小田原市、NTTe-Sports、NTT東日本神奈川事業部は、小田原城址公園二の丸広場で小田原市初主催となるeスポーツ大会「小田原eスポーツ2023~春の陣~」を3月19日に開催。「ポケモンユナイト」のトーナメント大会に5人1組の16チームが出場した。
なぜ小田原市がこのようなeスポーツ大会を開催したのか? イベントの背景を小田原市経済部観光課の飯山淳二氏と宇佐美雄也氏に聞いた。
eスポーツで観光を促進するため毎週体験会を実施
「今でこそ"歴女"のようなかたちで若い子たちも来てくれますが、歴史観光というと、やはり最近の観光協会の調査でも40代以上の女性が一番多い。20代などの間では"小田原に観光のイメージがない"という状況です」とは、同市の観光課長・飯山氏。
小田原城を軸とした歴史観光が定番となってきた小田原市は、若年層を中心とした誘客・回遊性向上といった課題を長年抱えてきた。そこで同市は地域経済の活性化や課題解決を目指し、eスポーツを活用した観光誘客事業に取り組んでいる。
「2021年にオープンした小田原三の丸ホール(小田原市民ホール)の新しい活用法を考えていたとき、着目したのが近年人気のeスポーツでした。従来の観光とeスポーツって、一見するとなかなかリンクしない部分もありますが、観光領域におけるデジタル化の推進をかけ合わせ、助成金を活用しながらスタートさせた事業です」(飯山氏)
若年層に人気があり、年齢性別、障がいの有無に関係なく多くの人が参加できるeスポーツ。本事業の推進役に抜擢された宇佐美氏は子どもの頃からゲームに親しんできたという。
「ゲーミングPCでプレイしたことなどはなかったですが、ゲーム自体は子どもの頃からやってきて、プレステやNintendo Switchといった据え置きの家庭用ゲーム機で遊んでいました。働き始めてからは多少触るくらいでしたが、子どもの頃は家電量販店などで開催されているようなゲーム大会に出たこともありましたね」(宇佐美氏)
昨年11月にキックオフイベントとして『小田原eスポーツ〜出陣式〜』を天守閣広場で実施し、「おだわらイノベーションラボ」内でeスポーツ無料体験施設「e-zone」を整備。今年1月には3日間にわたる無料体験会「小田原eスポーツ部」を開催した。
年度末に向けて2日間の日程で準備していた「小田原eスポーツ2023~春の陣~」は、そうした取り組みの集大成といった位置づけの大会となっている(1日目は雨天のため中止)。
「出場16チームのうち、5チームはe-zoneに普段来てくれている子や小田原eスポーツ部に来てくれた子のチーム。小田原市のeスポーツを活用した観光誘客事業は、まだまだ始まったばかりの段階ですが、年度の最後を見据え、この大会を成功させるための準備をしてきました」(宇佐美氏)
「ポケモンユナイト」で幅広い市民に訴求
ポケモンユナイトの「ユナイトバトル」は、プレイヤーが1匹のポケモンを操作し、仲間と協力して制限時間内により多くのスコアを獲得するチーム戦だ。
2日目の「小田原eスポーツ~小田原城決戦~」のもようはオンラインにてライブ配信も行われ、ゲームキャスターの郡正夫(コーリー)さんとRefuさんがそれぞれ実況と解説を担当。ポケモンユナイトを知らない人も試合を楽しめるよう、戦略やスキルを磨いてきたチーム同士のバトルを伝えた。
「NTT東日本神奈川事業部様とは半年以上、毎週打ち合わせしましたし、毎日電話・メールしていました。e-zoneオープン日に会場周辺でのビラ配りなど、集客・周知の面で地道な活動にも参加してくださって。何しろ初めての大会なので、大会形式やレギュレーションに関してはNTTe-Sports様の知見や助言がたいへん参考になりました」(宇佐美氏)
参加チーム集めなどPR面の取り組みには苦労があったそうだが、無料体験会などを拠点に周知を進めてきたという。
eスポーツでは「VALORANT」や「Apex Legends」などのFPSゲームも定番人気のタイトル。ポケモンユナイトはアジアチャンピオンを決める招待制リーグ戦も開催されているタイトルだが、本大会にこのゲームを選んだのにも理由があるそうだ。
