庵野秀明氏が脚本・監督を手がけた長編映画『シン・仮面ライダー』の大ヒット御礼舞台挨拶が9日、東京・丸の内TOEIで開催され、同時に全国335スクリーンでライブビューイングも実施された。ステージには庵野監督と、池松壮亮、浜辺美波、柄本佑の主演トリオに加え、森山未來が登壇し、作品を愛してくれる大勢のファンに心から感謝の思いを伝えた。
『シン・仮面ライダー』は、1971年に放送開始された連続テレビドラマ『仮面ライダー』の誕生50周年企画のひとつ。2021の製作開始から、およそ2年の歳月をかけて完成させた映画作品である。本放送からの熱烈な『仮面ライダー』ファンである庵野秀明監督が原点へのリスペクトを込めつつ、まったく新しい作品として作りあげた映画『シン・仮面ライダー』は、3月17日の初回公開以来、多くの特撮ファン、仮面ライダーファンにさまざまな衝撃と感動を与えている。今回は、そんなファンに感謝を伝えるため、庵野監督と主要キャストがステージにかけつけた。
最初にステージに現れたのは、本作の脚本・監督を務めた庵野秀明氏。庵野氏はなんと本イベントのMCを務め、極めて冷静に「時間が決まっていますので、サクサクいきましょう。それではキャストのみなさん、どうぞ」と、キャスト陣を呼び込んだ。
仮面ライダー/本郷猛を演じる池松壮亮は「これまで映画をご覧になった方、そして何度も何度もくりかえし観てくださった方、たくさん愛していただいてありがとうございます」と、リピート鑑賞してくれた熱心なファンへの感謝の言葉を投げかけた。
秘密組織「SHOCKER」を脱走し、本郷猛の協力者となる緑川ルリ子を演じる浜辺美波は「今まで見てくださった方たちからは、深い感想コメントがたくさん届き、私自身嬉しく、励まされています」と、仮面ライダーの世界に没入し、感動したファンからのコメントに力づけられていることを明かした。
仮面ライダー第2号/一文字隼人を演じる柄本佑は「映画を観ていただいてありがとうございました。時間が限られているので短くいいますが、もっと見に来ていただいても大丈夫ですよ(笑)」と軽妙に挨拶し、さらなるリピート鑑賞も大歓迎だと語った。
ルリ子の兄であり「SHOCKER」の実力者チョウオーグ/仮面ライダー第0号こと緑川イチローを演じる森山未來は「老若男女に愛されている仮面ライダーですが、この映画もまた、愛される存在となったのは素晴らしいことだと思います」と、50年以上もの長きにわたって人々に愛されたヒーロー・仮面ライダーの映画に重要な役柄で出演できた喜びを交えて挨拶した。
庵野監督から「現場はどうでした?」と感想を求められた森山は「僕は2週間くらいの撮影期間で、池松くんたちほど長い時間現場に行っていませんでしたが、とても濃厚な時間を過ごしました」と、本郷ライダー、一文字ライダーとの凄絶なアクションが繰り広げられたラストバトルの印象を語った。森山、そして池松、柄本が口をそろえて「苦労した」というのは「仮面ライダーのスーツ」を着て芝居やアクションをしたときのこと。柄本が「スーツを着たほうが動きにくくなる」とこぼすと、森山は「めちゃめちゃ汗をかくけれど、通気性がないのですぐ体が冷えていく」と、レザー製スーツの不便さに苦戦させられたことを打ち明けた。過酷な仮面ライダーの撮影をこなした森山たちに、庵野監督も「仮面が顔の大きさギリギリに作られていて、外を見る窓も面積が小さかったし、呼吸もしにくかったと思います。どうもありがとうございました」と労をねぎらう場面も見られた。
仮面ライダースーツにおける庵野監督のこだわり具合について柄本は「衣装合わせをしたとき、第2号の体側部に入っている銀のラインを、監督が1mm細くしたり、2mm太くしたり、太さが変わると印象が違ってくる……という感じで細かく作業をされている。しかし僕には、それらの違いがわからなかった」と、庵野監督の「ラインへのこだわり」の理由を尋ねた。庵野監督は「50年前の一文字ライダーの印象に、なるべく近づけたかったから、ラインの素材や“幅”にこだわりました。ラストシーンに出てくる仮面ライダーも、体側部のラインの幅をどこまでオリジナルに近づけられるか、そこがキモだと思っていました」と、体側部ラインをオリジナル『仮面ライダー』の印象に近づけるための執念のようなこだわりについて語った。
