大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)は、今川が滅び新展開へ――。第13回「家康、都へゆく」では家康(松本潤)が上洛した。将軍・足利義昭(古田新太)と会えるほど世間に認められてきたと思いきや、田舎大名とバカにされて……。とはいえ、松本潤は将軍と会うときの正装姿がお似合い。さすがジャニーズ、光を放とうと意識するとかなり光量が強くなる。

  • 『どうする家康』足利義昭役の古田新太

“プリンス”感の出てきた家康に比べて、将軍には光がない。白塗りがよくあるべったりと真っ白でなく、雑に塗ってあり顔色が悪く見える。そのうえ、お酒くさく、げっぷやうたた寝をするなど、失礼極まりない。将軍とはどんな人なのか、会うまでは楽しみにしていた家康は、義昭の威厳のなさに落胆する。白塗りの粗さは将軍の権威が上っ面であることを感じさせた。

また、明智光秀(酒向芳)はずる賢そうなキャラとして登場。『麒麟がくる』(2020)で堂々主人公として活躍した光秀(長谷川博己)は知的で実直で好人物だったから、あからさまに抜け目ない雰囲気の『どうする家康』の光秀にSNSでは戸惑いの声があがった。

『どうする家康』ではせっかく家康が手にいれた超高級菓子・金平糖の件を将軍に報告し、奪ってしまう光秀だが、『麒麟がくる』では幼い家康に干し柿をくれる優しい人だった。まったく別人にしか思えない。

酒向芳がクセのある悪役をよく演じているからよけいにバイアスがかかって嫌な人に見えるが、酒向の光秀はきりっと知性的でキレ者な雰囲気。ただの嫌味な人には見えない。現代劇では庶民的な悪役が多いが、今回は上品に仕上げてきて(慇懃無礼な感じ)、名優だなと思う。

徹底して嫌な感じなのは秀吉(ムロツヨシ)である。秀吉もかなり卑俗で、眉をひそめるような言動ばかりする。『麒麟がくる』の佐々木蔵之介演じた秀吉も聡明であった。

ちなみに古沢良太氏が脚本を書いた映画『レジェンド&バタフライ』の秀吉は、『どうする家康』で彦右衛門を演じている音尾琢真が飄々と演じている。

そういえば、将軍・義昭も『麒麟がくる』で滝藤賢一が演じた義昭は非常に好人物であった。義昭と光秀が船の上で語り合うシーンなんて、じつにお互いが知性的で爽やかだったのに……。各種、戦国時代の物語を比較するとこんがらがってくる。

『レジェンド&バタフライ』の光秀(宮沢氷魚)は長谷川版に近い実直な印象であったのだが……。なぜ、古沢は『どうする家康』の光秀、義昭、秀吉たちを信用できないキャラに描いたのか、と思うものの、冷静に考えれば、池端俊策脚本の『麒麟がくる』以外では、さほど好感度の高い人物ではなかったのである。金柑頭で見た目も冴えないうえ、信長を裏切る嫌なやつというイメージが強かった光秀の意外な面を描いたのが『麒麟がくる』だった。つまり『どうする家康』は従来の光秀に戻しただけ。せっかくイメージ刷新したのに、なぜ? 家康から見たら、みんな権威主義で争ってばかりの嫌な人物に見えるということではないだろうか。

いくら恵まれていたとはいえ、人質人生が長い分、家康は警戒心が強いように思う。どうしようどうしようとおろおろしがちなことも含め、懐疑的な性分なのではないか。だからこそ、周囲の人たちがあやしく見えるのでは。やたらと怪物感のある武田信玄(阿部寛)や、かなりやばそうなのにどこかいいところもありそうに見える信長(岡田准一)など、世界の脅威にびくつく家康の主観だと思うと(子供が妖怪を想像して外に出ることをこわがるような感じ)、すんなり見える。

こわがりの家康だから、瀬名(有村架純)にすがる。嫌な人たちばかりの外の世界に対して瀬名のいる築山がほっとする。でもそこも幼い信康(寺嶋眞秀)と五徳(松岡夏輝)が夫婦喧嘩していて不穏な感じ。五徳は信長の娘で、政略結婚である。五徳が9歳で結婚したのは1567年で、第12回で家康と氏真(溝端淳平)とのやりとりがあった2年も前のことなのだった。家康が上洛したのは1570年。この件を事前に描かなかったのは、第13回で、同じく政略結婚で浅井長政(大貫勇輔)に嫁いだ市(北川景子)が再登場して、信長が、徳川、浅井と手を結ぼうとしていることをまとめて示そうとしたのだろう。

信長が1569年にルイス・フロイスから献上されたという金平糖(ポルトガル語でコンフェイト)を家康が京都土産に手に入れて、それを市に一つ分けようとしたとき、彼女がその価値を知っているのはやはり信長の妹なのだと感じる。

金平糖は『レジェンド&バタフライ』でも重要な小道具であり、ほかに『本能寺ホテル』や『信長のシェフ』など信長ものではお馴染みのアイテムである。『清須会議』にも登場した。甘いだけではなくアニスというハーブで口がすっきりするのが特徴。

そのコンフェイトを市からもらった阿月(伊東蒼)が第14回では活躍しそうだ。「あづき」という名前から、市に関する「小豆」伝説を『どうする家康』風にアレンジするのだろうと早くも歴史好きの視聴者たちは気にかけている。

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