146カ国中116位。これは、世界経済フォーラムが発表した2022年のジェンダー・ギャップ指数における日本の総合順位だ。男女格差が大きいこの国では、DVや貧困など困難な状況を抱える女性が後を絶たない。

生きづらさを抱える女性たちに寄り添い、1人ひとりが必要とする支援を行っているのがNPO法人「くにたち夢ファーム」だ。「令和4年度東京都女性活躍推進大賞」で大賞を受賞した活動について、くにたち夢ファーム Jikka 責任者の遠藤良子氏に聞いた。

  • いつでもどんなときでも、困ったら助けてといえる場所「Jikka」

■苦しむ女性の「実家」のような存在でありたい

――遠藤様のご経歴と、くにたち夢ファーム Jikka立ち上げの経緯をお聞かせください。

女性支援の活動を始めたのは、2006年に自治体の男女共同参画センターで女性相談員の仕事を始めたのがきっかけです。10代~90代の女性たちがさまざまな悩みや苦労を抱えているのを目の当たりにして、そんな女性たちの力になりたいという想いが強くなりました。 一方で、本当に助けたい人に支援の手が差し伸べられないこともあり、行政の限界を感じて歯がゆい思いをすることも多々あったんです。

たとえば、DV被害を受けている女性には一時避難先としてシェルターを提供しますが、シェルターを出た後は自助努力が基本です。でも、DVから逃げてきた女性にとっては、「その後」が大変なのです。

自治体の制度では支援の手がそこまで届かないので、「民間でやるしかない」と、2015年にNPO法人「くにたち夢ファーム」を立ち上げました。

――Jikkaとはどのような場所で、どのような活動をされているのでしょうか。

「Jikka」という名前は、行政や法律では助けられない女性にとって、「実家」のような場でありたいという想いから付けています。DVに遭って実家に逃げ帰ったら、帰ってきた理由を説明しなくても、ご飯を食べてお風呂に入って、暖かい布団で寝ることができる、そんなイメージです。

だから、理由を問わず「困ったらどうぞ」と、生きづらさを抱える女性に広く門戸を開き、「居場所」を提供しています。

月曜日から金曜日の11:00から16:00までは、誰もが自由に過ごせるオープンスペースとして開けています。「何かをしなければならない」ということはなく、おしゃべりしてもいいし、本を読んでもいいし、昼寝をしてもいいという、ゆるい感じの場所です。

曜日ごとにさまざまな活動を行っていて、火曜日は「手仕事の日」として縫いものをしたり、水曜日は手芸やものづくりが好きな人が集まる「ハンドメイド部」がアクセサリーなどを作ったりしています。木曜と金曜は「お休み処」「縁側の日」と題する相談の日で、コーヒーやお菓子・軽食などを楽しめる日になっています。

加えて、月に2回、土曜日に「Jikkafe(ジッカフェ)」としてカフェ営業もしていますし、手作り市やガレージセール、お花見などの交流イベントも開催しています。

さらに、UR都市機構と提携した居住支援にも取り組んでいます。どこか一部を切り取るのではなく、助けを必要とする女性がその人らしく元気で暮らせるよう、生活をトータルに支援しています。

■「どんな相談も断らない」がポリシー

――行政の支援に限界を感じたことが立ち上げの背景にあるということですが、Jikkaが大切にしているポリシーやモットーはありますか?

「断らない」ということです。DV防止法があるので、配偶者から暴力を受けた場合は行政が助けてくれますが、親やきょうだいから暴力を受けても助けてもらえないことがあります。また、児童虐待防止法があるので子どもが虐待を受けたときは児童相談所が助けてくれますが、18歳以上になるとそうはいきません。

行政の支援には「メニュー」があって、メニューにないものは支援の対象からはじかれてしまっています。ところが現実には、小さいときから親に暴力を振るわれてきて、大人になって自分で何とかしようと思っても、引きこもっていたからお金もないし自立できないといった人が少なくありません。

私たちは、行政の支援が届かない人を助けるため、「どんな相談も断らない」ことをモットーにしました。すべての人を助けられるわけではないにしても、まずはとにかく話を聞いて、私たちができることは何なのかを一緒に考えていくことを大事にしています。

――対面での相談のほか、電話などでの相談も行っているのでしょうか? また、最近増えている相談はありますか?

