鳥取市とNTT西日本は3月28日、農業の活性化に向けた課題の抽出に向け、鳥取市職員、農家、大学生、消費者を交えたワークショップを開催した。「ローカルダイアログ」というカードゲームによって自分たちの住むまちを可視化し、まちの農業を再発見することが狙いだ。
カードゲーム形式の対話会で農業を考える
地方自治体にとって農業は大きな課題のひとつだ。しかし農政についてワークショップを開いてもなかなか意見が出にくく、また集約もしにくい。同じ悩みを抱える鳥取市に対し、カードゲーム形式の対話会「ローカルダイアログ」を提案したのが、地域創生Coデザイン研究所だ。
3月28日、このローカルダイアログが鳥取市役所で行われた。集まったのは、農家、鳥取市職員、大学生、消費者など計8名。参加者は4人ずつに分かれ、それぞれテーブルを囲んだ。
IRODORIの谷津孝啓氏が開発したローカルダイアログは、カードゲーム形式を採用することで、世代や組織、業種を超えた対話テーブルを作れるのが特徴。日本人は意見を交換するのが苦手な民族と言われるが、カードゲームにすることで「イエス」か「ノー」かをはっきりさせ、同時に「どうしてそう思うか」理由を述べる流れを作り出している。
谷津氏の「いろいろな課題がある中で、自治体や企業だけでは解決できないところを解決する仕組みを一緒になって作るという取り組みをしています。皆さんにとってこの場が素敵な場になってくれればいいなと思っています」という挨拶とともに、参加者は自己紹介を開始。まだ参加者の声に緊張を感じられるなか、対話会がスタートした。
対話会をより良いものにするために
対話会の目的は、カードを使って地域の課題や資源を出し合い、対話の中で自分たちの住みたい・暮らしたいまちの姿を考え、まちの農業を再発見すること。カードに記載されている内容は、全国の自治体から回答された市民アンケートをベースにしている。
具体的には3段階の流れで行われる。街のビジョンカードを使い、住みたいまちのビジョンを対話すること。次にダイアログカードを使い、いまの街の姿を対話すること。そしてローカルダイアログマップに配置されたダイアログカードをもとに、これからのまちづくり戦略を対話することだ。地域創世Coデザイン研究所の瀬島氏は「ワークショップをより良いものとするグランドルール」について説明する。
「みなさんが具体的に体験したことであったり、普段考えられていること、また自分にとってどうなんだという点を踏まえて話していただきたいと思います。また、なぜイエス/ノーなのか、自分なりの意見を言っていただければなと。あとですね、人の話に耳を傾けようというところで、参加したテーブルの皆さんの話が終わった後は拍手で終えるというのをルールにしたいと思います」(地域創生oデザイン研究所 瀬島氏)。
目指したいまちのビジョンは?
ここから、約1時間のグループワークがスタート。はじめに、「若手が挑戦しやすいまち」をそれぞれがイメージし、それを手元の紙に書く。それをグループで共有し、出てきたアイデアの中から1つを選択する。
Aチームから出たアイデアは「田舎でも魅力があって人がやってくるまち」。一方、Bチームは「一人だけではできないことが一緒にできる仲間がいるまち」というアイデアを出した。ここからはダイアログカードを使い、アイデアをリワークしていくことになる。
「これから語っていただいた未来を形にしていただきますが、実は未来の話だけをしていても未来は作れないんです。今から使うダイアログカードは、鳥取市の現状をみなさんなりの視点で語ってもらうためのものです。そうするとアプローチの仕方が見えてきて、これが市役所の総合計画や政策・事業になっていくんですね」(IRODORI 谷津氏)。
ダイアログカードには特定のテーマが書かれている。発言者が読んだテーマに対し、イエスもしくはノーだと思ったら手を挙げてその理由を述べる。ノーだとしても、それに対して意見を述べるという形だ。
例えば「行政や役場は身近な存在だと思う」というカードがあり、参加者がその内容につい笑ってしまうワンシーンもあった。始めはおずおずと"イエス/ノー"を決めていた参加者も、何度か繰り返すうちに自らが感じた意見を遠慮なく出せるようになり、活発な対話が展開された。カードは、色に合わせたローカルダイアログマップに配置していく。
農業に対するアクションプランの種を作ろう
