電源がない状況でもバッテリーの電力でAC100Vの家電が動かせる「ポータブル電源」、キャンプなどのアウトドアレジャー用途だけでなく、災害への備えとしても注目が高まっています。この1~2年で選択肢がグッと増えただけでなく、性能や安全性を重視した製品が増えました。

ポータブル電源は、EcoFlowやBLUETTI、ジャクリなどの老舗メーカーが完成度の高い製品を投入していますが、スマホ用の多機能充電器などで知られる中国UGREENがこの3月にポータブル電源市場に参入。「PowerRoam 600」は第一弾製品とは思えないほどまとまりがよい点が目を引きました。ダークホース的に登場した意欲作の機能や使い勝手はどうか、試してみました。

  • 中国UGREENのポータブル電源「PowerRoam 600」。ポータブル電源では無名に近いメーカーの製品ながら、使い勝手のよさやデザインのよさが光った

BYDと共同開発したリン酸鉄リチウムバッテリー搭載、デザインもシック

PowerRoam 600は680Whの容量を持ち、ポータブル電源では中容量クラスとなる製品です。希望小売価格は79,800円で、期間限定の割引を適用すると5万円台で購入できることも。ポータブル電源は、3万~4万円前後で買える小型モデルは容量不足や出力不足を感じやすく、10万円超の大型モデルは価格や携帯性の悪さが気になるので、PowerRoam 600はその中間で最初の1台に向くバランスのよい製品といえます。

  • PowerRoam 600のバッテリー容量は680Whで、ポータブル電源では中容量クラスとなる。重さは約9kgで、多少重いが持ち運びは問題なくできる

まず注目できるのが、EV(電気自動車)で知られる中国BYDと共同開発した新世代のリン酸鉄リチウムバッテリーを搭載していること。リチウムイオンバッテリーは衝撃や不具合、劣化などで発熱や発火を招く可能性があるのですが、リン酸鉄リチウムバッテリーは安定性に優れており、発熱や発火の危険性を大幅に抑えています。いつ起こるか分からない災害への備えとしてフル充電の状態で一般家庭に保管する用途にも、安心して使えます。

好ましいと感じたのがデザインです。ポータブル電源は、アウトドアギアを意識したゴツゴツとしたデザインや派手な差し色を用いた製品が多いのですが、PowerRoam 600は派手な装飾のないシックなデザインに仕上げています。どことなくライカのカメラをほうふつとさせる印象で安っぽさがなく、防災対策でリビングに置いていてもサマになりそうです。重さは約9kgあり、上部のハンドルを持つとズッシリきますが、持ち歩けない重さではありません。

  • 華美な装飾は省き、存在感のあるデザインに仕上げたボディ。アウトドアギア然としていないのがよい

接続端子は、一般的なUSBとUSB Type-Cを2つずつ前面に搭載しており、数は不満ありません。USB Type-Cは最大100WのPD出力に対応し、MacBook Proなどの高性能ノートPCも急速充電できます。AC100V端子は側面に5つまとめて配置していますが、間隔がやや狭めなので、ACアダプターは干渉することもありそうです。

  • 表示パネル下の一等地には、USB端子とUSB Type-C端子を2つずつ搭載する

  • 右側面にはAC100V出力を5つ備える。3つがアース付きだ

  • 左側面には入力端子やアース端子などを備える。こちらは跳ね上げ式のカバーを備える

充電サイクル(充電可能な回数)は約3,000回で、毎日欠かさず充放電したとしても10年近くは使える計算になります。メーカー保証は5年間と長いこともあり、長く安心して使える点は評価できます。

不要になったポータブル電源をメーカー自身が回収する仕組みを用意しているかどうか、UGREENの担当者に確認したところ、「現時点では回収の仕組みはないが、検討したい」とのコメントが得られました。個人で処分するのが難しいポータブル電源は、メーカーによる回収の有無が製品選びのポイントの1つになるので、今後の対応に期待したいところです。

ユニークな機能として、バッテリー残量が0%になった場合でも、USB端子経由で1台のスマートフォンを満充電できる電力を供給する「残量0%緊急モード」を備えています。バッテリー寿命を縮める可能性があるため、あくまで緊急時の利用にとどめてほしいとしていますが、スマホが重要なライフラインになった現代らしい有用な機能といえます。

