藤井聡太叡王に菅井竜也八段が挑戦する第8期叡王戦(主催:株式会社不二家)は、4月11日(火)に東京都千代田区の「江戸総鎮守 神田明神」で幕を開けました。対局の結果、147手で勝った藤井叡王が自身2度目となる叡王防衛に向け好スタートを切りました。
三間飛車の対抗形
振り駒で後手になった菅井八段は、角道を開けたまま三間飛車に構えました。先手の藤井叡王が9筋の歩を突き越したのを見てから角道を止めたのが菅井八段の工夫で、中央の手を急ぐことで後手番ながら積極的にポイントを稼ぐ方針です。これに対して玉側の位を取ったことに満足した藤井叡王は銀冠の堅陣に組み、局面は対抗形の持久戦に落ち着きました。
駒組みが頂点に達したところで、藤井叡王は3筋の歩を角で交換して戦端を開きます。この直後、飛車先の歩がぶつかった局面は振り飛車側の分岐点。「戦いの起こった筋に飛車を回れ」の格言通り3筋に飛車を移していた菅井八段としては、角捨ての大技で飛車のさばきを狙う手も有力でした。実戦ではこの手順は見送られ、ジリジリとした競り合いが続きます。
作戦勝ちから優勢に
本格的な戦いを前に両者長考が続き、4時間あった持ち時間は藤井叡王が30分、菅井八段は1時間20分にまで削られています。藤井叡王が3筋に飛車を回ったのは仕掛けを見せて後手を焦らせる狙いで、これを受けた菅井八段が左桂を跳ね出していって70手目にしてようやく局面が動き出しました。直後、藤井叡王はこの桂を捕獲して桂得の戦果を挙げます。
序盤からの模様の良さを桂得の実利に換えることに成功した先手の藤井叡王は、落ち着いた指し回しで優位を拡大します。局面の複雑化を狙う後手の菅井八段が玉側の端歩を突き返したのは実戦的な勝負手ですが、藤井叡王は「一手の攻めには一手の受け」の要領で丁寧に対応。金をタダで差し出す意表の一手にも、冷静な飛車浮きで応じて逆転を許しません。
描かれた「藤井曲線」
40手ほど続いた左辺での勢力争いが落ち着いたことで、藤井叡王の優勢が明らかになってきました。攻めの要である飛車角が自陣で眠っていては、さすがの菅井八段といえども勝負手を繰り出せません。終局時刻は18時16分、最後は敵陣に飛車を成り込んだ藤井叡王が鋭い寄せで菅井玉を寄せきって勝利。仕掛けから最後まで形勢の針を譲らない快勝でした。
開幕戦を制した藤井叡王は六冠保持に向けて好発進。並行して戦う名人戦七番勝負とともに今後の戦いに一層注目が集まります。敗れた菅井八段も「結果は残念だが気合が入ったので次に向けて頑張りたい」と迫力十分です。菅井八段の先手番で迎える第2局は4月23日(日)に愛知県名古屋市の「名古屋東急ホテル」で行われます。
水留 啓(将棋情報局)