本龍馬と同時代の土佐人だし、牧野さんも植物学者として、常識にとらわれず、道を切り開いていった人なので」
第1週では、ディーン・フジオカ演じる坂本龍馬と万太郎が交流するというシーンも描かれた。万太郎に龍馬が「おまんは何がしたいがぜ?」と問われた万太郎が「わしはこの花の名前が知りたい!」と力強く答えたシーンはまさに同週のハイライトでもあった。龍馬の影響を受けて万太郎は覚醒していくが、同シーンについては「長田さんが上手く万太郎と龍馬を絡めてくださった」と感謝。龍馬とのシーンがあったことで、万太郎が“学者版の坂本龍馬”であるというのがすんなりと入ってくる。
■東京編で寿恵子(浜辺美波)との恋愛物語も
松川氏は、長田氏について「すごく骨太な脚本を書かれる本格派の作家さんです。「らんまん」は大河ドラマの重厚さと朝ドラの繊細さを兼ね備えた壮大な物語ですが、スタッフやキャストもちゃんとそれに応えてくれて、相乗効果を生んでいます」と絶賛する。
また、東京編での見どころについては「東京編でも豪華なキャストさんが登場しますし、万太郎がまた新たなステージに突入します。今まで佐川の酒蔵の御曹司、すなわちお城の中にいたプリンスでしたが、東京編では市井の人たちとふれあい、世間の荒波にもまれていろいろな経験を積んでいきます。いわば植物学という夢に向かって邁進する万太郎の青春物語と、それに並行して妻となる寿恵子(浜辺美波)との恋愛物語という2つの柱が見どころとなります」と語る。
注目の新キャストについては「万太郎が下宿することになる長屋には、個性豊かな人たちが住んでいるので、ぜひ注目していただきたい。東京編は、とても魅力的なチームワークが繰り広げられます。万太郎が歩む植物学への道という点では、対立軸としてたちはだかるのが、植物学教室の初代教授である田邊彰久役の要潤さんでしょうか。2人のライバル対決も見どころとなります」と紹介。
さらに「高知編での万太郎は、自分が本当に植物学の道へ突き進んでいいのか? 実家の家業を犠牲にしてやっていいのか? とすごく悩みながらも、最終的には旅立ちました。でも、東京に行ってからは、もう走り続けるしかないから、そのグルーブ感を楽しんでいただきたい。2週目で子役の小林優仁くんが学問に目覚めたのと同様に、一直線に邁進していく疾走感を神木くんが演じているので、そこも見どころです」とアピールした。
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