4年ぶりにリアルで開催されたCP+2023、僕はシグマブースにて「Iシリーズ」に関するプレゼンテーションを担当しました。プレゼンテーションなどと気取っていますが、ほぼ漫談です。その漫談はYouTubeでご覧いただけますが、4月初旬になって同シリーズに「17mm F4 DG DN|Contemporary」と「50mm F2 DG DN|Contemporary」の2本が加わりました。そこで、改めて読み物として、9本がそろった「Iシリーズ」の魅力を深掘りしてみることにしました。前編・中編・後編の3本立てでお送りします。今回は前編です。
アルミの塊から削り出した個性的な9本のレンズ
まず「Iシリーズ」の概要を。2019年7月、画期的なフルサイズミラーレスカメラ「シグマfp」が開発発表されました。石鹸箱のようなボディーはあらゆるものを削ぎ落とし、道具としての魅力満点。しかも、カバンに忍ばせることができるスチールカメラでありながら、拡張性や冷却用ヒートシンクを備えたプロ仕様のシネカメラでもあります。そのキットレンズとして同時に発表され、ひと足先に同月発売されたのが「45mm F2.8 DG DN|Contemporary」です。fp/fp Lが採用するライカLマウント版がまず登場し、のちにソニーEマウント版も発売されました。
このとき「Iシリーズ」という名称はまだありませんでしたが、2020年12月に「35mm F2 DG DN|Contemporary」と「65mm F2 DG DN|Contemporary」、直後の2021年1月に「24mmF3.5 DG DN|Contemporary」が発売された際、すでに発売されている45mmと合わせて「Iシリーズ」という名称が生まれました。その後、2021年9月に「24mm F2 DG DN|Contemporary」と「90mm F2.8 DG DN|Contemporary」が、2022年2月に「20mm F2 DG DN|Contemporary」が、そして2023年4月に「17mm F4 DG DN|Contemporary」と「50mm F2 DG DN|Contemporary」が発売され、9本のラインナップとなりました。というわけで、これ以下は各レンズ共通の「DG DN|Contemporary」を省き、焦点距離+明るさで表記します。
その省いてしまう「DG DN|Contemporary」ですが、DG DNはフルサイズ対応のミラーレス専用レンズを指します。現在は20本以上を数え、すべてライカLマウントとソニーEマウントが用意されています。ちなみに、APS-Cマウント向けレンズは「DC DN」です。その後に続く「Contemporary」は「Art」「Sports」と並ぶシグマのプロダクトライン。直訳すると“現代”という意味なのですが、ArtやSportsと違って意味するところが連想しにくく、また製品のラインナップ的にも「ArtやSportsより手ごろなもの」というイメージで捉えられているように感じます。
違う、そうじゃない。そんなシグマの静かな主張が、このIシリーズには込められている気がします。本体はもちろん、クリック感の心地いい絞りリング、さらに細かなローレットが刻まれたピントリングやフードまで切削アルミニウム。つまり、アルミの塊から削り出しているのです。ちなみに、Iシリーズ以外のレンズでは、TSCという剛性の高いポリカーボネイトとアルミのパーツを組み合わせています。大柄なArtラインやSportsラインのレンズでは、このTSCがホールディング性の向上や軽量化に寄与しています。しかし、コンパクトなIシリーズでは、手にしたときの質感や心地よい重み、そこから得られる満足感を追求しているようです。
かくいう僕も、日ごろのスナップでは35mmを重用するので、fp Lに35mm F2を着けていることが多いです。一方、仕事で使うことが多いのは65mm F2。人物のポートレートの7割はこれで撮影しています(この話は後ほど詳しく)。また、以前は広角ズームを携行していましたが、厳密なフレーミングが要求される建築撮影でなければ、20mm F2をお供させることが増えました。重さは370gで、795gの超広角ズーム「14-24mm F2.8 DG DN|Art」と比べたら実に半分以下です。さらに、軽くて画角の広い17mm F4が登場し、広角担当はそちらに移りそうな今日このごろです。
