第71期王座戦(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は、二次予選の羽生善治九段-佐藤康光九段戦が4月7日(金)に東京・将棋会館で行われました。対局の結果、117手の熱戦を制した羽生九段が自身3期ぶりとなる挑戦者決定トーナメント進出を決めました。

佐藤九段のダイレクト向かい飛車

振り駒が行われた本局、後手となった佐藤九段は序盤早々に角交換を挑んだのち2筋に飛車を回ります。ダイレクト向かい飛車と呼ばれるこの作戦は佐藤九段の後手番における代名詞ともいえるもの。自玉を高美濃囲いの堅陣に収めた佐藤九段は、やがて飛車を4筋に振り直して先手の位に反発する積極策を見せました。

佐藤九段の動きを受けた先手の羽生九段は、4筋に筋違い角を放つ趣向で応じます。放置すれば右方の歩をかすめ取る狙いがあるため佐藤九段は飛車を一路寄ってこれを防ぎますが、羽生九段は今度はこの角を左方の金と刺し違えたのち、手順に右桂を跳ね出して攻めを継続。角金交換の駒損ながらもうまく攻めの形を作った羽生九段がペースをつかんでいます。

羽生九段得意の小駒攻め

手番を握った羽生九段は、持ち駒の金と歩を最大限に生かして攻勢を強めます。後手の美濃囲いの弱点である端と桂頭に注目して連続して歩を突き捨てたのがうまく、着実な攻めを用意して佐藤九段の焦りを誘うことに成功しました。この直後、佐藤九段が王手飛車取りを狙う金捨てで勝負を迫ったのに対し、羽生九段は読みを入れてこれに堂々と応じます。

あえて後手に王手飛車取りを掛けさせた羽生九段は、立て続けに2筋の飛車を切り飛ばして銀を入手しました。ついにすべての大駒を後手に差し出した羽生九段ですが、代償として得た4枚の小駒を使えば攻めがつながるという考えです。この大局観がうまく、ねじり合いを抜け出した羽生九段が優勢となって戦いは終盤戦に突入します。

王手飛車は掛けさせた方が勝つ

一分将棋の秒読みの中勝負手を連発する後手の佐藤九段に対し、羽生九段の応手は冷静でした。二枚飛車に追われる自玉を2枚の金銀で手厚く守ったのが受けの決め手で、ここさえ凌いでしまえば怖いところがありません。終局時刻は21時29分、最後は「桂は控えて打て」の格言通りの桂打ちで佐藤玉を追い込んだ羽生九段が勝利を決めました。

これで羽生九段は挑戦者決定トーナメントに進出。また、佐藤康光九段との167回目となる戦いを制した羽生九段は、同一対戦カードとして大山康晴十五世名人―升田幸三実力制第四代名人戦と並ぶ歴代3位タイとなったことを受けて「偉大な大先輩の記録と並べて光栄」との感想を残しました(羽生九段の112勝55敗)。

  • 羽生九段の持つ王座24期は同一タイトル獲得数として歴代1位の記録だ(写真は第72期ALSOK杯王将戦七番勝負第4局のもの 提供:日本将棋連盟)

    羽生九段の持つ王座24期は同一タイトル獲得数として歴代1位の記録だ(写真は第72期ALSOK杯王将戦七番勝負第4局のもの 提供:日本将棋連盟)

水留 啓(将棋情報局)