ワコムは4月26日、公式YouTubeチャンネルにて無料のオンラインセミナー『【60分で描く!】吉田誠治先生のイラスト講座【板タブ】』を開催しました。

1時間で描き切る、いわゆるワンドロ(=1hour drawing)という制約がある中、背景グラフィッカー・イラストレーターの吉田先生は一体どんな絵を完成させるのでしょうか。

  • ワコムオンラインセミナーが開催。吉田誠治さんを講師に招き、イラスト講座を無料配信した

レイヤー1枚に描くストロングスタイル!

吉田先生は、ハードウェアに板タブの「Wacom Intuos Pro」、ソフトウェアに「Adobe Photoshop」を使用。そして今回のテーマには、スチーム(蒸気機関)×サイバーパンクを組み合わせた「スチームパンク」の世界を選びました。

  • 今回講師を務めた吉田誠治先生は、背景グラフィッカー、イラストレーター。多数のゲーム背景の他、コミックマーケット97の紙袋のイラストや、書籍『美しい情景イラストレーション』の装画などを手がける。初画集『吉田誠治作品集&パース徹底テクニック』(玄光社)発売中。京都精華大学非常勤講師。これまで多数のゲーム背景を描いてきたほか、書籍の装画なども手がける。京都精華大学講師、京都芸術大学講師

  • 作業環境は板型ペンタブレット「Wacom Intuos Pro」×「Adobe Photoshop」

冒頭、手を動かしながら「何を描こう?まだ何も決めていないんです」「取り敢えず、アーチを描きがちですね」などと楽しそうにお喋りする吉田先生。

スチームパンクという題材から、ゴーグル、飛行船、ビクトリア調の家具、ピストン、正体の分からない歯車、レンガ造りの家、シャーロック・ホームズが活躍していた時代、18世紀後半ごろの雰囲気、など連想するものを口にして「描くべきもの」を探ります。ちなみに吉田先生によれば、第一次世界大戦が終わって1920年以降になると石炭から石油になるため、スチームパンクからディーゼルパンクになる、とのことでした。

  • SFジャンルでも人気のスチームパンクをテーマにライブドローイングがスタート

  • 時代背景から世界観を想像していく

驚くことに吉田先生は、普段レイヤーを使わないんだそう。その理由としては「つい間違えたレイヤーに描いてしまうので、そのうち使わなくなりました」。

ただ、この日は途中経過を視聴者に説明する目的で、レイヤーを使って描いていきました。

  • 手前にアーチを配置して、奥に建物と煙突。これは「遠近感をつくりやすい構図」(吉田先生)とのこと

全体的なバランスを考えながら色を置いていきます。「あ、良いじゃないですか」「あわよくば、このあたりに人が立っていて...」などと話す吉田先生。1枚のレイヤーで延々と描いていくスタイルですが、途中で描きたいものを思いついたらアタリだけ入れておくと、あとから「そうだ、こんなものを描こうと思ってたんだ」と気が付くんです、と話します。

はじめの10分くらいで全体的に色を置き終えると、そこから詳細を描き込んでいきました。

  • 全体のトーンが決定

ブラシ設定はデフォルト、視聴者からの質問に回答

視聴者からはコメント欄から質問が寄せられました。ブラシ設定については、Photoshopデフォルトの「ハード円ブラシ」をそのまま使用しており「クリスタなら『濃い鉛筆』が近いでしょうか」と吉田先生。不透明度の設定は70%くらいで描いてみて、もし濃かったらその箇所をさらにスポイトして塗り直すことで色が混ざっていき、だんだん周囲に馴染んでいくんです、とコツを明かします。

「画面のなかでイチバン明るい箇所、暗い箇所を決めると、全体のバランスがとれます。このとき明るさのレンジ(幅)をしっかり決めておくことが大事。これが狭くなると、絵にインパクトがなくなり、ボケた絵になってしまいます」(吉田先生)

  • 明るさのレンジに注目

普段、家ではIntuos Proのラージサイズと20インチくらいの「どノーマルなディスプレイ」(吉田先生)を使っているそう。「ほかのプロは大きなディスプレイ、あるいは2画面で作業される人も多いようですが、ボクはアナログ環境も机の上に置いてあるので場所がなくて」と話します。

キーボードのショートカットはCtrl+Zのほか、Altでスポイト、拡大・縮小にスペースを使うそう。また、ブラシの不透明度はテンキーに割り当てているとのこと。

  • ショートカットキーについて解説。「そのうち左手デバイスを買わないと」とも

  • 全体的に明暗がハッキリしてきたところで、ソフト円ブラシで淡いボカシを入れる

資料集めについては「若い頃はインターネットで調べていました。フランスの村ごとにフォルダを作るなど、たくさんの資料を集めましたよ。でも世界の観光地に詳しくなると、あまり調べなくても描けるようになりました。現在は、知りたい情報をピンポイントで調べる程度です」。

  • 視聴者からは「楽しみながら描いているのが伝わってきます」というコメントも

「現代のオフィス街を描こうと思ったら、多くの制約があります。でもスチームパンクなら建物の形は自由だし、言ってしまえばパースもそこまで意識しなくて良い。例えばこの辺に建物が欲しい、と思った場所に、サイズも適当に決めて描いてしまえる。スチームパンクって、わりと好き勝手にモチーフを増やしていけるテーマだと思うんですよ」と吉田先生。

スチームパンクはファンタジーというよりSFの世界であり、皆さんも藤子・F・不二雄先生のSF短編集を買って勉強してください、と薦めました。

入門者が背景を模写するときに気を付けることは、という質問には「描き慣れていないときは、今回はディテールを追うぞ、今回はパースをとることをメインにするぞ、とテーマを決めると良いです。漫然とやらず、トライ&エラーを繰り返してください」とアドバイスします。

  • 吉田先生がシャーペンで描いた線画も紹介

「どうしても登場人物が、ボクの好きな映画『ロスト・チルドレン』(1995年 仏)のキャラクターに近づいてしまうんですよね」と笑う吉田先生。そこで視聴者から好きな映画について問われると「ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの『スティング』(1973年 米)ですね。あとは『雨に唄えば』(1952年 米)とか...。最近の映画では、デヴィッド・フィンチャー監督の『セブン』(1995年 米)、『ファイト・クラブ』(1999年 米)あたりが好きです。画面の作り方がうまい監督なんです」。

  • 「最初の段階では、どの程度の完成図を思い描くべきですか」という質問には、先生がスケッチブックに描いてきたラフ画も公開

そして最後に光と影を描き入れ、コントラストを強調したところでイラストは完成。視聴者からは「素晴らしい」「すごい」という絶賛のコメントが相次いで届いていました。

最大同時接続数にして500名あまりの視聴者を集めたライブ配信はこれにて終了。ワコムからはオンラインドリルパックなどの紹介がありました。

ちなみにセミナーの様子は、現在アーカイブで公開中。筆運びのテクニックなど、参考になることが盛りだくさんでしたので、気になった方は配信のアーカイブをチェックしてみてください。

  • 完成したイラスト