藤井聡太棋聖への挑戦権を争う第94期ヒューリック杯棋聖戦(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)は、挑戦者決定戦の永瀬拓矢王座―佐々木大地七段戦が4月24日(月)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、165手で勝利を収めた佐々木七段が自身初となるタイトル挑戦を決めました。
相掛かりの力戦形
振り駒で先手番を得た佐々木七段は得意の相掛かりを採用。飛車先の歩交換を保留したまま角道を開けたのが序盤の工夫で、最速手順での攻撃陣の構築を目指します。これを許さじと永瀬王座が8筋の歩交換で対抗したため、佐々木七段の左金は7七金型の愚形に誘導されました。類似の応酬が右辺でも出現し、永瀬王座も左金を同様の異形に構えます。
理想形を妨げ合う競り合いののち盤上は類例のない力戦形に進展しますが、駒組みが進むにつれて両者の守備陣は「玉の守りは金銀三枚」の格言通りの構えに落ち着きました。駒の損得はない局面ながら、佐々木七段の繰り出した右銀が後手陣に大きな圧力をかけているのは見逃せない点です。永瀬王座は角の活用に苦労する形で、作戦負けの感が否めません。
明暗分かれた左金の運命
黙っていてはジリ貧と見た後手の永瀬王座は次々に歩を突き捨てて本格的な戦いを開始。歩損の代償に愚形の左金をほぐしたのは自陣に眠る角の活用を楽にした意味ですが、佐々木七段に3筋からの合わせの歩で反撃されてみると玉頭周辺の薄みという悩みがつきまといます。反対に佐々木七段の左金は自らの玉頭を守る「金冠」として輝いています。
永瀬王座の仕掛けをうまくいなした先手の佐々木七段は、自陣の堅さを生かして怒涛の反撃に踏み込みます。盤上中央に引き成った馬を中心に、着実な攻めで駒得を広げて徐々にリードを拡大しました。終局時刻は19時58分、最後まで逆転の余地を与えなかった佐々木七段が永瀬王座相手に完勝ともいえる内容で自身初となるタイトル挑戦を決めました。
勝った佐々木七段は局後、「厳しい戦いになるのは重々承知ですが、それでも食らいついていきたいと思います」と抱負を語りました。4年前の棋王戦挑戦者決定戦で敗れた経験のある佐々木七段としては待望のタイトル挑戦です。注目の五番勝負は6月5日(月)にベトナム・ダナンの「ダナン三日月」で開幕します。
※2023年04月25日午後5時10分、記事初出時、記事文頭に誤りがございました。お詫びして訂正いたします。
水留 啓(将棋情報局)
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