日本テレビ系ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント’23』(毎週日曜24:55~)では、今年1月に発生した博多ストーカー殺人事件を特集する『博多ストーカー殺人事件 逆上のスイッチ ~禁止命令だけでは守れない~』(福岡放送制作)を、きょう16日に放送する。

  • 事件後、現場に手向けられた花

事件が起きたのは今年1月16日。JR博多駅から歩いて2分ほどの路地で、川野美樹さん(当時38)が頭や胸など10数か所を包丁で刺され、死亡した。犯人は逃走したが、川野さんが39歳の誕生日を迎えるはずだった2日後に、事態が大きく動く。殺人の疑いで逮捕され、その後起訴された寺内進被告(31)は、川野さんの元交際相手だった。

事件の3カ月前から寺内被告のストーカー行為に悩み、警察に繰り返し相談していた川野さん。これに対し、寺内被告は川野さんの職場に押しかけ「何で警察に相談した。仕事がなくなるだろう」と詰め寄ったこともあったという。警察はストーカー規制法に基づき、警告だけでなく、違反すると2年以下の懲役か200万円以下の罰金が科される緊急の「禁止命令」を出したことも。それでも最終的に歯止めとはならず、被害者が命を奪われるという最悪の事態を防ぐことができなかった。

規制法がつくられるきっかけとなった、24年前の桶川ストーカー殺人事件で娘を奪われた猪野憲一さん(72)は、警察に「被害者の命を守ることを大切にしてほしい。もっと踏み込んでほしい」と訴え続けている。一方で、警察は「我々は法律の中でしか対応できない。今の法律の下でどうすればいいのか…」と加害者に踏み込めないジレンマを抱えていた。

同じ悲劇を繰り返さないためになるなら…と、ストーカー行為を受けたことがある女性が、番組の取材に応じた。「常に監視されている」一方的に好意を寄せてきた男性に、数年間付きまとわれたという女性。自宅や勤務先を変えることで、被害から逃れたという。被害者が負担を強いられる理不尽さを受け入れてでも、消し去りたい恐怖。それでも、「似ている人を見ると、いつも見つめられている目を思い出してしまう」と、苦しみから解放されることはない。

事件現場となった路地には、来る日も来る日も花や温かい飲み物が供えられ、手を合わせる人が後を絶たない。衝撃の大きさに社会は揺れ続けているが、ストーカー対策はほとんど変わらないまま。全国の警察に寄せられるストーカー被害の相談は年間約2万件。被害者の保護にとどまらず、加害者への対策にもっと踏み込む必要があると指摘する声が上がっている。