金融市場は米国連邦政府がデフォルト(債務不履行)する可能性を少しずつ意識し始めています。デットシーリング(政府債務の法定上限)が期限(現時点で未確定)までに引き上げられなければ、国債の利払いを含めて政府の支払いが滞るからです。
過去に、デットシーリングの引き上げが間に合わずに政府がデフォルトしたことはありません。ただし、11年8月には期限ギリギリまで引き上げが実行されず、金融市場が大きく動揺したことがあります。当時、米国の格付けが1段階引き下げられたことも話題になりました。
現在までの経緯
連邦政府の債務が今年1月19日にシーリング(上限)に到達したため、財務省は「奥の手」とも呼べる「特別措置」を発動しました。ただ、いずれ「特別措置」は尽きます。そのタイミングは、4月の所得税収や6月の法人税収次第で変動するようですが。早ければ6月上旬、遅くとも7-9月にやってくるとされています。4月の所得税収は大方の予想を下回ったようで、金融市場の懸念は強まっています。
バイデン大統領と共和党のマッカーシー下院議長はデットシーリング問題で話し合いを持ちました。しかし、大統領は、デットシーリング引き上げに交渉余地はないとして、単独で引き上げるように要求。一方で、マッカーシー議長は大幅な財政赤字削減策と引き換えに引き上げに応じるとして、話し合いは物別れに終わりました。
これからどうなる?
マッカーシー議長は4月20日、デットシーリングを1.5兆ドル引き上げる法案(Limit Save, Grow Act of 2023)を提案しました。同法案は同時に財政赤字を大幅に削減する内容ともなっています。具体的には、歳出を22年レベルで10年間凍結、バイデン政権が成立させたクリーンエネルギーの減税や補助金の廃止、大学の学費免除の廃止や福祉削減(食料補助や高齢者医療保険の受給資格厳格化)などで約4兆ドルの歳出削減を見込んでいます。
下院では4月26日に同法案が217対215の僅差で可決されました。完全に党派に沿った結果でした。
同法案が下院で可決されたので、舞台は上院に移ります。上院では民主党が過半数を占めているので、現行の共和党案に近い形では可決されないでしょう。上院で民主党が修正した法案が可決されれば、その後は下院で共和党が上院案に反対して……と繰り返される可能性もあります。上院と下院が全く同じ内容の法案を可決しなければ、議会を通過しないからです。
仮にデットシーリング引き上げ法案が議会を通過しても、最後は内容次第でバイデン大統領が拒否権を発動するというハードルが控えています。もちろん、デフォルトを回避するために、各主体が土壇場で譲歩する可能性もそれなりにあるでしょうが、今のところ落としどころが見えない状況です。
デットシーリング引き上げと財政赤字削減を切り離してそれぞれ別の法案として審議を行う、あるいはデットシーリングを小幅引き上げて交渉を続ける、など、デフォルト回避に向けて様々な選択肢はありそうです。
1カ月物と3カ月物金利がかい離
1カ月物TB(財務省短期証券=短期国債)と3カ月物TBの利回りのスプレッド(差)が拡大しています。6月中旬にデットシーリングの期限が来るとしても、現在の1カ月物TBは5月中旬に償還されるので問題なし。一方で、3カ月物TBは7月中旬に償還されるので状況によって完全には償還されません。そのため、資金が1カ月物TBに流入して利回りが低下(価格が上昇)する一方、3カ月物TBからは資金が流出して利回りが上昇(価格が低下)しているからです。つまり、2つの金利のかい離は、金融市場がデフォルトの可能性を意識していることを意味します。
今後、デットシーリング問題が金融市場の大きな波乱要因にならないか、注意は必要でしょう。