日立ジョンソンコントロールズ空調(以下、日立)は、家庭用エアコンのフラッグシップモデル「Xシリーズ」を栃木で生産しています。4月からは、スリムモデルの「Wシリーズ」も栃木にて生産をスタート。今後は同社の家庭用エアコンの約半数が日本製になる見込みです。

この国内生産は私たち消費者にも大きなメリットがある仕組み。ここでは、国内生産のメリットを解説しつつ、新しい工場の様子をお伝えします。

  • 日立のエアコンといえば、白くまくん。現在(2023年5月時点)の白くまくんは8代目にあたります

  • スリムモデル「Wシリーズ」は4月18日から新ラインで生産スタート。4月26日には栃木工場にてスリムモデルの出荷式が行われました

日立のスリムモデルってどんなエアコン?

現在、日立が手がける家庭用エアコンの主力は4モデル。フラッグシップの「Xシリーズ」、高さを24.8cmに抑えた「Wシリーズ」、薄型の「Gシリーズ」、ベーシックモデルの「Dシリーズ」です。

  • スリムモデル以外の現行モデル。上から「Xシリーズ」「Gシリーズ」「Dシリーズ」

全シリーズ共通で清潔性の高さをウリにしています。風の通り道にステンレス部材を使い、室内機・室外機ともに熱交換器を一度凍らせて水洗いする「凍結洗浄」機能を搭載。今回のテーマであるWシリーズも、これらの清潔機能を備えています。さらに、ファンをブラシで物理的に掃除する「ファンお掃除ロボ」、除湿運転時に寒くなりすぎない再熱除湿機能といった多機能さが魅力です。

  • エアコンの内部カットモデル。黒いファンの横にあるブラシが「ファンお掃除ロボ」。掃除後はブラシ先を凍らせた熱交換器にあてることで、ブラシ先の汚れを水で流します

Wシリーズはスリムモデルといわれるように、室内機本体の高さが24.8cm。フラッグシップのXシリーズと比べて、5cm近く高さが抑えられています。そのうえ、Xシリーズは天井までの距離が5cm以上必要なのに対し、Wシリーズに必要なスペースは3cm。窓の上といった隙間にも設置しやすく、設置性の高さからも人気があります。

エアコンを国産化するメリット

これまで日立は、フラッグシップモデル以外の家庭用エアコンを中国で生産していました。今回、Xシリーズの生産を栃木に移行するため、数億円をかけて生産ラインを新設しています。そうしたコストをかけて生産現場を日本に移行させることには、ユーザー側にも大きなメリットがあります。

  • 出荷式にて概要説明をする日立ジョンソンコントロールズ空調 栃木事業所長 永田孝夫氏

もっともわかりやすいのは供給の短期化でしょう。この数年、日本の夏は毎年「猛暑」「酷暑」といわれ、熱中症による救急搬送も珍しくありません。エアコンはもはや生きるために必要なインフラのひとつともいえます。市場で品薄にならないように、エアコンを安定して供給できる仕組みが必要になのです。

従来のような海外生産体制の場合、発注から製品の到着まで28日前後が必要とのこと(日立の場合)。急激な天候変化などでエアコンの需要が急増したりすると、市場への供給増を即座に対応できないという問題がありました。一方で栃木生産なら、離島でも約5日。製品供給までのリードタイムを約3週間も短縮できるといいます。

  • 国産スリムモデルの出荷を祝う出荷式のテープカット。左から、日立ジョンソンコントロールズ空調労働組合 副執行委員長 佐藤克典氏、栃木市副市長 増山昌章氏、日立ジョンソンコントロールズ空調 栃木事業所長 永田孝夫氏、大平商工会副会長 藤﨑英治氏、日立ジョンソンコントロールズ空調 グローバルオペレーションズ統括本部長 ジョン・ムリンズ氏

ここ数年はコロナ禍にあって、中国の上海で生産や物流の多くが停止に追い込まれました。国内生産なら、海外情勢の影響を最小限に抑えられます。また、今回はスリムモデルの生産を栃木に移しましたが、これまで使っていた金型はすべて日本で作り直し。中国で使用していた金型は現地にて保管し、日本に問題が起きた場合は中国工場で生産を再稼働することも可能としています。国内生産にすることで、生産を担保する二重、三重の保険となるわけです。

ほかにも、国内生産による輸送コストの低減や雇用の創出といったメリットもあります。今回の新ライン立ち上げでは、栃木工場で約100名の雇用が増えました。エアコンの繁忙期にはさらに倍の雇用が生まれるといいます。

栃木工場の新ラインは一層の品質重視に

出荷式では、新ラインのお披露目を兼ねた栃木工場の見学もありました。

  • 工場内の一角にある、エアコンの環境試験室。巨大な箱の中に14畳サイズの部屋が2室あり、エアコンから出る風の流れなどをチェックできます

  • この日はマイナス15℃の環境下で運転試験をしていました

日立がスリムモデルの国内生産を決定したのは昨年(2022年)の10月。夏のエアコン需要に間に合わせるため、新ラインの本格稼働まで5カ月しかありませんでした。新ライン向けに大型設備などはほとんど導入していないそうですが、作業効率や品質の均一化のために、新しい仕組みがまったくないというわけではありません。

  • 栃木工場にある新ラインの一部

そのひとつは、ドレンパンの組み立て工程では3軸稼働の「セルロボ」を導入。セルロボとは、縦横方向に回転するパーツ台のことです。以前は腕の力でパーツを動かしながら組み立て作業をしていましたが、セルロボによって最小限の力で作業が可能に。また、セルロボでパーツを「毎回同じ位置に移動」させることで、組み立て場所の間違いも減らせます。

  • セルロボを使ってドレンパンの組み立て作業をしているところ

このほか従来はガン型の工具を使って人の手で吹き付けていた接着剤を、ホットメルト塗布装置に変更。接着剤の塗布ムラなどがなくなります。

【動画】ホットメルト塗布装置を使って接着剤を吹き付けたあと、断熱材の組み込んでいる作業の様子

日立のエアコンは行程ごとに全品検査を行っていますが、中国生産ではファンロボの検査は目視で行われていました。新ラインでは、画像処理を利用してファンロボの検査を自動化しました。ひとつひとつは小さな改善ですが、日立は今後も現場の声を取り入れつつ、ラインの運用を効率化し、品質保持をしていくとしています。

  • ファンロボの動作状態をカメラで撮影し、問題ないかをチェックする装置。5つのモニターで「ブラシとファンの距離が適切か」「部品が適切に取り付けられているか」を確認します

  • 見学中にエラーが発生! モニターを見る、ブラシの距離が適正範囲から離れているようです。説明スタッフによると「エラーが発生することはほとんどないので、私も初めてこの画面を見ました」とのこと

一時は多くのメーカーが海外に製造拠点を構えていましたが、現在は情勢不安や円安といった影響によって国内回帰の流れも生まれています。これまで日立は家庭用エアコンの約30%を国内生産していましたが、スリムモデルの国内移行によって今後は約50%を国内生産に切り替える予定です。今後みなさんの家に届くエアコンはメイドインジャパンが主流になるかもしれませんね。

  • 出荷日はあいにくの雨でしたが、スリムモデルを乗せたトラックは無事出立。これから各家庭の夏を守ってくれることでしょう