テレビに取り上げられたこともあって、最近は電話の相談が非常に多いです。海外在住の日本人女性からも相談が寄せられます。

最近は、DV被害者や虐待被害者に対する自治体の支援が充実してきていますが、精神疾患を抱えている人や、自傷行為をする人は、なかなか自治体の施設では受け入れてもらえません。コロナ禍で、オーバードーズ(薬物の過剰摂取)やリストカットを繰り返す人、自治体の支援が届きにくい女性を受け入れることが増えています。 「被害者」というと、傷ついて、落ち込んで気力を失っている人というイメージがあるかもしれません。Jikkaを立ち上げた最初の頃は確かにそうでしたが、最近は自傷他害などさまざまなケースが増えてきました。

そういう女性たちは、辛い時期をケアされずに放置されてきた人が多く、社会生活の経験が極端に少ないので、ソーシャルスキルがあまりないんです。一般的な「傷ついた被害者」のイメージからは計り知れない、こうした女性たちをどう支援していくのがが、Jikkaの新しい課題になっています。

■人は大切にされれば元気になる

――きれいごとだけでは済まない女性支援は、体力的にも精神的にも支援側に相当な負荷がかかると思います。遠藤様が女性支援を続けるモチベーションの源泉はどこにあるのでしょうか?

実は私自身、最初の夫からDV被害を受け、シングルマザーも経験しました。「人間は窮地に立たされると何をするかわからない」ことが実感としてわかっています。だから、苦しんでいる女性を見ると他人事とは思えないし、SOSがあれば断ることはできません。

誰にでも生きる権利があるし、生きている意味が絶対にあるはずです。私自身、そう思って生きてきました。どんな人にも生きる価値と生きる意味が絶対にあるはずだから、それを見つけてあげたいと思うんです。せっかく生まれてきたんだから、生きていてほしいし、生きている以上「生きてて良かったな」と思ってほしいです。

  • 一緒に支援を行っているスタッフがいるから頑張れるとも話す、Jikka責任者 遠藤良子氏

――Jikkaの活動を通じて得られた成果についてお聞かせください。

親から虐待を受けたトラウマを抱え、行くところがなかった女性がいました。20代の単身女性で、学校を卒業して働いたこともありましたが、人間関係がうまく築けないため仕事が続かず、あちこちをさまよってたどり着いたのがJikkaだったんです。

うちに来た頃は「死にたい」「親を殺して自分も死ぬ」と言い続けていましたが、2年もたたないうちに、少しですが自分の得意なことを生かした仕事ができるようになりました。今では「死にたいと思ってた自分が嘘のよう」と言えるまでになっています。

50年以上、夫のDVに耐えていた70代の女性もいます。その方は「そういうものだ」と思ってずっと耐えていたそうですが、ある日命の危険を感じて、50数年間ではじめて家を出たんです。今ではすごく若返って、ボランティア活動をしながら元気に暮らしています。

そんな利用者の方々の姿を見て思うのは、人は大切にされれば元気になり、自由が与えられれば自分の力が発揮できるということです。特別なことをしなくても、「あなたは悪くないし、大丈夫だし、やっていけるよ。私たちが見守るし、何か困ったことがあれば助けるよ」と言ってくれる人がいれば何とかやっていけるものなんです。

■自分を責めずに声を上げて

――今後のJikkaの展望をお聞かせください。

民間だからこそできることもありますが、行政でなければできないこともあります。たとえば、重い精神疾患を抱えていて入院治療が必要な人がいても、私たちはその人を入院させることはできません。しかし、行政なら都道府県知事の権限で措置入院の対応が取れます。

すべてを抱えることはできないので、「ここは民間でやる」「ここは行政がやる」と、それぞれの領域を見定めながら、互いに連携して包括的な支援ができるようにしていきたいです。

そのためには財政基盤の確立が不可欠です。「財政面での不安を抱えながら、熱意や善意で何とか成り立っている」というのではなく、制度としての女性支援が確立されることを目指して活動を続けていきたいと考えています。

――最後に、生きづらさに苦しんでいる女性へのメッセージをお願いします。

とにかく、自分を責めずに声を上げてほしいです。自立して生きていくためには「うまくいかない原因が自分にあるのではないか」と考えること自体は悪いことではありません。 ただ、すべてのことを「自分に原因がある」「自分のせいだ」とは思わないことです。もしそう感じたら「いやちょっと待てよ」と立ち止まって、なぜそうなっているのかを一緒に考えてくれる人を探してください。

役所でも何でもいいので、孤立しないために信頼できる人に話をする、自分の辛さ・しんどさを言葉にすることがとても大事です。いい結果ばかりではないかもしれませんが、まずは声を上げられた自分を励まして褒めてあげましょう。声を上げたところから変化が始まるので、ひとりで抱え込まないようにしてください。