前者について、カーボン材料の劣化はエッジサイトが起点になり進行するため、エッジサイトの無いカーボン材料が必要となる。ただし、単にエッジサイトが無いだけでなく、Li2O2の析出場所であるナノ細孔を持つ材料を利用しなければ容量が発現しないという。たとえば、黒鉛にはエッジサイトがほとんど無いため耐久性は良好だが、ナノ細孔を持たないため正極には適さない。

そこで研究チームが今回着目したのが、東北大が開発したカーボン新素材「グラフェンメソスポンジ」(GMS)だ。GMSは、約7nmの泡状のナノ細孔を取り囲む細孔壁がグラフェンシート約1層で形成される多孔性のカーボン材料だ。このGMSをリチウム空気電池の正極として利用したところ、従来のカーボン正極の容量(2000mAh/g~5000mAh/g)を大きく上回る、6700mAh/gという高容量が達成されたとする。

また、GMSはその合成の過程で1800℃の熱処理によりエッジサイトを潰しているため、従来からカーボン正極材として使用されてきたカーボンナノチューブやカーボンブラックを大きく上回る耐久性が達成されたという。1800℃の熱処理では、隣接するエッジサイト同士が融合してC-C結合が形成されることがわかっており、その際にグラフェンシートには炭素5員環・7員環(以下「トポロジー欠陥」とする)が導入されると予想されてきた。そこで今回は、トポロジー欠陥の形成を幾何学的解析、構造形成シミュレーション、ラマン分光により詳細に解析し、さらに原子分解能の電子顕微鏡観察によりその存在を証明することにも初めて成功したとしている。

  • (左)カーボン材料の劣化の原因となるエッジサイト。(右)GMSの構造模型と、原子分解能の電子顕微鏡写真(上海技科大で撮影)

    (左)カーボン材料の劣化の原因となるエッジサイト。(右)GMSの構造模型と、原子分解能の電子顕微鏡写真(上海技科大で撮影)(出所:岡山大プレスリリースPDF)

それに加え、GMSのトポロジー欠陥は、リチウム空気電池の劣化を回避するための方策である正極の電位低下に対しても有用であることが判明した。通常のカーボン材料は炭素六角網面から成るグラフェンシートで構成されており、その表面では結晶性のLi2O2粒子が析出する。これに対し、GMSのトポロジー欠陥では、非晶質のLi2O2ナノシートが優先的に析出する結果が得られたとする。リチウム空気電池を充電する際、非晶質のLi2O2ナノシートは結晶性のLi2O2粒子より低電位で分解するので、正極の充電電位を下げることが可能だという。このように、GMSは耐酸化性が高いことに加え、充電電位を下げる効果もあることから、リチウム空気電池の正極材料として極めて有望であることが明らかにされた。

  • 通常の炭素六角網面(ベーサル面)状でのLi2O2形成(左)と、トポロジー欠陥でのLi2O2形成(右)の模式図

    通常の炭素六角網面(ベーサル面)状でのLi2O2形成(左)と、トポロジー欠陥でのLi2O2形成(右)の模式図(出所:岡山大プレスリリースPDF)

今後、GMSの特徴を設計指針として正極カーボン材料の研究がさらに進展すれば、リチウム空気電池の3つの劣化の課題の1つが解消されることが期待されるという。さらに、残り2つの課題についても研究開発が進展すれば、リチウム空気電池の実用化が進むことが期待されるとしている。