阿蘇4火砕流堆積物は、噴火地点である九州中部の阿蘇カルデラを中心として、北東方向では約170km離れた山口県中部、北西方向では約120km離れた佐賀県西部や長崎県内、南西・南東方向では約100km離れた熊本県天草諸島や宮崎平野南部までで確認されている。同火砕流の分布域は、福岡市・北九州市・熊本市の3つの政令指定都市を含む7県の範囲を覆っているという。
同堆積物は、阿蘇カルデラに近い熊本県・大分県内では厚いところで50~100m以上、佐賀県・福岡県・宮崎県内でも厚いところで10m以上堆積しているとのこと。今回公開された分布図では、地質調査で判明した地表における火砕流堆積物の分布に加え、地下に火砕流堆積物が埋没している可能性のある範囲についても推測して図示することで、実際に火砕流が覆った地域が可視化されている。これにより、九州中部から北部にかけての平野部の大部分に火砕流が到達したことが見て取れるようになったのである。
また、火砕流から舞い上がった阿蘇4火山灰の主な確認地点も図示されている。これにより、阿蘇カルデラから1600km以上離れた北海道東部でも、火山灰がところにより1~15cmの厚さで堆積していることが確認できるとしている。
研究チームによると、同図で示された大規模火砕流の分布範囲とそれに基づく火砕流の分布復元結果は、阿蘇4火砕流により壊滅的な影響を被った範囲が示されているため、将来同様の噴火が発生した場合、どの程度の範囲にどのような影響が及ぶのかを推測する手がかりとなるという。また、軟弱な火砕流堆積物は斜面災害の要因ともなり得るため、その分布情報は土砂災害リスクの評価にも有用とのことだ。
なお今回の分布図には、阿蘇4火砕流堆積物の分布のほか、阿蘇カルデラの長期的な活動や阿蘇4巨大噴火の推移、火砕流堆積物の特徴、各地の火砕流堆積物の露頭画像などの解説書も加えられている。同図とその解説書は、PDFファイルおよびGISデータとして、地質調査総合センターのWebサイト「大規模火砕流分布図」から無償ダウンロードが可能だ。
また同Webサイトでは今後、約13万年前から現在までの間に日本で発生した12件の巨大噴火による大規模火砕流の分布図を統一基準・統一縮尺で順次作成・公開する予定だという。九州南部の「姶良(あいら)カルデラ入戸火砕流」と、北海道の「支笏カルデラ支笏火砕流」はすでに公開中で、2023年度では、今回の阿蘇4火砕流の1つ前の阿蘇3火砕流、巨大噴火が頻発している北海道南部で最大級の火砕流堆積物である洞爺火砕流堆積物(約11万年前)の分布図を公開する予定だとしている。