次に、多層NbxMo1-xS2/MoS2接合構造を利用し、電子輸送特性の評価が行われた。その結果、多層NbxMo1-xS2を利用した場合でも、WSe2と同様に結晶端からのMoS2の成長が確認された。
続いて、トンネル電流の検証のためにシリコン基板上の試料のNbxMo1-xS2(p型半導体の役割を担う)とMoS2(n型半導体)に電極を付け、接合界面を流れる電流の影響が調べられた。MoS2については、シリコン基板表面のSiO2酸化膜を介して電圧(ゲート電圧と呼ばれる)を印加することで、電子濃度が増加されている。
重要な点として、NbxMo1-xS2の価電子帯とMoS2の伝導帯は、バンドギャップと呼ばれる電子が存在できない領域を挟んで同程度のエネルギーを持つことがある。この時、NbxMo1-xS2とMoS2に電圧を印加することで、トンネル電流が流れることが期待されるとする。実際、トンネル電流の寄与が大きくなる絶対温度50ケルビン(約-223℃)以下の低温において、負性微分抵抗の傾向(NDR trend)を持つ電流-電圧特性が得られたとしており、この特徴は、界面においてトンネル電流が流れている証拠の1つだという。また、この結果は電子のエネルギーの相対関係が実現していることを意味し、第一原理計算による理論予測からも支持されたとした。
一方で、このNDR trend型の電流-電圧特性からは、バンド間トンネル以外の欠陥などによる影響も電流に寄与していることが示唆されるという。今後、さらなる界面の結晶構造や電子状態の理解や制御を通じて、効率よくトンネル電流のみを流すような材料の実現が必要になるとしている。
研究チームは、発光素子などの光・電子デバイスの高性能化に関しても半導体材料の接合技術の開発は必要不可欠であり、TMDCを利用したさまざまなデバイス応用に関する波及効果が期待されるとする。また、異なる結晶が接合された界面は、TMDC以外のさまざまな物質で長く基礎研究が行われており、通常の結晶内部では見られない多くの物理現象が発見されてきた。今回の多層TMDCの接合構造は、新たな機能や物性を探索するための候補材料としての展開も期待されるとしている。