マイナビが主催する国内最大の高校生ビジネスコンテスト「マイナビキャリア甲子園2022」の決勝大会が3月に開催され、「Urbanists」の2人が総合優勝を果たし全国2,318チーム・8,959人の頂点に立ちました。
「マイナビキャリア甲子園」とは、協賛企業・団体が出題したテーマを各チームが選択し、テーマに応じたビジネスアイデアを競うというものです。
UrbanistsはVisa(ビザ・ワールドワイド・ジャパン)が出題した「Visaの目指す、インクルーシブで豊かな社会の実現のために、Visaデビットの特徴を踏まえ、ストレスフリーな新しい生活様式に取り入れたいサービスを提案せよ」というテーマを選び「emobby」というサービスを提案。見事に栄冠を勝ち取りました。
そこで今回は、優勝したUrbanistsの礒津恵凛さん(Crimson Global Academy)と林愛子さん(千葉県立東葛飾高等学校)の2人に話を聞きました。インタビューにはテーマを出題したVisaから、コンシューマーソリューションズディレクターの松本直久さん、谷島秀一さんも同席しています。
都市計画と建築に興味のある2人でチームを結成
――まずは、優勝おめでとうございます。優勝が決まった瞬間、どのようなお気持ちでしたか?
林さん 優勝が発表される直前までは、自分を信じ続けるか、逆に疑うのか、という心の狭間にいたというのが正直なところです。プレゼンが終わった直後は2人で本当に絶望していて、「うまくいかなかった」「でも、うまくできたかな」みたいなことを考えていたので、優勝して驚きました。
――プレゼンで思うようにはいかなかったことが?
林さん まずはプレゼンの制限時間(1チーム10分)です。最後の私の発表パートに2分残っているはずが1分10秒しかなくなっていて。どうしようか考えながらプレゼンを続けて、「残り8秒」の表示を見て焦って残りはすべてカットしてギリギリ残り0秒で終わらせたので、ちょっと言い残したことがありました。審査員からの質疑応答も、2人で囁き合って相談しながらの回答になってしまったり……そういったことが完璧ではなく絶望していました。
礒津さん 私が担当時間をオーバーしてしまって本当に申し訳なかったのですが、ピタリと終わらせてくれて本当にすごいと思いました。あれはこの1年、いやこの5年の中で一番感謝しています。
――そもそもまずこのマイナビキャリア甲子園に参加を決めたきっかけは何だったのでしょうか?
礒津さん 昨年9月まで米スタンフォード大学が提供しているプログラム「Stanford e-Entrepreneurship」に一緒に参加していました。10月頃この大会の募集を見かけて参加してみたいという気持ちが芽生えたのですが、「2人以上で参加」という条件のため、チームメイトとして思い浮かんだのが(林)愛子ちゃんでした。
彼女はStanford e-Entrepreneurshipでも本当に素晴らしい成績を残していましたし、人として考えることも私とは次元が違いすごく尊敬していて、チームメイトとして一緒にやりたいと思って誘いました。それが10月の中旬か後半ぐらいでした。
私はもともとビジネスというものにすごく興味があって、自分でもスタートアップを始めようとしています。父が起業をしている人で日々起業についての話をしていて、今の学校でもビジネスや経済学を学んでいるので、自分の知っていることや興味のあることにぴったりの大会だと思ったのが参加のきっかけです。
林さん 私は建築学や都市計画を学んでいるのですが、同じ興味を持つ2人で新たな化学反応を生み出すいい機会かもしれないと思って誘いを受け入れました。
「若者の居場所不足」と「まちの感性の可視化」をテーマに
2人は「まちの中に若者の居場所がない」ことに着目。今回プレゼンで提案したemobbyは、Visaのデビットカードとネットワークを活用し、まちの中の感性を可視化する"居場所創造アプリ"サービスだそうです。
――今回、Visaのテーマを選択されましたが、これを選んだのはなぜなんでしょうか。
林さん もともと自分の中でやってみたいと思っていたアイデアに、「まちの中に若者の居場所が不足していること」と「まちの感性を可視化したい」という2つがあって、これをうまく結びつけてビジネスアイデアとして提案できるものを探していたのですが、今回のVisaさんのテーマはすごく意味が広くて、このアイデアも許してくれると考えました。
――もともと持っていたアイデアだったのですね。
林さん そうですね。2020年に学校の最寄り駅(千葉県・JR柏駅)がある柏市のまちづくり機関である「柏アーバンデザインセンター」の会議にパネリストとして出たことがありました。
センターが行った「駅前広場にイスを設置する」という社会実験に中高生がすごく集まったことがあって、「もしかしたらまちの中に中高生がお金を使わないで入れるような場所が不足しているのではないか」という話になり、私も若者の当事者としてすごく興味を抱いたのがアイデアのきっかけだったと思います。
「まちの感性の可視化」は、私の学問的な欲求に素直に従ったものです。今のまちづくりというのは、性別や年代などすでに定量化されたものを使っていますが、趣味や聴いている音楽など簡単に定量化できないものを定量化してまちづくりに反映し、もっといろんなパラメーターをまちづくりに利用できるようになったら絶対に楽しい、という思いがありました。
――柏駅というと、ストリートミュージシャンがよく演奏をしていて若者が集まっているエリアという印象があったんですが、最近はそうでもないんでしょうか?
