落ちゲーの元祖「テトリス」は、誰もがどこかでプレイしたことのあるゲームタイトルの一つ。でも、それが世界的な大ヒット作となった裏には、複雑な利権問題がありました。その実話をもとにした映画『テトリス』がApple TV+ で配信されています。
『テトリス』
ゲーム会社PBSの代表 ヘンク・ロジャース(タロン・エガートン)は、展示会で「テトリス」に出会い、日本向けの販売権を獲得。任天堂に持ち込み、山内社長に直談判して自らがソフトの販売元となる。さらに、発売を間近に控えるゲームボーイのバンドルソフトに「テトリス」を提案するが……。
出演:タロン・エガートン/ニキータ・エフレーモフ/トビー・ジョーンズ/ソフィア・レペテヴァ 他
監督:Jon S. Baird
脚本:Noah Pink
制作:Matthew Vaughn
2023年3月31日配信開始
テトリスといえば、ゲーム好きに限らず多くの人に知られる、世界的なゲームタイトルです。レベルを上げ続け気付いたら朝だったとか、どこにいても目の前にブロックが落ちてくる、といった体験をした人も多いのではないでしょうか。あのBGMも脳内でエンドレス再生されますよね。
オリジナルの「テトリス」は、1984年、ソビエト連邦(当時)の科学者アレクセイ・パジトノフ氏によって開発されました。しかし、共産主義において私有財産は認められておらず、それは著作物についても同様でした。テトリスの権利を販売したのは、ソ連でコンピュータ関係の輸出入を行っていた国営企業Elorg。そこからいくつもの会社を経由してさまざまなプラットフォームでソフトが提供されていくことになります。そして、ついに任天堂がゲームボーイで……となった時に、権利関係がグダグダであったことが発覚し、政治を巻き込んだ権利争奪戦が勃発します。
西側の利権ビジネスと崩壊寸前のソビエト共産主義という、ビジネスサスペンスを思わせる舞台を背景に、良くも悪くもわかりやすく、カラッと楽しめるエンタメ作品に仕上がっています。
エンタメ味の足しどころ
誰もが知るゲームの裏側で繰り広げられた権利争奪戦が土台となっているこの作品。そのため、会議、賄賂、駆け引きといった、絵面的には地味なシーンが物語上の山場とならざるを得ません。映画の文法で言えばそれはそれで見せ方があるわけですが、この作品はエンタメ風味を”足し算”する方向へ振っていることが特徴的です。
度々ドット絵のカットを差し込んだり、長い説明台詞シーンにブロックを降らせるなど、ゲームらしいビジュアルを演出に活かしています。また終盤にはいきなりスパイアクションらしい展開も入り(KGBも絡んでるから間違ってはいないのですが)、迫力成分も補充。さらに、アクションにもドット絵演出が織り込まれ、登場人物たちがゲームキャラクターであるようなメタ表現にもなっています。
いかにも“見せ場づくり”といった展開に、お金を出す人の要望もあったのかと邪推してしまうわけですが、それでも、主人公ヘンク・ロジャース(タロン・エガートン)、アレクセイ・パジトノフ(ニキータ・エフレーモフ)をはじめ、そこまでの展開で分厚く描き出されてきた主要キャラクターの人物像が世界観を強固に支えてくれています。
実話ベースであるが故に、登場する実在の人物たちの再現度にも注目です。任天堂の山内社長(当時)、イギリスのメディア王 ロバート・マクスウェル、そして旧ソ連最後の書記長 ミハイル・ゴルバチョフといった著名人の特殊メイクには相当力が入っていることがわかります。
一方で、日本が舞台のシーンについてはかなりツッコミどころを残してくれています。
言葉を超えたクリエイティビティ
ゲームの利権はお金の話ではありますが、同時にクリエイティビティの話でもあります。一貫してゲームの力を信じ、「テトリス」のために行動し続けたヘンクと、グラフィックボードもないマシンで独り「テトリス」を開発し、その後何の権利も認められていなかったアレクセイ。
2人が(当時のソビエトでは違法だった)アレクセイの自宅で、オリジナルのソースをいじりながらゲームを改良していく様子は、開発者はもちろん、ものをつくる多く人に胸熱の共感を与えてくれることでしょう。実際問題「そうはならんやろ」というディテールもあるかもしれませんが、何かをつくり上げていく瞬間を同じ魂を持つ人と共有することの高揚感は伝わってきます。
言語や国境を超えて世界中の人に広まったテトリスは、この作品の中で、利権闘争や共産主義にも負けないクリエイティビティの象徴と言えるでしょう。その敵役となったイデオロギーは勧善懲悪的な展開で退場していくことになり、単純化されすぎた構図にやや危うさはあるものの、一応はエンタメ作品として良いエンディングに着地しています。
主人公2人をテトリスのブロックにたとえるなら、どんなところにもスッと入りこみ難局をひっくり返すヘンクは凸型、ここぞというシーンで大きな助けをくれるアレクセイは棒形でしょうか。見終わった時、きっとテトリスをプレイしたい気分になっているはずです。
App Store テトリス
この作品を視聴するには
- 配信サービス:Apple TV+
- 視聴方法:iPhone、iPad、Macなどの「Apple TV」アプリ、スマートテレビ、Amazon Fire TV、Chromecast with Google TV、PlayStation、Xbox、PCブラウザ(https://tv.apple.com/jp)
- 料金:月額900円(ファミリー共有可)