いすゞ自動車とUDトラックスは、共同開発した新型の「トラクタヘッド」を発表した。トラクタヘッドとは貨物コンテナや大型重機などを載せたトレーラーを引っ張るトラックのこと。いすゞは「ギガ」、UDトラックスは「クオン」と名付けて売り出す。今回の新型トラクタへッドは何がスゴいのか? 取材してきた。
電子制御の導入で運転しやすく
ギガとクオンは両社を代表する大型トラックだ。2021年4月にUDトラックスがいすゞグループ傘下となり、両者の共同開発が始まった。その第1号が今回の2モデルだ。
いすゞはハウンドドッグの大友康平が歌うCMソング「いすゞのトラック~♪」で有名だが、ひょっとすると、UDトラックスという社名には聞き覚えがない人もいるかもしれない。少し解説しよう。
同社のもともとの社名は「日産ディーゼル工業」だ。かつては日産グループのトラック部門として活動していた日本の大型商用車メーカーである。2006年にはスウェーデンのトラックメーカー「ABボルボ」の子会社となった。ABボルボ傘下に入ってからもしばらくは「日産ディーゼル」を名乗り続けたが、2010年に「UDトラックス」へと改名。2019年にはABボルボといすゞが戦略的提携を結び、UDトラックスがいすゞ傘下となることも明らかとなった。
ちなみに、ABボルボと乗用車のボルボは元をたどれば同じ会社だが、1999年にフォードが乗用車部門を買収し、別々の道をたどることとなった。乗用車のボルボは今、中国のジーリー傘下となっている。
今回の共同開発では、小型から大型まで幅広いトラックを展開するいすゞと大型車を主力とするUDトラックスが各社の強みを持ち寄った。新型トラクタヘッドの特徴は大きく3つある。
まずはラインアップの強化だ。新トラクタヘッドには「4×2」と「6×4」の2種類がある。これは「タイヤ数×駆動輪」を示しており、「4×2」は4輪車の2輪駆動、「6×4」は6輪車の4輪駆動となる。簡単にそれぞれの強みを説明すると「4×2」は車重が軽く低燃費で、「6×4」はけん引能力が高い。2車種で仕様を共有できるため、UDトラックスは今回、13年振りに6×4を投入することが可能となった。より幅広い需要に対応できるようになったわけだ。
もうひとつがエンジン性能。新型トラクタヘッドは11Lと13Lの直列6気筒ディーゼルターボエンジンを搭載するが、特に13Lエンジンは国内最高となる最高出力530psを発揮する。
最後が電子制御の採用だ。電子制御AT「ESCOT」と電子制御ステアリング「UDアクティブステアリング」の導入により、運転しやすさと走りのよさを実現しているという。新型車の走りの要となるエンジンと電子制御技術には、大型トラックを得意としてきたUDトラックスの技術がいかされている。
フレームなどの基本構造を共有するギガとクオンだが、両社の顧客の違いなどを考慮し、デザインを含め差別化を図った部分があるそうだ。この点は、トヨタ自動車とスバルがスポーツカーの「GR86/BRZ」を共同開発した例などを思い浮かべればよいだろう。
今回はギガとクオンの「4×2」を実際に見ることができたが、その大きさに圧倒された。トラクタヘッドのサイズは全長5,620mm×全幅2,490mm×全高3,362mmもある。同じくらいの長さの乗用モデルをあえて探すと、例えばジープのピックアップトラック「グラディエーター」がそのくらいのサイズだ。
コクピットに乗降するには2段のステップを登る必要があるため、強靭な手すりも設けられている。筆者もコクピットに足を踏み入れたが、途中で落ちたら怪我をしそうだと不安になるレベルだった。
運転席は完全に独立しており、スポーツカーのように計器や操作機能がドライバーを囲むように配置されている。運転席と助手席の後部には、仮眠や休憩ができるベッドスペースが備わる。クッションも柔らかく、休むには快適そうだった。
大型トラクタヘッドを共同開発し、両社がラインアップを強化した背景には業界が抱える課題がある。
まず自動車メーカーとしては、脱炭素に向けた環境負荷の低減と先進機能による安全性の強化を進める必要がある。さらに物流業界では、少子高齢化による人手不足と「2024年問題」といわれるドライバーの労働時間規制による輸送能力の低下がある。これらを解決するためにも、大型トラクタには全方位での性能向上が求められている。例えば運転のしやすさ、先進安全機能の採用、力強い走りと燃費の向上、積載能力の強化などだ。価格面で競争力を高めるためにも、共同開発は必須だったらしい。
我々とは縁の薄い乗り物と感じがちな大型トラクタだが、その開発の根底には、我々の生活を支えるインフラとしての責務の大きさがあることを強く感じた最新トラクタの発表会であった。