林さん 今でもありますし、柏も音楽のまちとして売ってはいるのですが、掲げているものと現実にはどんどん乖離が生じていると感じています。今も駅前で音楽をやっている人はいますが、だんだんと消極的になっている状況はあるのだと思います。
――礒津さんは東京都品川区在住ということですが、柏のお話を聞いてどのように感じましたか?
礒津さん 住んでいる場所が違っても、まちが抱えている課題は似ているなと思いました。私が実際に品川区役所に行って若者に関する定量化や支援の話を伺ったときも、若者の意見を収集しきれていないという認識はあっても、それを集める媒体がなかったり、行政としてもお金をかける余裕もなかったりで若者支援ができていないというのが実情ということでした。
人口も多く、活発に地域に貢献している学生の多い品川区でもそうなのだから、全国的にも同じ問題があるのではないかと思って、彼女(林さん)の提案にはすごく賛同できました。
――emobbyにおける、他のサービスにはない新しい部分というのはなんだと思いますか?
林さん おそらく「若者の居場所が不足している」という、大人からはなかなか見えづらい視点を軸に置いたことに新規性があったのではないかと思っています。
お互いの強みを生かして
――この大会に向けて取り組む中で得られた気付きのようなものはありますか?
礒津さん 大きく2つありまして、1つはトライアンドエラーをすることです。普通は80~90%できたら満足して、あとはいかによく見せるかということに時間を費やすと思うんですが、私たちはそれで満足せずに全部壊して何度も一からつくり直しました。時間はかかったのですが、それが吉と出て優勝できました。高校生という比較的時間がある時にそういう経験ができたのは有意義なことだと思っています。
もう1つが自分の弱みを認めることです。今回かなりパート分けをしっかりして、私がプレゼン資料をつくる、彼女(林さん)が主軸を決めるというように、きっちりと担当を分けてやりました。苦手なことは得意な人に任せて変に意地を張らないでやる、得意なところを伸ばしていく、というやり方がうまくいったと思います。
林さん 私の中で一番大きかったのは、学問をビジネス化することの難しさを半年かけて感じたことです。実際に先行事例を調べていく中でも、どうしても個人的過ぎる、学問的すぎて一部の人にしか理解してもらえない、といった理由でうまくいかないものもありました。そうした中でビジネスに関心を持っていて、かつ普段から学んでいるチームメイトとともに、学問に基づいてビジネスアイデアを練ることができたというのは非常に有意義だったと思います。
彼女(礒津さん)も言うように、パート分けして、各々の特性を理解してビジネスアイデアを深めていくというのも良かったです。例えば彼女(礒津さん)が一度、私の考えは「すごく研究者的」ということを言ってくれたことがあって、自分ではそう思っていなかったのですが、普段から自分が持っている思考の癖を客観的に知ることができたのはすごくいい経験でした。
新しい目線の切り口や行動力、試行錯誤など評価
――松本さんと谷島さんにお聞きします。大会を振り返っていかがでしたか?
