4月から新社会人として働き始めて、最初にお給料をもらったときは特別な気持ちになると思います。お世話になった人へのプレゼントを買ったり、自分へのご褒美を買ったり、初任給の使い方をあらかじめ考えている人もいるかもしれませんね。そこで改めて給与明細を見たときに、「思ったより少ない!」、「何でこんなに引かれているの?」と疑問に思うこともあるでしょう。ここでは給与明細の見方を知るために、各項目の説明から控除される金額の計算方法まで、わかりやすく解説します。

  • 「何でこんなに引かれてるの!?」給与からお金が引かれるワケや明細の見方を解説!

■給与明細の項目を確認

会社からもらう給与明細の様式はさまざまですが、基本的に「勤怠」「支給」「控除」の3つの要素で構成されています。

●「勤怠」は働いた実績

「勤怠」の欄には、勤務日数や欠勤日数、有給取得日数、総労働時間、時間外労働時間など、働いた実績が書かれています。これをもとに給与金額を計算します。

気を付けたい点は、締め日と支払日です。たとえば、当月15日締め、当月25日支払いであれば、当月25日に支払われる給与明細には、先月16日から当月15日までの働いた実績が記載されています。

●「支給」は基本給や各種手当などの額面

「支給」の欄には、「基本給」と「各種手当」が記載されています。これらを合計したものが「総支給額」であり、「額面」とも呼ばれます。

「基本給」…年齢や勤続年数、スキルなどをもとにして決められる給与の基本となる賃金
「各種手当」…基本給にプラスして支給されるもの。会社によって手当の種類はさまざま

<主な手当>
・通勤手当
・残業手当
・住宅手当
・役職手当
・家族手当
・資格手当

なお、所得税を計算するときは総支給額から社会保険料を控除した金額が課税対象となりますが、通勤手当は所定の金額までは非課税となるため、総支給額から差し引きます。

●「控除」は給与から引かれる保険料や税金

「控除」の欄には、給与から差し引かれる社会保険料と税金が記載されています。それぞれ詳しく見ていきましょう。

【社会保険料】
・健康保険料
健康保険は会社員や公務員が加入する公的医療保険です。加入者やその家族が病気やケガなどをしたときに保険給付を行います。健康保険料は、標準報酬月額(月給)および標準賞与額(賞与)に保険料率をかけて計算します。保険料率は加入している健康保険組合によって異なります。 全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合は、都道府県によって保険料率は異なり、令和5年度の東京都の保険料率は10%となっています。会社と接半して支払うため、本人負担は5%となります。

<健康保険料の例(協会けんぽ)>
標準報酬月額20万円、23歳、東京都の場合

標準報酬月額20万円×保険料率5%=1万円(健康保険料)

※標準報酬月額とは、4月から6月までの給料の平均額をもとに等級に分け、健康保険料や介護保険料、厚生年金保険料を算出する際に利用するものです。この場合の給料には、基本給のほかに各種手当を含みます。

・介護保険料
介護保険は老化や疾病により介護の必要性が認定されると、介護サービスを受けられる制度です。40歳以上65歳未満の人は、健康保険料に介護保険料が上乗せされます。介護保険料は、標準報酬月額(月給)および標準賞与額(賞与)に保険料率をかけて計算します。介護保険料率は健康保険組合ごとに異なります。

全国健康保険協会(協会けんぽ)の令和5年度の東京都の保険料率は11.82%となっており、会社と折半して支払います。

<健康保険料+介護保険料の例(協会けんぽ)>
標準報酬月額20万円、40歳、東京都の場合

標準報酬月額20万円×保険料率11.82%÷2=1万1820円(健康保険料+介護保険料)

・厚生年金保険料
厚生年金保険は会社員や公務員が加入する公的年金制度で、厚生年金に加入することで同時に国民年金にも加入していることになり、国民年金(基礎年金)とその上乗せの報酬比例の年金を受け取れます。厚生年金保険料は、標準報酬月額(月給)および標準賞与額(賞与)に保険料率をかけて計算します。現在、厚生年金保険料率は18.3%で固定されており、会社と折半して支払います。

<厚生年金保険料の例>
標準報酬月額20万円、一般の場合

標準報酬月額20万円×保険料率18.3%÷2=1万8300円(厚生年金保険料)

・雇用保険料
雇用保険は失業時に受け取れる失業保険の給付や職業訓練のための給付などを行う制度です。令和5年度の労働者負担の雇用保険料率は0.6%(一般事業)となっています。

雇用保険料は1ヵ月の総支給額×雇用保険料率で計算します。

<雇用保険料の例>
1ヵ月の総支給額20万円

1ヵ月の総支給額20万円×保険料率0.6%=1200円(雇用保険料)

※総支給額とは基本給と手当を合わせた額面の金額のことであり、税金や社会保険料を差し引く前の金額です。

【税金】
・所得税
所得税は個人が1年間に得た所得に対して課税されます。会社員の場合は、毎月の給与や賞与から所定の方法により計算した所得税額が天引きされ、会社が納税者本人に代わって国に納付します。この仕組みを「源泉徴収」といいます。源泉徴収された金額に過不足があった場合は、「年末調整」によって、その年の最後の給与で精算します。

【源泉徴収税額の求め方】
その月の総支給額から社会保険料と通勤手当(非課税となる額)を差し引いた金額を国税庁が出している表に当てはめると源泉徴収税額が求められます。 

国税庁「令和5年分 源泉徴収税額表」

<源泉徴収される所得税の例>
1ヵ月の総支給額20万円、通勤手当2万円(非課税)、社会保険料2万9500円、扶養親族なしの場合

総支給額20万円-通勤手当2万円-社会保険料2万9500円=15万500円(課税の対象となる額)

上記の源泉徴収税額表に当てはめると源泉徴収される所得税は2980円となります。

・住民税
住民税は居住地の都道府県や市区町村に対して納付する税です。前年の所得に対して課税され、会社員の場合はその年の6月から翌年の5月までの12回に分割して給与から天引きされます(特別徴収)。そのため、前年の所得がない新入社員は住民税の徴収はなく、2年目から課税されます。

住民税は、前年の所得をもとに課税される「所得割」と所得にかかわらず定額で課税される「均等割」で成り立っています。所得割は一律10%(道府県民税4%、市町村民税6%)です。

■手取りはいくら?

ここまでの例を踏まえて、手取りを計算してみましょう。

  • 手取りを計算!

<条件>
東京都に勤務の新入社員のAさん(23歳)
総支給額20万円
健康保険料1万円
介護保険料なし
厚生年金保険料1万8300円
雇用保険料1200円
所得税2980円
住民税なし(前年の所得がないため)
控除額の合計3万2480円

総支給額20万円-控除額3万2480円=16万7520円

新入社員Aさんの手取りは16万7520円となりました。
※初任給の場合、会社によってはから控除されない項目もあります

■まとめ

社会保険は、加入者やその家族が、病気やケガ、介護、死亡、失業など、一定の事由に当てはまったときに、加入者から集めた保険料によって必要な給付を行う制度です。また、所得税や住民税は、国や地方公共団体が行う活動の財源となります。つまり、社会保険料や税金を納めることは、社会の一員として大事な役目を果たしていることになります。給与明細を見て、「いろいろ引かれているな」から「社会の役に立っているな」と感じたとき、改めて社会人になったことを実感できるのではないでしょうか。