4月最終日の30日夜、テレビ朝日系の新ドラマ枠、第1弾となる『日曜の夜ぐらいは…』(ABC制作)が放送され、ついに2023年の春ドラマがそろった。前期に続いて刑事、医療、リーガルの“連ドラ3大ジャンル”だけでなく、ラブコメ、ミステリー、ファンタジー、ビジネス、群像劇など、さまざまなタイプの作品がラインナップ。今春はどんな傾向が見られるのか。
春ドラマがそろったこのタイミングで、「本当に質が高くて、今後期待できる作品」をドラマ解説者の木村隆志がピックアップ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視」したガチンコで、2023年春ドラマ24作の傾向とおすすめ5作(前編)、目安の採点付き全作レビュー(後編)を挙げていく。
2023年春ドラマの主な傾向は、【[1]今年もドラマ枠3増だが、目立つ保守的プロデュース [2]映像美にこだわる監督たちの情熱】の2つ。
■傾向[1]今年もドラマ枠3増だが、目立つ保守的プロデュース
今春は新たなドラマ枠が3つ増えた。日本テレビの金曜24時30分~(第1弾は『夫婦が壊れるとき』)、フジテレビ系カンテレの火曜23時~(第1弾は『ホスト相続しちゃいました』)、テレビ朝日系ABCの日曜22時~(第1弾は『日曜の夜ぐらいは…』)。
実は昨春も、フジテレビが水曜22時~、テレビ東京が火曜24時30分~、TBSが火曜24時58分~のドラマ枠を新設していた。これは主に「ドラマが配信ビジネスの鍵を握るコンテンツとして期待されている」という理由からだが、今春は30を優に超える作品数が放送されている。
ドラマ枠が増えれば当然ながら「選ばれて見てもらう」ための競争が激しくなり、レベルアップが期待されているが、現状ではその意味で難しさを感じさせられる。その理由は、「保守的なプロデュースの作品が多くを占める」から。
まずゴールデン・プライム帯では、定番ジャンルの事件解決が『風間公親 -教場0-』『合理的にあり得ない~探偵・上水流涼子の解明~』『育休刑事』『特捜9』『ケイジとケンジ、時々ハンジ。』『ラストマン―全盲の捜査官―』の6作、医療の『Dr.チョコレート』と法律の『弁護士ソドム』が1作ずつ。この“超保守”な3ジャンルで約半数を占めている。
また、『王様に捧ぐ薬指』が御曹司と貧乏人の恋、『わたしのお嫁くん』がズボラ女子と家事男子の恋というラブコメの定番で、『あなたがしてくれなくても』はセックスレスから不倫がはじまるという夫婦モノの定番。
さらにファンタジーも、『unknown』が吸血鬼との恋、『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』が未来の荒廃した世界へワープという、こちらも「どこかで見た」ような保守的なコンセプトがそろう。リアリティを度外視できるファンタジーは自由に作れるはずだが、わかりやすさを優先させたのだろう。
枠が増えても、保守的なジャンルの定番的な作品が多ければ多様性は生まれず、視聴者とテレビ局の双方にメリットは少ない。「枠が増えただけでさほど意味はない」と言われないためには、増えたからこその思い切ったプロデュースの作品を見せてほしいところだ。
■傾向[2]映像美にこだわる監督たちの情熱
今春は正直なところ、脚本家は「現在の一線級がそろった」とは言い難く、未知数な印象は否めないが、その一方で演出家は豪華な顔ぶれが集結した。
『風間公親 -教場0-』が、『眠れる森』『Dr.コトー診療所』『ようこそ、わが家へ』(すべてフジ系)らを手がけた中江功。『合理的にあり得ない』が、『101回目のプロポーズ』『バージンロード』『BOSS』(すべてフジ系)らを手がけた光野道夫。『あなたがしてくれなくても』が、『白い巨塔』『ガリレオ』『昼顔から平日午後3時の恋人たち~』(すべてフジ系)らを手がけた西谷弘。『ラストマン―全盲の捜査官―』が、『GOOD LUCK!!』『コウノドリ』『カルテット』(すべてTBS系)らを手がけた土井裕泰。『それってパクリじゃないですか?』が、『きょうは会社休みます。』『世界一難しい恋』(日テレ系)、『これは経費で落ちません!』(NHK)らを手がけた中島悟。
その他でも、『unknown』が、『おっさんずラブ』(テレ朝系)、『極主夫道』(読売テレビ・日テレ系)らを手がけた瑠東東一郎。『波よ聞いてくれ』が、『住住』『架空OL日記』(日テレ系)、『殺意の道程』(WOWOW)、さらにバラエティの『私のバカせまい史』(フジ系)などバカリズム作品を手がけ続ける住田崇ら、細部までこだわった演出が知られる監督がそろった。
つまり、「今春はストーリー(脚本)より映像(演出)で楽しむべき作品が多い」ということ。画面のすみずみまでこだわった映像美が期待できるだけに、多少ストーリーに疑問を抱いたとしてもスルーして、映像に注目してみてはいかがだろうか。
これらの傾向を踏まえた今クールのおすすめは、『波よ聞いてくれ』『おとなりに銀河』の2作。
まず『波よ聞いてくれ』は、原作と小芝風花の疑うことなき力を感じさせられる秀作。破天荒ヒロインがたたみかける終盤のマシンガントークに圧倒させられる。扱うテーマも恋からホラー、アクションまで幅広く最後まで飽きさせずに見られそうだ。
次に『おとなりに銀河』は、「漫画家と流れ星の民の姫の恋」というラブファンタジーながら、それを忘れさせる純度の高い物語に癒される作品。一歩ずつ距離が縮まっていく2人のラブストーリーは、ある意味で昭和のそれに近いかもしれない。
その他では、『あなたがしてくれなくても』は『昼顔』チームらしい映像美とシビアな描写の連続に心を動かされる。『帰ってきたぞよ! コタローは1人暮らし』は前シリーズに続いて優しさと切なさが共存したハートフル作。『勝利の法廷式』は脚本や元子役などの設定が巧みで、主演女優・志田未来の魅力をひさびさに感じられる。
「視聴率や先入観だけで判断して見ない」というのはもったいないだけに、TVerや各局の動画配信サービスなどでチェックしてみてはいかがだろうか。
■2023年 春ドラマオススメ5作
- No.1 波よ聞いてくれ (テレ朝系 金曜23時15分)
- No.2 おとなりに銀河 (NHK 月~木曜22時45分)
- No.3 あなたがしてくれなくても (フジ系 木曜22時)
- No.4 帰ってきたぞよ! コタローは1人暮らし (テレ朝系 土曜23時)
- No.5 勝利の法廷式 (読売テレビ・日テレ系 木曜23時58分)