付加価値を生み出す、4つの「一芸」アプローチ
前半の記事では、サラリーマン大家さんをこれから始めるならば、住みたい気持ちを強く抱いてもらえる「強力な個性」を物件に持たせた「一芸物件」をつくることが、今後は必要になってくるということをお話しました。
ただ、こう聞くと、「おもしろそうだけど、うまいアイデアなんて、そうそう出てくるものではないでしょ!」と、そう思う人は少なくないかもしれません。
そこで、今回の記事では、一芸の見つけ方について、大きく4つのアプローチをご紹介します。
その1 自分の"得意"や"夢"を一芸に
その2 時代が求める一芸を見つける
その3 気づきや問題意識から一芸に導く
その4 弱点を逆手に取る
一芸のヒントはあなたの身近にも必ずあり、これらの方法を使えばきっと見つけることができると思います。1つずつ解説していきましょう。
その1 自分の"得意"や"夢"を一芸に
一芸物件のつくり方について聞かれると、私はよく「1本のバナナからおいしいスイーツをつくることだと思うんですよ」とお話しします。
ある人がバナナ屋さんを経営していました。じつはこのバナナ屋さん、お菓子づくりが特技だったのです。
そこで、バナナタルトをつくってみると、とてもおいしい! というわけで、バナナタルトを売り出してみたところ、「きょうは家族の誕生日だから」とわざわざ買いにきてくれる人気商品になっていきました。
一芸のあるバナナ屋さんになったわけですね。
まわりのバナナ屋さんは生バナナのおいしさや鮮度で競い合っていますが、それだけではなかなか差別化ができません。また、おいしいといっても、1本100円のバナナを120円、130円に値づけするのは難しいことでしょう。
一方、バナナを使ってたくさんの人をワクワクさせるような商品ができたら、その商品は200円でも買ってくれる人がたくさんいるはずです。「知り合いからもらっておいしかったから」という人たちが、ちょっと離れた町から買いにきてくれることも期待できます。
つまり、皆さんの得意や好き、願いや夢などが一芸へと発展させることが、付加価値につながる可能性があるということです。
皆さんはどんなキャリアをお持ちですか? 得意としていること、こんな暮らしがしてみたいなと思っていることはなんでしょうか? 実現できるかどうかはあとでゆっくり考えるとして、まずはイメージを大きく広げてみることが、一芸の鍵となるかもしれません。
その2 時代が求める一芸を見つける
近年、作業時間を短くする"時短"という言葉はすっかり定着しましたが、それがさらに進化した"時産"の時代がはじまっているようです。
文字通り、時間を生み出すということで、ほかにも、キッチンの換気扇掃除は業者に頼むとか、買い物と調理の作業を省略するために1食分のカット野菜と肉と調味料がセットになったミールキットを利用するとか、ドラム式洗濯乾燥機や食洗機を使うとか、さまざまな形で実践されています。
とくに家事にまつわるものが多いのですが、"時短"には手抜きのイメージがあったのに比べ、"時産"には暮らしのゆとりを生むというニュアンスが強く含まれているようです。
一芸物件が生まれるきっかけは、こんな時代変化の中にもあります。このように、ますます多様化する価値観とライフスタイルを背景に、ニッチながらもたしかな一芸が見つかる可能性は十分にあると思います。
その3 気づきや問題意識から一芸に導く
一芸は、まわりの人とのコミュニケーションや生活実感における気づきや問題意識がきっかけとなって見つかることもあります。
私は、キャリアコンサルティング付きのアパートを運営していますが、このサービスを提供するようになったきっかけは、入居者の学生さんとの会話から、大学生にとって就職活動は大きな関心事であることを知ったことです。
就職活動や卒業後の進路についての不安は、彼にかぎらず、学生みんなが抱いていることでしょう。そんな学生たちをサポートできたら、喜んでもらえるとともに、それがこのアパートの付加価値になるかもしれないと思ったわけです。
また、学生が進路に関する不安を解消し、思い通りの道に進んでくれることは、実際のアパート契約者である親御さんの願いでもあるはずです。
そこで、就活のサポートができればという発想につながり、このサービスにつながっていったのです。住む人の役に立つ、住人に安心感を届けるということも、有意義な一芸といえるでしょう。
その4 弱点を逆手に取る
賃貸事業の場合、田舎の地価の安いところで一芸物件を成功させることができれば、少なめの初期投資で高い利回りを確保することも可能になることでしょう。
私の知り合いの大家さんで、「愛車と24時間一緒にいられるガレージハウス」を運営されている方がいます。そのガレージハウスは、都心から1時間半以上・駅遠という不利な立地、さらには地域の相場より2万円高い家賃でも、ウェイティングリストで200人待ちという人気ぶりです。
ガレージハウスは郊外立地ですが、いつも車で移動しているカー・マニアの入居者には駅からの距離など関係ありません。土地代が節約できる分、物件の価値向上に資金を回せますから、いっそうお客様によろこばれ、資産価値の高い物件をつくることもできるでしょう。まさに弱点を逆手に取った一芸といってよいと思います。
また、都心の狭い土地を有効利用した「デスクに座ったまま食事も勉強も完結できる〝激セマ物件〟」が人気物件となっているようです。なんでも広いのがいいと考えがちですが、こんな発想もあるのですね。
一芸物件では、お金を多くかけずに、物件の魅力を生み出すことも
何かをその一芸のために特別な設備をそれなりの費用をかけて導入する例もありますが、一方には、お金をほとんど使わずに実現できる一芸物件があります。
私の「キャリアコンサルティング付きのアパート」のように、建築当初は普通の物件で、その後も間取りや設備をいじることはなく、アイデアを後付けしただけで一芸物件に変身した例もあるほどです。一芸物件はアイデア次第。ふと浮かんだ思いつきから、大化けします。
これからサラリーマン大家としてやっていきたい、という思いを持っている方は、このようなアイデアを考えるところから始めていくのもいいかもしれません。
著者プロフィール:井上敬仁(いのうえ・たかひと)
一芸物件専門家。2021年、株式会社未来人材キャリア開発を設立。「キャリアカウンセリングつき賃貸」として一芸物件を売り出し、満室経営を実現。また、学生の就活支援などにも従事している。著書に『高い家賃なのにいつも満室になる人気物件のつくり方 一芸物件』(アスコム)。