休憩をはさみ、グループワークも後半に移行。ここからは、まちのビジョン達成に向けて取り組むべきカードを一人一枚選び、そのカードに対しての実践プランを策定し、グループ内で具体的なプランの内容を共有するという流れになる。
Aチームは最終的に取り組むべきカードが2枚に分かれたのに対し、Bチームは4人全員がバラバラのカードを選択した。これをさらに具体的なプランに落とし込むためのツールとして参加者にワークシートが配られ、15分の個人ワークが行われる。このワークシートは、理想のまちのキーワードと自分に関するキーワード、そして今回のテーマのひとつとなるキーワード「新規就農」を組み合わせ、アクションプランの種を作るというものだ。
「キーワードとキーワードの組み合わせれば、実はアイデアになります。これは一つのテクニックなんです。迷ったら、カンニングしてください(笑)。隣の人がどんなことを書いているのか、覗いてみてください。みんながアイデアを持ち寄って作るのが“まち”ですからね」(IRODORI 谷津氏)。
最後に、参加者それぞれのプランをグループ内で共有し、ワークショップは無事終わりを迎えた。この対話会を振り返り、参加者のみなさんは次のようにコメントする。
- 「どんなことを話すんだろうなっていう緊張があったが、これまで体験したことがないディスカッションができた」
- 「イエスかノーか、自分の中でも決めかねる中で答えを出し、自分の意見を述べるという新鮮な体験を得られた」
- 「話題が小刻みになっているので、自分の意見が言いやすくて、かつ否定されない。やりやすい」
- 「こういう議論の仕方っていいなと思った。地域に帰ってやってみたい」
また、鳥取市 農政企画課の清水保朝氏は「農業に関しての課題は、決して『農業は楽しいよ』で終わるものばかりではなく、重い未来を考えていかなければならない面もあります。ですが、今回の話し合いのように話ができて、楽しいそのまち作りに繋がるような機会があれば、ぜひまたご案内したいと思います。鳥取市としましては、これからも住みやすいまち作りを進めていきたいと思います」と挨拶し、ワークショップを締めくくった。
自治体と農家の懸け橋を目指すNTT西日本
盛況のうちに終わった鳥取市の農業に関する対話会。NTT西日本が、こういったワークショップを自治体に提案し、自治体とともに伴走する形で協力しているのはなぜなのだろうか。NTT西日本 鳥取支店の山田達也氏に伺ってみたい。
「我々が地域創生に関する事業を進める中で、自治体の職員さんと農家さんの間にすごくアンマッチがあると感じていました。自治体さん側からは『農家さんが声を上げてくれない』、農家さん側からは『自治体が寄り添ってくれない』という意見が多いんですよ。我々がその間に入ることで、自治体さんと農家さんとを繋ぎ合わせることができるんじゃないか、というのがスタートですね」(山田氏)。
鳥取市は、農政を進める中で現場の声を完全に吸いきれてないと感じていたという。このギャップを解消するためにNTT西日本が紹介したのが、地域創生Coデザイン研究所だった。
「やはり自治体や我々のような企業が開催するワークショップは堅いものになりがちです。今回の対話会では、『会話がしやすい』『意見が出やすい』という感想もありました。良い意味でイメージを裏切ることができたかなと思っています」(山田氏)。
NTT西日本は、これからさらに農業の分野においてアクションを増やしたいと考えているという。今回の対話会では課題抽出とアクションプランを考える作業を行ったが、今後はそれを自治体と一緒に政策に落とし込む作業、そして政策を事業に落とし込む作業が生まれる。この3段階を考える流れを作っていきたいそうだ。
「まずは対話会で自治体さん、農家さんと一緒に考える。次にそれを政策にする。政策ができたら、それを具体化するような事業にする。この一連の流れをどんどん繰り返し、最終的に農業の分野自体が盛り上げたいと思っています。さらに言うと、新規就農の方が働きやすい雰囲気や事業も作ることができたらなと考えています」(NTT西日本 山田氏)。
NTT西日本といえば、電話やインターネット回線のイメージがまだまだ強い。だが昨今は新規ビジネスの立ち上げや地域活性への取り組みに力を入れており、ICTオンリーの企業ではなくなってきている。地域とともに共創し、地域の課題を解決するNTT西日本の活動は、地方自治体や地域住民にとって心強いパートナーになってくれることだろう。