マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話します。今回は、2023年の各国の金融政策について語っていただきます。
昨年春ごろから高インフレ抑制のためにアグレッシブな利上げを続けてきた主要中央銀行ですが(日銀を除く)、ここへきて足並みに乱れが出てきたように思われます。
カナダや豪州では政策金利を据え置き
BOC(カナダ中央銀行)は3月と4月、RBA(豪州準備銀行:中央銀行)は4月の政策会合でそれぞれ政策金利の据え置きを決定しました。今後の状況次第で利上げを再開する可能性はあるものの、このまま利上げ打ち止めとなりそうな気配です。
米国のFRBは5月利上げで打ち止め!?
米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)については、次回5月2-3日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、0.25%の利上げか据え置きかで見方が分かれるところです。ただ、5月に利上げしたとしても、それで打ち止めとの見方が支配的です。そして、早ければ、今年7月ごろには利下げに方向転換して23年中に2—3回の利下げが実施されるとの観測が強まっています。
米国の景気に減速感が出ており、インフレのピークアウト感もあること、そして、シリコンバレー銀行の破たんに端を発した金融不安の元凶が昨年来の大幅な利上げにあったとみられることなどが背景です。パウエル議長らFRB関係者は23年中の利下げは想定していないとして、金融市場をけん制していますが、金融市場は聞く耳を持っていないようです。
利上げに積極的なECB
そうしたなか、利上げに最も積極的とみられるのがユーロ圏のECB(欧州中央銀行)です。次回5月の会合だけでなく、その後も利上げを続ける可能性があります。CPI(消費者物価指数)の前年比伸び率は米国に遅れる形でピークアウトした感がありますが、エネルギー・食料・アルコール飲料・タバコを除く、いわゆるCPIコアは足もとでも伸びが高まり続けているからです。
第1次大戦後の1920年代にハイパーインフレを経験したドイツやその周辺国の中央銀行関係者はインフレへの警戒が強く、いわゆるタカ派と呼ばれる人々です。最近でも、彼らから「利上げサイクルは続く」、「5月の会合でも0.50%利上げの可能性がある」といった発言が続いています。
インフレよりも景気を重視する、いわゆるハト派が多い南欧中心のECBメンバーはそこまで利上げに積極的ではないかもしれませんが、それでも、利上げ継続のコンセンサスはあるようにみえます。
BOEは需要ショックの物価への影響を懸念?
英国ではCPIの前年比伸び率が2桁となっており(2月10.4%)、CPIコアも高原状態が続いているので、簡単には利上げを停止することはできないでしょう。BOE(英国中央銀行)からはECB関係者ほどのタカ派発言は聞こえてきませんが、インフレへの警戒は引き続き強そうです。BOEで金融政策を決定するMPC(金融政策委員会)のメンバーでチーフエコノミストのピル氏は最近、労働市場のひっ迫・低水準の失業率が労働者の消費意欲を喚起する、プラスの需要ショックが英国で起きる可能性を指摘しました。また、インフレについて、年内に大幅に減速する可能性が高いとの分析を維持しつつ、そこに至るまでに「予想以上に起伏を伴う可能性がある」とも述べました。
植田日銀はどうする?
さて、4月9日に総裁に就任した植田和男氏が率いる日銀(=日本銀行)はどうするでしょうか。他の主要中銀が利上げに動くなか、日銀は前任者の黒田総裁のもとで頑なに金融緩和を継続してきました。黒田総裁の任期10年間は手を変え品を変えて金融緩和を強化してきた歴史でもあったでしょう。
ただし、昨年12月には長期金利(10年物国債利回り)の許容変動レンジを拡大(0±0.25%から0±0.50%へ)。黒田総裁は、これを金融緩和の効率性を高めるための措置であり、利上げのための一歩ではないと明言しました。それでも、金融市場では長期金利の目標を設定するYCC(イールドカーブ・コントロール=長短金利操作)に無理があって、いずれ修正・撤廃を迫られるとみています。
4月10日の就任会見で、植田総裁は「現時点でYCCとマイナス金利は適切」との考えを示しました。ただ、同じ席で「持続可能な金融緩和の枠組みを探っていく」とも述べており、金融政策を柔軟に修正する可能性も示しました。
金融市場では、23年後半にも現在-0.1%の政策金利をゼロまたはプラスに引き上げるのではないかとの観測があります。欧米の中央銀行が利下げに転換する場合、それでも日銀は利上げに踏み切れるのか。また、それ以前にYCCを修正・撤廃して長期金利の上昇を容認するのか。植田総裁の手腕が大いに注目されます。