森山が庵野監督の徹底したこだわりの姿勢について「オリジナルへ対するリスペクトと同時に、どういう部分を“更新”するか、庵野さんの中に絶妙なバランスがあるんですね」と感心しつつコメントすると、庵野監督は「撮影現場でもこだわりましたが、撮影後に編集しながらも、どれだけ要素を残し、どれだけ削るかの作業をし続けていました。あまり50年前に近づきすぎても面白くないし、かといって離れすぎても面白くなりません。初めて映画を観た方が違和感を覚えないようなバランスについて、最後の最後まで苦労しました」と、映画の完成まで、作品のクオリティを高める作業を続けていたと話した。
森山の「映画の中で、池松くんの演じる仮面ライダーが登場したとき、オリジナルと同じ“ヒュイイイイン!”みたいな効果音が入るのがいい」という意見について、庵野監督は「効果マンの方が別な音も入れようとしたけれど、オリジナルの効果音には勝てなかったと語っていました。僕と同じ齢だから、よくわかるんです。この映画、60過ぎが作っているもので(笑)」と、『仮面ライダー』本放送世代だからこそ外せないツボの部分を語った。
池松は「主題歌『レッツゴー!!ライダーキック』を新規にアレンジした戦闘テーマがすごかったです。オリジナルの残し方と、アップデートの仕方がとてもよかった」と、本郷が仮面ライダーとなり、クモオーグの前に初めて姿を見せるシーンの音楽効果の良さについて話した。この「ライダー初登場」シーンについて庵野監督は「映像的には、オリジナルの再現にこだわりました。一度撮影してラッシュを見ると、印象が違っていたのでその都度撮り直して……映画の中で一番テイクが多かったのは、この初登場シーンです。池松くんのスケジュールがある限り、撮っていたような感じ」と、仮面ライダー(本郷ライダー)登場のインパクトを高めるため、妥協なき撮影を続けたと語った。
池松と柄本は、共に仮面ライダーの仮面を着けての演技やアクションも多く行っている。柄本は「今は違うけど、映画を観ているといけちゃん(池松)の顔がだんだんライダーに似て来ている感じなんだよね。特に口元のあたり」と感想を語った。森山が「池松くんの目が複眼に?」と軽いボケを入れて周囲を笑わせた後、浜辺が「長く撮影をしていると、だんだん顔つきが似てくることってありますよ。追撮(追加撮影)をしていたときも、普段の状態から現場に入ったとたん、本郷猛の顔つきに戻りましたから」と話し、池松のプロ根性、役者魂を称えた。
続いて、キャスト陣から庵野監督への質問タイムへ。森山の「『エヴァンゲリオン』シリーズも完結しましたし、この先は司会業をされるんですか?」というジョーク交じりの問いに対し、庵野監督は「しばらくは(司会の)バイトで暮らしていこうかな(笑)」とギャグで返しつつ「次回作は何も決まっていません。30数年ぶりに白紙の状態です。もうこれまで働きすぎて、休みたい」と、次の作品が現段階で決まっていないことを明かした。
柄本は「次回作は決まっていないとおっしゃいましたけど、『シン・仮面ライダー』の続編はどうですか?」と、気になる続編の有無について質問した。庵野監督は「最初から続編が可能な作品にしようと思い、あのようなラストになっています。現実的には白紙なんですが、構想としてはあります」と答え、その瞬間、会場全体がどよめきで包まれた。庵野監督は続けて「続編はもうタイトルが決まっています。『シン・仮面ライダー 仮面の世界(マスカーワールド)』。日本政府がSHOCKERのアイと同じレベルの人工知能……『ブレイン』を開発していて、政治家と官僚がSHOCKERに入っていろいろやると。それと戦う一文字ライダーの活躍を描く、というプロットです」と、原作者・石ノ森章太郎氏による萬画作品『仮面ライダー』(少年マガジン連載)のタイトル「仮面の世界」を挙げ、具体的な構想がしっかりと存在していることをアピールした。
人工知能「ブレイン」とは、同じく石ノ森原作作品『大鉄人17(ワンセブン)』(77年)に出てくる、人類抹殺を目論む巨人頭脳ブレインと何かイメージ的な関連はあるのだろうか。そして、「仮面の世界」の前エピソード……故郷の村へ帰ってきた一文字隼人がショッカーによる秘密の企みを暴く「海魔の里」の映像化はどうなるのだろうかと、仮面ライダーファンおよび石ノ森ファンの期待は無限にふくらんでいくに違いない。
池松は庵野監督の「続編構想」にワクワクを抑えきれず「いまライブビューイングで見ている方たちも、騒然としているんじゃないでしょうか」とコメント。森山も「壮大な話……頑張ってください!」と庵野監督にエールを贈った。すると庵野監督は「スケールが大きくなると予算が足りなくなるので、敵は“再生怪人”で行こうと思う。だからイチローも再登場してもらいます」と、まさかのチョウオーグ再登場構想までも披露し、森山を喜ばせた。