開放F2のレンズは描写とサイズのバランスが絶妙
そんなIシリーズのホームページを見ると、「高画質と常用性を両立」という項目にF2の5本が。そして「コンパクトネスを追求」の項目に、残りの4本が掲載されています。前者と後者の違いは明るさという明快なスペックもさることながら、実際に使っていても感じることができます。
そこで今回は、まず「高画質と常用性を両立」のF2軍団を紹介したいと思います。F2軍団というとイカついですね……。実際は“優等生グループ”といったところでしょうか。2023年4月21日発売の50mm F2もここに含まれます。新顔ですが、単焦点レンズのド定番である標準50mm。アイドルグループでいえばセンター、サッカーでいえば司令塔、野球なら絶対的エースあるいは不動の四番、まあ例え方はいろいろですが、僕個人は褒めるよりまず「遅いよ!」という気分です。でも、最初に出したのが45mm F2.8である以上、あまり近い焦点距離は出しにくかったのでしょう。
50mm F2よりほんの少し早く「50mm F1.4 DG DN|Art」が発売されましたが、その兄貴分の魅力はF1.4~F2と絞りを開けたときの、被写体を包み込むような描写。絞っても繊細さがあり、情緒的な味付けへ振った印象を受けます。対する50mm F2もボケはきれいですが、印象としてはメリハリがあってバランスの取れた描写。これはIシリーズのF2軍団に共通しています。
どちらがいいのかは好みや目的によると思いますが、IシリーズのコンパクトながらF2と明るい点も大きな魅力です。たとえば、20mm F2と24mm F2は、ともにArtラインのF1.4レンズよりかなり小型軽量。広角でF1.4の明るさを必要とする状況といえば、星景写真や星景写真や星景写真であり、つまり多くの人はF2でいいんじゃね?という判断に至るわけです。
35mmも、ArtラインのF1.4、さらにF1.2も存在します。常用レンズとなりうる焦点距離だけに悩ましいところですが、シグマfp/fp Lやソニーα7Cのユーザーなら、コンパクトなボディとバランスのよいF2がまず選択肢に挙がるはず。もちろん、それ以外のフルサイズαでも、標準ズームと併用したり、あるいは単焦点レンズを何本も使い分けるという人はF2が有力になるでしょう。
個人的には、F1.2のボケと立体感を味わってほしいなぁ……とも思いますが、F2(325g)を3本束ねてもF1.2(Lマウント1,090g、Eマウント1,080g)より軽いのです。小さい軽いという話ばかりで恐縮ですが、大事なことなので何度でも言います。しかも、Iシリーズはただ軽いだけでなく、外装は切削アルミニウムで仕上げており、Artラインとはひと味もふた味も異なるシャープなデザイン。そもそもfpのキットレンズとして45mm F2.8が登場した経緯もあり、直線のみでデザインされたfp/fp Lにはむしろベストマッチだと思います。
Iシリーズのなかで65mm F2を一番使うワケ
そして、F2軍団の最後に紹介するのは65mm F2。僕がIシリーズでもっとも使うレンズです。企業の仕事で経営者や社員の方、あるいはインタビューで作家や学者の方を撮るときに使います。以前は、そういった撮影では85mmを縦位置で使うのが定番でしたが、紙に印刷されていたものはほとんどがウェブに移行。すると、縦位置の写真はレイアウトしにくいということで、横位置を指定されることが増えました。人物は従来通りバストアップで切り取りつつ、左右に空間を作るには85mmでは長すぎ、かつ空間をボカす必要もあります。そこで65mm F2がちょうどよいわけです。
フルサイズで65mmという焦点距離は、標準よりも少しだけ遠近感が圧縮され、人間が気になる部分を凝視したときに近い写りをします。85mmのような凝縮感はないけれど、主題に寄るポートレートでも、街角の風景でも、自然な感じで切り取ることができます。望遠端が70mmの標準ズームを使っていた人は、なんとなく経験上お分かりいただけるかと思います。分からないという方は、ぜひ65mm F2でご体感ください。
というわけでF2軍団の面々を紹介しました。次回はF2じゃない軍団の面々を紹介します。キレ者揃いで、個人的にはこちらの方が深い沼だと思います。