松本さん この大会の準備に費やす半年間という期間は高校生活3年間のうち1/6にあたり、皆さんが相当の思い入れやエネルギーを注いでいるのが伝わってくる大会でした。準決勝まではVisaのテーマを選んだチームしか見ないので、決勝で初めて他のテーマのチームを見たのですが、クオリティにも熱量にも圧倒されました。
――Visaが今回のテーマを設定した背景を教えてください。
谷島さん Visaというのは消費者から見たときに、近いようで遠い企業、分かりづらい企業だと思っています。高校生にとってはより分かりづらいと思うので、デビットがどういう商品なのかを知ってもらうきっかけになればいいと思ってテーマを出しました。デビットに力を入れていくことに加えて、単に「デビットをどう売ればいいか?」という直接的な質問ではなく、もっと可能性を広げてアイデアを考えてほしいので、我々の企業としてのミッションであるインクルーシブやストレスフリーといった点も考慮した広い視点での面白いアイデアを聞きたいというテーマになります。
松本さん 大会テーマ「NEXT GATE」に合うテーマ設定にもできたかなと感じています。
――Urbanistsのどのようなところを特に評価されましたか?
松本さん インクルーシブというとなんとなく社会的弱者を取り込んで、というイメージをしがちで、他のチームではシングルマザーや地方経済といった視点が多かったのですが、彼女たちは独特の視点でなんとなく元気だと思われがちな「若者」がまちづくりから排除されているという点に着眼して、うまくテーマに対して昇華したという点が本当に見事でした。
谷島さん 我々も気付かなかったような新しい目線の切り口で答えてくれたのは大きかったです。それに加えて、プレゼン後の質疑応答でもしっかり答えられていたことからわかるように、彼女たちの後ろ側には調べたことや考えたことのボリュームがすごく大きいのだろうというのが見えていました。ないものをつくるよりもすでにあるものをいかによく見せていくかというほうが大会で勝てるのではないかと思ってUrbanistsを選びました。
松本さん あれだけ準備をしていたら何を聞かれても答えられるので「それは考えてなかった」という質問はたぶんないと思います。10分の背後にはものすごい情報がありました。
林さん すでに持っていたバックボーンに加えて、Visaさんのテーマに合わせるためにいろいろと調べました。彼女(礒津さん)がいろいろと情報収集してくれて。
礒津さん 東京大学の教授のところに話を伺ったり、品川区役所を取材したり、実際に足を運んで話を伺うことで、現場の人の声を聞くこともしたので解像度の高いアイデアを生むことができたのではないかと思います。
松本さん 大会の講評でも「ネットで調べて満足するな」とうお話がありましたが、アンケート調査を実施したり、事業計画の部分では広告代理店にどのように販路を考えればいいか聞いたりと、手間暇を惜しまず一次情報を取りにいっていたようなところは高校生離れした行動力だったと思います。
――Visa側からはどのようなサポートを行っていましたか?
谷島さん ミーティングしたりメールをやりとりしたりして「Visaのデータはどのように活用できるか」といった質問に答えたり、うちのオフィスでプレゼンの練習もしたりしたこともありました。
松本さん 普通は積み上げたものを壊すのはもったいなくてやりたくないと思うのですが、2人は良いものをつくるためなら後戻りするのも壊してまたつくるのも躊躇がなくて、いい意味でとても貪欲。時間や労力は大変なものだったと思いますが、本当に最後の最後までやりきるのはすごいと思いました。
礒津さん お互いプライドが高くて、完璧を求めようとした結果だと思います。納得のいかない状態では絶対に舞台に上がりたくないと話していて、前日にも4~5時間ぐらいホワイトボードに書きまくって相談していました。最終的には本当に心の底から納得しているアイデアをお届けできたので、今となって悔いはありません。
――途中でVisa側からアドバイスもあったのでしょうか。
谷島さん 動画審査で情報を詰め込みすぎという話をしたら、準決勝でものすごく内容が変わっていました。こんな短期間でこれだけ変わって伸びるんだ、というところも代表に選んだ理由です。10分間というのは短いので、その中で何を伝えるかも重要ですが、何を伝えないか、何を削るかというのはそれ以上に重要だと思っていて、それが動画審査と準決勝のところで大きな進化として見えました。
礒津さん 私は普段から気に入らなかったら全部取り壊して試行錯誤するタイプで、個人的にはこの大会を通して自分のそういった特徴が認められた気がして、とてもうれしかったです。
――ありがとうございました。