『白い巨塔』などで知られる脚本家の井上由美子が、金や権力に群がる人間たちの悲喜劇と世の中の裏で暗躍するフィクサーを主人公に描く『連続ドラマW フィクサー Season1』が、WOWOWプライム&WOWOWオンデマンドにて、4月23日から放送&配信される(毎週日曜 22:00~全5話 ※第1話は無料放送)。表舞台に立つ権力者を不敵な笑みで引き込む主人公のフィクサー・設楽拳一を演じる唐沢寿明を直撃し、本作の見どころとともに、「基本的には何も信じない」という唐沢が「唯一信じられること」についても語ってもらった

  • 唐沢寿明

――唐沢さんのなかでは、"フィクサー"に対してどんなイメージがありましたか?

きっと政界だけじゃなく、どの業界にもいるんじゃない(笑)? 「ほぼ正体はわかってるけど、決定的な証拠がない」みたいな存在が、いわゆる"フィクサー"と呼ばれる人たちなんじゃないかという気がするけど、そもそも自分達のような業界も、俳優に限らず、監督も含めて、どこか見えない力が働く世界のなかで操られている部分もあったりするしね。

――そもそも俳優とは、「操られる側」でもあると。

まぁ、自分自身は結構冷静な人間だからそんなに簡単に操られたりしないけど、もっと言えば、この世の中は生まれながらにして「騙す側」の人間と「騙される側」の人間に分かれているというか。二種類に分かれると思うんだよね。もともとどちらか一方だけでは決して成り立たない仕組みになっている。ちょっとおだてられたり褒められたりしただけで、すぐに何でもやっちゃう人とかいるじゃない? このドラマにもそういう政治家が出てくるけどさ。

――本作の脚本を担当されている井上由美子さんとは、『白い巨塔』(フジテレビ系 2003~04年)、『メイドインジャパン』(NHK総合 2013年)、『ハラスメントゲーム』(テレビ東京系 2018年)に続き、今回4度目のタッグになるそうですね。井上脚本で『フィクサー』を演じる面白さと難しさとは?

今回のドラマで自分が演じる設楽という男は、善人なのか、悪人なのか、しばらく観ていてもよくわからないところがあるし、「主役とそれ以外」みたいな描き方じゃないところもいい。脚本は間違いなく面白い。登場人物全員のキャラクター像がしっかり丁寧に書き込まれているのが井上さんの脚本の特長でもあると思うんだけど、全体のバランスを考えた上でそれぞれのキャラクターのストーリーをちゃんと着地させていくのって、ものすごく才能がある脚本家にしかできない芸当だと思うし、監督も西浦正記さんだから、絶対にいいものになるだろうなという信頼はある。設楽は"究極の裏方"とも言うべき立場なので、彼の動きを注視するというよりも、設楽の行動によって彼の周りの人間たちがどう動いていくのかを見て楽しむドラマになるんじゃないかな。設楽の秘書兼、運転手の丸岡を演じる要潤くんなんて、ほとんどセリフはないんだけど、とてつもない存在感を放っているし、総理の秘書官の中埜を演じる藤木くんとは過去に何度も共演しているけど、「顔つきからしてこれまでとは全く違うぞ」っていうのが、きっと劇中の中埜を一目見ただけでもわかると思うよ。

――素晴らしい脚本と信頼のおける演出家のもと、実力のある俳優たちが本気で芝居を交わす現場となると、互いに触発される部分もあったのでは?

台本を読んで、それぞれが自分が演じる役をどうやって構築していったらいいかを考えて、並々ならぬ熱量で現場に臨んでいるなっていうのは、芝居をするなかでもやっぱり感じられたよね。自分自身もそれに正面から向き合って演じたつもりだし、「大人としてやるべき作品に出会えたな」って、思ったところはある。きっと俳優ならみんな誰しも、今回みたいに「ちゃんとした脚本で思いきり芝居をやりたい」という欲を持っているものだと思うけど、逆に言ったら、今回これだけの大作に出ちゃったら、「次どうするんだよ?」っていう不安も正直あったりする(笑)。もちろん「やれ!」って言われたら何でもやりますけどね。いい年して爆弾持って飛んだり跳ねたりするような役は、年齢的に大変なんだよ(苦笑)。