季節の変わり目や環境の変化が多いこの時期、「思い当たる原因がないのになんだか体調がすぐれない」「最近よく眠れない」「イライラしやすくなった」……といった不調に悩んでいる方はいませんか? その不調、もしかしたら「自律神経」が影響しているかもしれません。
今回は、医師の伊藤有毅先生に、自律神経失調症に関するお話しをお聞きしました。自律神経失調症の原因や症状、予防策などをまとめていますので、参考にしてください。
■自律神経失調症とは? 発症の原因は?
ーー自律神経失調症について教えてください
自律神経失調症とは、なんらかの原因によって自律神経がうまく機能しなくなる症状です。自律神経とはわたしたちの意思とは関係なく、身体のさまざまな機能をコントロールしている神経を指します。たとえば、運動をすると汗をかく反応は、自律神経によって体温を上げすぎないようにするためのものです。食べ物を食べたときに胃腸の働きを活発化させて、消化をスムーズにするのも自律神経がコントロールしています。
自律神経には活動するための「交感神経」とリラックスするための「副交感神経」の2種類に分かれます。交感神経と副交感神経がバランスよく働くことで、わたしたちの状況にあわせて自然な反応をしてくれるのです。このバランスが崩れると身体をうまくコントロールができなくなり、さまざまな身体の不調が現れます。(※1)
ーー自律神経失調症を発症する原因を教えてください
自律神経失調症を発症する原因には「生活習慣の乱れ」「ストレスの蓄積」「ホルモンバランスの乱れ」などがあげられます。栄養が偏った食生活や寝不足、昼夜逆転などを繰り返すと生活習慣が乱れやすくなります。その結果、交感神経と副交感神経のバランスが崩れて自律神経失調症を引き起こしてしまうのです。
ストレスも自律神経に大きく関わっています。ストレスが溜まると交感神経が常に優位となってしまい、副交感神経がうまく働きにくくなります。(※2)「仕事や家庭での人間関係が悪い」「新しい環境で生活・仕事をしている」などの方はストレスを溜め込みやすいため、自律神経失調症の発症に注意しましょう。
また、ホルモンバランスの乱れは自律神経失調症の原因にもなります。とくに女性は男性と比べるとホルモンバランスが乱れやすい傾向にあります。とくに更年期は女性ホルモンの分泌量が減少すると同時に、自律神経の乱れも発生しやすくなるでしょう。(※1)
■自律神経失調症の症状は?
ーー自律神経失調症を発症するとどのような症状が出てきますか?
自律神経失調症を発症したときの症状は、「身体的症状」と「精神的症状」の2種類に分かれます。
身体的症状では倦怠感や息苦しさ、不眠、疲労感、めまい、関節痛、手足の冷えなどの症状があげられます。精神的症状では情緒不安定やイライラ、不安感、抑うつ、集中力の低下などの症状が代表的です。
これらの症状は複数現れる場合もあれば、時間差で出現するケースもあります。(※1)
ーー間違われやすいほかの病気はありますか?
自律神経失調症に間違われやすい病気としては、「うつ病」「心身症」「不安障害」などがあげられます。うつ病も不眠や倦怠感などの身体症状と、気分の落ち込みをはじめとした精神症状が現れます。(※3) 心身症とは身体的な疾患に関係したストレスによって、さまざまな症状が現れることです。気管支喘息やアトピー性皮膚炎などの幅広い病気から発展しやすく、身体の痛みや倦怠感などをともないます。(※4)
不安障害は、未来や直前の出来事に対して過剰な不安・心配をするようになり、日常生活に支障が現れている状態です。不安障害は特徴によって「パニック症」や「広場恐怖症」などの種類に分かれます。
それぞれの病気は自律神経失調症に似通った症状を引き起こしますが、根本的な原因や治療法が異なります。(※5)
■自律神経失調症の治療は何科で行う? 服薬以外の治療法は?
ーー自律神経失調症が疑われる場合は何科を受診したらよいのでしょうか?
自律神経失調症はストレスや疲労の蓄積からきているケースが多いので、心療内科や精神科を受診することをおすすめします。
ーー自律神経失調症と診断を受けた場合、どのような治療をするのでしょうか
自律神経失調症の症状がひどい場合は、薬を服用して治療を目指します。症状は人それぞれ異なるので、医師と相談しながら状況にあわせた薬を処方します。たとえば、抑うつや不安感が強ければ「抗うつ薬」を検討しますし、不眠によって苦しまれている方であれば「睡眠薬」を処方することもあるでしょう。その他にも、ホルモンバランスの乱れが原因であれば「ホルモン剤」を使用した治療も行います。(※1)
ーー通院は必ず必要ですか?
自律神経失調症はすぐに治るものではなく、基本的には継続的な治療が必要です。そのため、通院を続けて適切な指導のもとで治療を行うことをおすすめします。
ーー薬の服用以外の治療法はありますか?
自律神経失調症は薬以外にも「認知行動療法」による治療も行われることがあります。認知行動療法とは、今までの自分の考え方や行動に対するとらえ方を変えていく治療法です。たとえば「今日は疲れていて何もできなかったから、自分はダメなんだ」という考え方をしたとしましょう。そのマイナスの考え方だけを持っていると、気分も余計に落ち込みますし、自律神経失調症の改善も遅れてしまいます。
認知行動療法では、その考え方を見直して「今日は疲れてたから、身体を休める必要があったんだ」と、前向きにとらえられるようにします。物事のとらえ方を変えることでマイナスな感情が軽減され、症状の改善・悪化防止が期待できるでしょう。(※6)
■日常生活でできる、対策について
ーー自律神経のバランスを整え、乱れを防ぐために日常生活でできる工夫を教えてください
生活習慣を整える、ストレスを発散させるなどのセルフケアが大切です。積み重なったストレスや生活習慣の崩れは自律神経の乱れにつながるので、自律神経失調症を助長してしまう恐れがあります。起床・就寝時間を一定にして、栄養バランスが良好な食生活を送ることで、自律神経が整って正常な状態へと近づくでしょう。
また、ストレスは交感神経を必要以上に興奮させてしまう原因です。副交感神経をうまく働かせて自律神経のバランスを整えるには、ストレスを解消できる手段を持っておきましょう。適度な運動や入浴、音楽鑑賞など、気分がさっぱりしてリラックスできるような自分の趣味を見つけてみてください。
<出典>
(※1) 自律神経失調症 - e-ヘルスネット - 厚生労働省
(※2) ストレスとは | 専門家コラム | 働く女性の心とからだの応援サイト
(※3) うつ病|こころの情報サイト
(※4) 心身症 | NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター
(※5) 不安症|こころの情報サイト
(※6) 認知行動療法 - e-ヘルスネット - 厚生労働省
監修ドクター: 伊藤 有毅先生
柏メンタルクリニック所属。日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医などの資格を保有。
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