第36期竜王戦(主催:読売新聞社)1組出場者決定戦の久保利明九段―松尾歩八段戦が5月1日(月)に関西将棋会館で行われました。対局の結果、121手で勝利した松尾八段が決勝トーナメント進出まであと1勝としました。
意外な力戦形
振り駒で後手番となった久保九段は得意のゴキゲン中飛車に構えます。角交換ののち、美濃囲いに囲うと思われたところで守りの右銀を6筋に上がったのが久保九段の工夫。木村美濃の要領で角の打ち込みに備えつつ駒組みを続ける狙いがあります。これに対して先手の松尾八段は、完成した左美濃囲いを組み替えて中住まいのような陣形を築きました。
仕掛けをめぐる間合いの計り合いが続いた結果、双方の陣形は中住まいに組み変わりました。加えて後手の久保九段が飛車を2筋に転回して先手の飛車に対抗したため、盤上は鏡写しのような対称形になっています。千日手模様になるかと思われたタイミングで、先手の松尾八段が1筋の歩を突き捨てて盤上右方で本格的な戦いが始まりました。
「マムシの成駒」で敵陣攻略
雀刺しの要領で端の突破を狙った先手の攻めは後手の飛車寄りでいったんは受け止められますが、そこで松尾八段は強手を用意していました。後手陣の狭いところに角を打ち込んだのがそれで、角損になっても飛車さえ成り込めればと金作りが間に合うという大局観が見て取れます。この強気の攻めが功を奏し、盤上は松尾八段がリードを奪いました。
持ち駒を投入して必死の抵抗を見せる久保九段に対し、松尾八段の攻めは冷静でした。飛車を狙う垂れ歩ののち、2筋めがけて投入された桂香が次々に成駒に成っていく様はまさに「マムシのと金」のフレーズ通りの厳しさです。終局時刻は19時45分、真綿で首を締める指し回しでリードを拡大した松尾八段が勝負所を作らせず快勝を決めました。
勝った松尾八段は、次戦で決勝トーナメント進出を懸けて丸山忠久九段と対戦します。
水留 啓(将棋情報局)