国立科学博物館は4月25日~8月16日、企画展「科博の標本・資料でたどる日本の哺乳類学の軌跡」を日本館1階の企画展示室で開催する。
国立科学博物館の哺乳類標本と関連する資料を用い、日本の哺乳類研究の歩みを紹介するという本展示を簡単に紹介したい。
日本の哺乳類学の軌跡をたどる
展示を監修した同館 動物研究部 脊椎動物研究グループ 研究主幹 川田伸一郎氏は今回の開催意図を次のように話す。
「2023年は日本の哺乳類の研究をする学術団体ができて100周年の年です。また、日本の哺乳類が世界に紹介されるきっかけとなったシーボルト来日200周年となります」
シーボルトは江戸時代に活躍したドイツ生まれの医学者・博物学者で、日本史では鳴滝塾を開設し、後に「シーボルト事件」を起こしたことでよく知られている。
蘭学(西洋医学)を講義した医師としてのイメージは強いが、実は日本の動植物や鉱物をヨーロッパに持ち帰り紹介したことも歴史的に大きな意義だと川田氏は言う。
「自身も『日本植物誌』を共著で刊行するなど、日本の哺乳類を欧米式で研究・分類、名前が付けられ、学問の世界に紹介される出発点を作ったといえるのではないでしょうか」(川田氏)
歴史的な転機を軸に、「日本における哺乳類学の始まりと発展」「科学と哺乳類学」「哺乳類学の現在とこれから」と時系列で展示。広くはない会場だが、貴重なコレクションや文献などが所狭しと並べられているのは圧巻だ。
中には普段は展示されない「タイプ標本」と呼ばれる標本もある。これは「ある生物が新種であることを示した論文内で使われた、その動物の特徴(形質)を保証する標本」を指す。
企画した別の担当者は「すべての標本の元で世界に一つしかないもので基準となるもの。極力保管すべきものです」とその価値を説明する。
また産業機械メーカーで、京都に本社のある島津製作所の標本部が明治時代、学校教育のために製作・販売していたものまで紹介され、同社の意外な一面に触れるのも面白い。
会場に「ある仕掛け」が用意
展示物にはキャプションが付けられ、すべて川田氏が工夫して書いたそうで、ユーモアたっぷりな内容も見どころと言えそうだ。
そしてもう一つ、特に説明はないが、入り口のパネルに描かれたシーボルトの近くに「覗き穴」がある。
展示される、ジャイアントパンダ、オカピ、そしてコビトカバの「世界三大珍獣」に関係した「ちょっとした遊び心」であり、川田氏が仕掛けたものだ。
「普通はやらないでしょうね笑。会場で気付いてほしい」、と川田氏のイタズラがばれた子どものような表情を浮かべる。
デジタルによる表現方法が当たり前となる今だからこそ、こうしたアナログな手法が「より心に響くのでは」。そんな気持ちになる企画展だった。
●information
企画展「科博の標本・資料でたどる日本の哺乳類学の軌跡」
開催場所:国立科学博物館(東京・上野公園) 日本館1階 企画展示室
開催期間:4月25日~8月16日