作物の減収の要因「非生物的ストレス」に効く

作物にかかるストレスというと、真っ先に思い浮かぶのは、害虫や雑草、病原菌などによる「生物的ストレス」だろう。それに対して、「非生物的ストレス」があり、実は生物的ストレスと同等、あるいはそれ以上の減収をもたらす。

画像提供:和田哲夫

具体的には、低温や高温、低日照、サンバーン(日焼け反応)、多雨、干ばつ、塩害などが挙げられる。作物がこうしたストレスにさらされて受けるダメージを軽減し、生体の持つ機能を維持、高進、促進する。それがバイオスティミュラント(BS)に期待されている役割だ。

BSは直訳すると「生物刺激剤」。簡単に言えば、作物の「免疫力を高める」物質や微生物などである。

画像提供:和田哲夫

BS資材は主に、次のような製品カテゴリーに分けられる。

① 腐植質、有機酸資材(腐植酸、フルボ酸)
② 海藻および海藻抽出物、多糖類
③ アミノ酸およびペプチド資材
④ 微量ミネラル、ビタミン
⑤ 微生物資材(トリコデルマ菌、菌根菌、酵母、枯草菌、根粒菌など)
⑥ その他(動植物由来機能性成分、微生物代謝物、微生物活性化資材など)

基本的に、農薬のような毒性はない。
「それだけに、BSはEUで2022年に施行された『新肥料法』の範囲に含まれることになり、『農薬規制法』とは関係がなくなりました。EUや米国は、環境負荷の軽減も視野にBSを促進する政策を進めています。日本の『みどりの食料システム戦略』(※1)も、同じ傾向の政策になります」(和田さん)

BSの世界市場はおよそ4000億円とされ、年率15%ほどの成長を、今後も続けていくとみられる。国内の市場規模は、100~200億円ほどと推定されている。

※1 持続可能な食料システムの構築を目指し、2021年に策定。「2050年までに化学農薬の使用量50%減、化学肥料の使用量30%減、有機農業の面積を農地全体の25%に」といった目標を掲げる。

農薬のスペシャリストがBSと出会い普及に携わるまで

和田さんは、化学農薬の開発、登録、普及に携わってきた。1980年代に米国で天敵昆虫を使った防除と出会い、以来、生物農薬(※2)も扱うようになる。IPMと呼ばれる総合的病害虫・雑草管理(※3)のスペシャリストだ。

※2 病害虫や雑草など農作物の生育に害をもたらすものの防除を、農薬のみに頼らず、あらゆる技術を総合的に組み合わせて行うこと。
※3 農薬として登録された生物。微生物や昆虫など。

和田哲夫さん(画像提供:和田哲夫)

BSの普及に関わるようになったのは、ここ10年ほど。以前から存在を知ってはいたものの、米国で農薬の研究者から「ああいうものは、眉唾ものですね」という意味のことを言われ、妙に納得した記憶があるという。

BSは生物農薬より安価で、以前は世界中でどの法律の規制を受けるか不明確で、効果の証明も求められないので、参入障壁が低かった。小さな製造メーカーが多く、効くのか疑わしいものも出回りがちだった。

半信半疑だった和田さんは、どういう風の吹き回しで、普及を担うようになったのか。
「怪しいものだけではなく、本当に効果を発揮するものもあって、しっかりした研究を積み重ねている研究者もいると知ったからです。遺伝子レベルでの研究がなされ、効果が証明されている製品もあります。BSは確かに玉石混交の資材ではあるけれども、人類に与えられた極めて重要な製品群で、利用しない手はないと今は考えています」

バイオスティミュラントは果樹や花木にも施せる※写真はイメージです(画像提供:和田哲夫)

信頼獲得へ自主ガイドラインの作成目指す

BSは現在、世界的にデータに基づく製品が広まる流れにある。和田さんが所属する日本バイオスティミュラント協議会も、科学に基づいた信頼性のあるBSを普及させるために2019年に設立された。

「BSを、使用者に価値を認識してもらえる性能の製品に育てないといけません。そのためには、『疑義資材』を排除することはもとより、効果のさほど安定しない製品を改良していく必要があります」(和田さん)

疑義資材とは、農薬登録を受けず、農薬としての効能や効果を掲げているか、成分からして農薬に該当しうるものをいう。BSとうたいながら、農薬の疑いを掛けられる疑義資材が出回っては、BS普及の妨げになる。

異常気象などにより作物にストレスがかかる機会が増えているだけに、バイオスティミュラントの効果が期待されている※写真はイメージです(画像提供:和田哲夫)

協議会では、BSに独自の基準となる自主ガイドラインを設けようとしている。とくに「安全性」「品質」「効能表記」の三つを重視し、「生産者が安心・安全に使えること」と「メーカーが製品に責任を持つこと」を満たす内容にするつもりだ。

多様性がある資材だけに、厄介なのが、効能表記にどの程度の科学的根拠を求めるかということ。試験管レベルの実験から、圃場(ほじょう)で数年かける実験まで含めると、効果を証明するには時間がかかる。効き目が明確に出やすい農薬と違って、環境によって有意差が出ない可能性もある。

「そのため、参考にできないかと考えているのが、『機能性表示食品』のしくみです。臨床試験が必要な『特定保健用食品』と違い、機能性表示食品では有効成分の科学的根拠が二つ以上の学術論文に記されていれば、それを根拠に届け出ができます」(和田さん)

機能性表示食品は、事業者の責任において、商品に機能性を表示する。学術的に効果が証明されていれば、BSでも同様のしくみを設けられるのではないかと協議会で議論している。

「農薬だと、作物によっては使える製品が限られています。そういう場合や、作物の体力が落ちている場合には、治せるのはBSになる」と和田さん。ガイドラインの制定で品質が担保されれば、栽培における困りごとを解決しうる助っ人として、BSの活躍の場が今以上に広がっていきそうだ。

日本バイオスティミュラント協議会

参考文献:日本バイオスティミュラント協議会「バイオスティミュラントガイドブック 第2版」(2022年)