サムスンが最新のハイエンドスマートフォン「Galaxy S23」シリーズを日本国内でも発表しました。特に最上位モデルの「Galaxy S23 Ultra」は、2億画素という超高画素センサーを搭載しており、カメラ機能をさらに強化しています。
日本での発表に合わせ、韓国Samsungのビジュアルソリューションチーム副社長ジョシュア・チョ氏が来日。カメラに搭載されたソフトウェア機能を中心に解説を行いました。
2億画素でも大きな画素サイズでデジタル一眼レフ並みの写真
「Galaxy S23 Ultra」はメインカメラに2億画素のセンサーを搭載。前モデルが1億800万画素で、一気に2億画素に到達しました。センサーはISOCELL HP1だと思われますが、その場合のセンサーサイズは1/1.22型、ピクセルサイズは0.64μmと極小になります。
通常撮影時は、隣り合う横4×縦4(16個)のピクセルを1つの画素として見なすピクセルビニングを活用することで、記録画素数1,250万画素となり、ピクセルサイズ2.56μmという大型サイズを実現します。
さらに2×2という4ピクセルのピクセルビニングによって5,000万画素での撮影も可能で、その場合のピクセルサイズは1.28μmとなり、スマホカメラとしては比較的十分なサイズとなります。
1画素のサイズが大きくなることで、より多くの光を取り込めるため、ダイナミックレンジの向上と暗所でのノイズ低減が期待できます。その反面、2億画素で撮影する場合はセンサーが極小サイズになるので、画質の劣化が避けられません。もともとのセンサーサイズが小さいため、画質面ではより大きなセンサーのデジタル一眼レフカメラなどよりも不利になります。
こうした状況を改善するために、AI処理とマルチフレーム処理を駆使して画質向上を図っているとしています。
デジタル一眼レフカメラは「専門家が撮影して編集すればスマートフォンよりはいい写真が撮れるが、一般的なオートの撮影だと「Galaxy S23 Ultra」にはアドバンテージがある」とチョ氏。
「本体サイズが小さくて使い勝手が良い」という点は優位点で、センサーサイズ自体は小さいものの、ピクセルビニングによるダイナミックレンジの広さや光学式手ブレ補正(OIS)や電子式手ブレ補正(VDIS)による強力な手ブレ補正、高度なAIとマルチフレーム処理といった点もメリットとしてチョ氏は挙げます。
チョ氏は、「照明があって十分に明るい場所では2億画素を活用できる」と指摘。2億画素でディテールまで表現できるとしており、光量が十分なスタジオでのモデル撮影ではデジタル一眼レフカメラと比べてもまゆ毛や髪の毛、肌の表現など高画素を生かした撮影ができるとしています。
個人的に実際に撮影しての経験ではこのあたりには疑問があり、レンズ性能としても2億画素は解像できないと思うのですが、チョ氏はレンズも新たにしており、光量が十分であれば細かな部分まで表現できると話します。デジタル一眼レフカメラのレンズの「解像」とSamsungの考えるスマホカメラの「解像」では基準が違うと考えた方がいいのかもしれません。
またデジタル一眼レフカメラとの大きな違いとして、チョ氏はマルチフレーム処理を挙げます。明部と暗部の露出を細かく判別し、複数の露出で撮影して合成することでダイナミックレンジを拡大。「特に(コントラスト差が大きい場合の)空の表現力が優れている」と言います。
同様に逆光時のポートレート撮影でも有効で、例えばカフェでの撮影で照明と外光で被写体の顔が影になるようなシーンでも、白トビや黒つぶれをしないようにダイナミックレンジを調整して記録できるとチョ氏はアピールします。
写真でも動画でも強力なナイトモード
動画の手ブレ補正では、強力なOISとVDISを組み合わせてなめらかな動画撮影が可能。特に今回は夜景での動画撮影を強化しており、背景のイルミネーションが細かくブレないように補正されていると言います。OIS自体も、補正角が1.5度から3度と2倍になったそうです。
夜景撮影のナイトグラフィー機能では、デジタル一眼レフカメラはセンサーサイズの大きさで高画質低ノイズが可能ですが、小サイズセンサーのマルチフレーム処理で明瞭な画像を生成。その結果、低照度環境下でも被写体を明るく写せるとしています。
Expert RAWが5,000万画素撮影が可能になるなど進化
前モデルから提供されているExpert RAWは、より詳細な撮影設定が行えます。カメラの専門家のために提供したもので、「専門家からも好評」とチョ氏。高画素撮影のニーズもあったことから、5,000万画素での撮影にも対応しました。
5,000万画素での撮影の場合、前述の通りピクセルビニングが行われることに加え、マルチフレーム処理も行えることで、一定の画質を実現できることから採用されたそうです。まだ2億画素でマルチフレーム処理を行えるパフォーマンスには至ってないとチョ氏は説明します。
なお、前モデルでは1億画素の撮影には3~4秒が必要だったそうですが、「Galaxy S23 Ultra」では700~800msと大幅な高速化を果たしています。これは、バックグラウンドで処理することで同時に撮影できるようになったからだといいます。
Expert RAWモードでは、新たに星の撮影機能と多重露出を追加。星の撮影機能が欲しいという声は多かったそうです。Expert RAWモードは数分間の撮影時間になるため、普通では星の位置が動いて星が流れてしまいます。それを補正して星の位置を固定する機能を開発したそうです。
多重露出は、複数の写真を重ね合わせ合成することで、アーティスティックな写真を作成する昔からの技術です。これをデジタル処理で実現しました。
また、新機能として「カメラアシスタント」機能を追加。オートモードで撮影する場合も特定の機能をカスタマイズできる機能で、まずは2つの機能が提供されています。一般的にスマホカメラはシャッターボタンをタッチして指を離した瞬間にシャッターが切れますが、これを押した瞬間にシャッターが切れるようにするのが「キックタップシャッター」。
スマホカメラでは被写体との距離に応じて自動的にレンズが切り替わることが多く、特に近接撮影時にメインカメラから超広角カメラに切り替えてマクロ撮影する、望遠カメラで被写体に寄りすぎるのでメインカメラのデジタルズームに切り替える、といった切り替えが起ります。こうした自動選択を好まないというユーザーも多かったそうで、ユーザーの選択に固定する機能も提供されます。今後も「消費者がどのようなオプションを求めているのかモニタリングしながら開発していきたい」とチョ氏は話します。
他にも、今後「Galaxy Enhance-X」というモアレ除去の機能を提供する予定。また、ギャラリーアプリにリマスター機能を提供。写真を分析してどのような処理をすればいい写真になるか判断する機能で、10個以上のAIエンジンを個別に適用できるようになるようです。
撮影から撮影後の補正まで、シーンや画像の認識が重要なポイントとなるAI処理ですが、「学習データのクオリティが成果物を左右する」とチョ氏は言います。Samsung自身が多くのデータセットを持っていて、最適化のための量子化技術も有していることから、他社に比べても優位にあるというのがチョ氏の判断です。
メインカメラは大幅に高画素化していますが、特に望遠カメラは1,000万画素で変わりません。これに対して問われたチョ氏は、どのようなセンサーで競争力を出せるかは常に検討しており、現状は1,000万画素でAIを使って最適な画質を実現するという結論になっているそうです。