「今はまだ小田原のeスポーツの取り組みを浸透・普及させていく段階なので、なるべく間口が広く、誰でも親しみやすいポケモンのタイトルを選びました。もちろんFPSの大会は人気ですし、集客力もあると思いますが、どちらかというとeスポーツに興味があるコアな層にしか響かない可能性もあるのかなと」(宇佐美氏)
また、アニメ版『ポケットモンスター』の中心スタッフとして、『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』などの映画作品も手がけてきた脚本家・首藤剛志氏と小田原市の関わりも背景となっている。
「首藤さんは生前小田原市にお住まいだったこともあって市にアニメの脚本を寄贈してくださいました。実は市立図書館で申請すれば誰でも閲覧できます。その意味ではポケモンと小田原市のゆかりみたいなものもあるんです」(宇佐美氏)
あえて屋外イベントにしたわけ
小田原市では公式Twitterなどで情報発信を行い、1月21日~3月5日にかけて本大会の出場チームのエントリーを開始。実際に出場者として本大会に世界レベルの選手が率いるチームから、家族混成チーム、企業・学校の仲間同士など多様なチームが参戦した。
愛媛や岡山、北海道など遠方から参加した選手もいたようで、レベルの高い熱戦が繰り広げられた結果、初代優勝チームに「オーバークック全一軍団」が輝いた。
先進的なeスポーツの取り組みに注力する自治体は小田原市以外にも存在するが、歴史的な建造物の敷地内での屋外開催、しかも今回のような規模のeスポーツイベントは、かなり珍しいようだ。
「eスポーツの大会ってオンライン開催も多いですし、オフラインでやるにしても屋内開催が多いので、小田原城の屋外での開催にはこだわりました。もともとポケモンユナイトはオフライン大会が少ない上、今回は市内企業からご提供いただいた副賞も豪華なので、高い関心を持たれたのかなと(笑)。副賞には地元の名産も用意してありますし、オンライン配信している動画はアーカイブに残るので、今回の大会を通じて少しでも小田原のことを知ってもらうきっかけになればと思っています」(宇佐美氏)
トーナメント大会当日には、たまたま会場のそばを通りがかった老若男女が興味深げに足を止め、会場に立ち寄るような様子なども見受けられた。
「来年度以降もこうした大会は開催していきたいです。ただ、今回1日目の日程が雨天中止となってしまったので、屋内・屋外どちらの開催かは今後検討していきます。引き続き体験会などは継続しつつ、令和5年度は市内の高校eスポーツ部の支援として、ゲーミングPCや周辺機器の無料貸与も3校へ実施予定です」(宇佐美氏)
歴史観光とeスポーツという一見、対照的なかけ合わせで新しいまちの魅力や賑わいの創出をビジョンに掲げ、eスポーツを活用した観光事業を推進する小田原市。
宇佐美氏は長期的にeスポーツを活用していくため、市内企業などのパートナーを発掘しながら、将来的には民間の力で自走できる体制を構築したいとも語る。すでに市内外の企業や他自治体からさまざまアプローチがあるようで、飯山氏もこれまでになかった展開や広がりをeスポーツに感じているようだ。
「当初は『なぜ観光でeスポーツなの?』とも言われたんですが、最近は商工会議所の方々などからも応援の声をいただけるようになってきました。歴史と食に加え、eスポーツという新しい要素を取り入れた観光地・小田原の認知を広げていきたいです」(飯山氏)
上位表彰チームメンバーと小田原市・副市長らがステージで、小田原市が今後eスポーツで盛り上がっていくことを祈念し、「いざ、出陣!」のかけ声によって幕を閉じた本大会。
「小田原eスポーツ~春の陣~」は全国の人に小田原の歴史や魅力を知ってもらい、グルメを体験してもらう機会として、大切な役割を果たすeスポーツ大会となっていくかもしれない。
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