研究チームはこれらの化石を網羅的に計測して3次元形状を取得し、特に化石の面に残されている微細な凹凸構造に注目した分析を行った。すると、先行研究において筋節、脳、鰓孔、鰭を支える構造と同定されていた構造が、脊椎動物のそれらとは異なる特徴を持つことから、タリーモンスターは脊椎動物ではないことが示唆されたとする。たとえば、脊椎動物は頭部に明瞭な分節構造を持たないという特徴を持つが、タリーモンスターの頭部には体幹部から連続して分節構造が存在しており、脊椎動物の頭部とは形態学的に大きく異なっていることが明らかにされた。

  • タリーモンスターの頭部の分節構造。(左)タリーモンスターの化石標本。(右)同じ標本の表面の起伏を色で表現した図。タリーモンスターの分節構造は、体幹部(白かっこ)だけでなく頭部(赤かっこ)にも立体構造として明瞭に保存されていた

    タリーモンスターの頭部の分節構造。(左)タリーモンスターの化石標本。(右)同じ標本の表面の起伏を色で表現した図。タリーモンスターの分節構造は、体幹部(白かっこ)だけでなく頭部(赤かっこ)にも立体構造として明瞭に保存されていた(出所:東大Webサイト)

また先行研究では、タリーモンスターの鰭には、円口類と同様に、鰭を支持する構造があるとされていたが、メゾンクリークの他の動物化石と比較した結果、この構造は支持構造を持たない鰭が波打つことでできるひだのようなものであり、タリーモンスターは鰭を支持する構造を持たないことも判明した。

  • タリーモンスターの尾鰭には鰭を支持する構造がない。同じ地層から産出した他の動物化石と比較した結果、タリーモンスターの尾鰭は鰭を支持する構造を欠いていたことが示された

    タリーモンスターの尾鰭には鰭を支持する構造がない。同じ地層から産出した他の動物化石と比較した結果、タリーモンスターの尾鰭は鰭を支持する構造を欠いていたことが示された(出所:東大Webサイト)

さらに今回の研究では、X線マイクロCTを用いて、タリーモンスターが持つ歯のような構造の精密観察も行われた。その結果、タリーモンスターの「歯」の構造は、これまで知られていた「傘型」と今回新たに発見した「基部隆起型」の2タイプに分けられ、それぞれ顎状構造の下側と上側だけに生えていることが確認された。

先行研究では、脊椎動物との類似性として、タリーモンスターの傘型の歯がヤツメウナギやヌタウナギの角質歯に似ていることが挙げられていたものの、今回新たに発見された基部隆起型の歯は、ヤツメウナギやヌタウナギの角質歯には見られない形状だという。そのため、この器官に関しても、タリーモンスターが脊椎動物である可能性に疑問を投げかけることとなったとしている。

  • タリーモンスターの「歯」。左図において顎状構造の上側に分布する基部隆起型と、下側に分布する傘型の、2タイプの「歯」が存在する

    タリーモンスターの「歯」。左図において顎状構造の上側に分布する基部隆起型と、下側に分布する傘型の、2タイプの「歯」が存在する(出所:東大Webサイト)

研究チームによると、今回の研究成果は、タリーモンスターが脊椎動物以外の脊索動物か、形態的に特殊化したなんらかの旧口動物(前口動物とも呼ばれる)であることを示唆しているとする。そして、60年近く続いているタリーモンスターの正体を巡る論争に大きな進展をもたらすものとしており、より詳細な分類学的位置については、今後のさらなる検証が必要としている。