また「(柄本が)若いうちに作らないと……」という庵野監督の言葉を受けた柄本は、池松と顔を見合わせて「俺たち今回の撮影中も、おじさんが2人でライダーやってるって話していた(笑)」と30代ヒーローならではの“戸惑い”をうかがわせ、池松も「僕らが抱く仮面ライダーのイメージって20代ですから(笑)」とはにかみながらコメントしたが、柄本は続けて「いやあ、俺たちの心はぜんぜん10代です! われわれの世代はみんなそう!」と、まだまだヒーローを演じることができると意気込みを見せていた。
浜辺の質問「シン・仮面ライダーのいちばんの魅力は?」について庵野監督は「最初からずっとやりたかったのは、ラストシーン。脚本を書いているときから、地元(山口県)でこういう画を撮ろうと思っていました。連日好天に恵まれて、最終的には最後に撮ったテイクを選びました。たいていの映画で好きなのは本編が終わってエンドロールの黒味に切り替わる瞬間。そのときの音楽にはこだわりました」と、自身のもっともお気に入りのシーンを挙げて回答とした。
森山が、エンドロールに流れた『仮面ライダー』の楽曲「レッツゴー!!ライダーキック」「ロンリー仮面ライダー」「かえってくるライダー」の選曲について質問すると、庵野監督は「1曲だけだとエンドロールの時間が埋まらないので、それならばと自分の好きな曲を3つ入れた」と、セレクト理由を明かした。
「特報で流れていた、池松くんの歌う『レッツゴー!!ライダーキック』が本編でも聴けるかな、と思ったんですが」と尋ねた森山に対し、庵野監督は「映画の尺が思ったよりも伸びたことと、オープニングはないほうがいいというスタッフの意見が多かったので、なしになりました」と、池松版オープニング主題歌がスタッフの多数決でなくなったことを説明した。
池松は庵野監督に「映画を観た周囲からの反応は?」と尋ねた。庵野監督は「『シン・ゴジラ』や『シン・ウルトラマン』のときはスルーしていた友人から、今回はものすごい熱量のメールをもらった」と話し「(シン・仮面ライダーを)作ってよかったな……」としみじみ手ごたえを噛みしめる様子を見せた。池松も「僕のところにも“号泣しました”なんてメールが来ますし、見てくださった方の心にとんでもなく刺さっているんだなと感動しました」と語り、本作の反響を受け止めたときのことを話した。浜辺は「私自身、劇場で3回見ていますし、これからも見に行くつもりです。上映中、こらえきれずに嗚咽しているサラリーマン風の男性がいらっしゃるのがわかりました。こういう体験ができるのも劇場で映画を観る楽しさだなって思いました」と笑顔で語り、庵野監督を喜ばせていた。
ここで、池松と森山による中央パネルの除幕イベントが行われた。白い幕が開くと、そこには『シン・仮面ライダー』デザイナー前田真宏氏が描き下ろした「仮面ライダー第0号」イラストが現れた。キャスト陣は口々に「かっこいい!」「これで3人そろいましたね」「(イラスト)上手いよね(庵野監督)」と、第0号の静かで凄みのあるたたずまいを絶賛した。
キャストを代表し、池松は「シン・仮面ライダーを愛し、応援してくださった方、本当にありがとうございます。これからもまだ上映は続きますので、引き続き応援をよろしくお願いします!」と力強い声でファンにメッセージを送った。
最後に庵野監督は「本当に現場は大変でしたが、みなさんに観てもらって、いい感想をいただけて、作って良かった……と思います」と、時おり感激で言葉を詰まらせつつ「僕は毎回作品を作ると何か言われちゃうんで正直辛いんですけれど、今日はみなさんとお会いし、直接お礼を伝えられて、個人として心救われました。本日はありがとうございました」と、注目作ゆえの重圧を乗り越えて自身の信じる作品を創り上げられたことへの喜びと、応援してくれるファンへの感謝の気持ちを表した。
フォトセッションでは、森山と浜辺が仮面ライダー第0号、池松と柄本が仮面ライダー第2号の仮面をそれぞれ手にしていた。
イベント終了後、庵野監督は改めて客席に向かって深々と一礼し、『シン・仮面ライダー』を愛してくれたファンへの強い感謝の気持ちを示していた。
『シン・仮面ライダー』は全国劇場で絶賛公開中。
(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会