  • ケーブル類を収納するポーチが付属する。意外とありがたい存在だ

1300Wのトースターも使えた。純正ソーラーの発電効率は優秀

バッテリー残量が0%の状態から何分でフル充電に到達できるかを試してみました。メーカーは「50分で80%まで充電、90分でフル充電」と急速充電をうたっていますが、実際に試したところ「80%の充電には85分、フル充電には114分」かかりました。600W前後での急速充電でスタートしたのですが、途中から安全性を重視してか500W前後や400W前後での充電となったため、カタログ値には及ばずとなりました。PowerRoam 600内のバッテリーの温度や周囲の気温などに左右されるとみられます。もっとも、この数値でも十分に高速なので、急速充電性能は満足といえます。

【動画】充電時の様子をタイムラプスで撮影。最速の600Wで充電できた時間が短かったため、公称値よりも時間がかかってしまった

  • 前面のパネルは表示が精細なうえに情報量が多いが、明るい屋外では見づらかった

  • スマホアプリでもステータスが確認できるが、不安定な挙動が見られるなど、アプリの完成度はいまひとつ

ちなみに、急速充電時や消費電力の大きな家電を使っている際は、内蔵の冷却ファンが勢いよく回ります。騒音はやや大きめですが、ほかのポータブル電源と比べると耳障りなノイズではないため、それほど気にならないでしょう。

純正のソーラーパネルとして、200Wタイプの「SC200」(希望小売価格は49,800円)と、100Wタイプの「SC100」(希望小売価格は29,800円)の2種類を用意します。いずれも、曇天などの太陽光が弱い状況でも大きな出力が得られる最新技術を用いているといいます。マンションのベランダにSC200を設置したところ、晴天ならば100W前後、曇天でも20~30W前後の電力が発電できました。曇天でもそこそこの電力を生み出せるのは意外でした。晴天の日なら、朝から外に出しておけば夜までにはフル充電に近いレベルまで充電できるので、防災対策として有用だと感じました。

  • 200Wタイプのソーラーパネル「SC200」を接続したところ。SC200は広げるとかなり幅がある

  • 晴れた日中ならば100Wの出力は安定して稼げる

  • 太陽が雲に隠れても20~30Wは発電できた

PowerRoam 600の出力は最大600Wですが、最大1500Wまでの機器が使えるようにする「U-Turboモード」があり、この機能をオンにすると消費電力が最大1300Wのバルミューダ製トースターも動作しました。ただし、消費電力を抑えて駆動するため、トースター内部のヒーターは通常よりも低い温度にとどまり、調理にはふだんの2~3倍は時間がかかります。この点が気になるとはいえ、まったく使えない事態になるのを回避できるのは頼もしいと感じます。万が一の停電時も、電子レンジや電気ポット、炊飯器、ドライヤーなどがパワーを抑えた状態で使えます。

  • 消費電力が360Wの小型ファンヒーター「デロンギ カプスーラ デスク セラミックファンヒーター」は通常モードで駆動した

  • 消費電力が最大1300Wのトースター「BALMUDA The Toaster」。内部のヒーター管はあまり明るくならず、パワーを落として動かしていることがよく分かったが、それでも動作するのはありがたい

UPS(無停電電源)機能も搭載しています。停電が発生すると、20ミリ秒以内に出力がバッテリーへと切り替わり、接続した機器の電源断が予防できる仕組みです。大事な業務でデスクトップパソコンを使っている人は、利用すべき機能といえます。

一発目の製品らしからぬ完成度の高さ

PowerRoam 600はポータブル電源では無名に近いメーカーの製品にもかかわらず、使い勝手のよさやデザインのよさ、最大1500Wの家電が使えるU-Turboモード、長く安心して使える点、純正ソーラーパネルの発電性能が満足できました。停電時や災害時、暖房や調理家電をある程度の時間使いたい、と考える人に向く製品といえます。気になるのは、フル充電までの時間が公称よりも長かったことや、現時点では製品回収の仕組みがないことぐらいです。

一発目の製品ながらこれだけ完成度が高いと、さらなる大容量&高出力のモデルの登場に期待したくなります。今後の展開に注目しましょう。

【耳寄りセール情報】
UGREENがAmazonでPowerRoam 600とSC200のセールを実施。PowerRoam 600は25%オフ、SC200は20%オフで販売する予定。さらに、読者限定のクーポンコードを入力すると、重ねて割引が適用される。クーポンコードは、PowerRoam 600が「UG600MYNV」(10%オフ)、SC200が「UGREENSC200」(5%オフ)。セールは3月31日(金)~4月2日(日)23時59分までの予定。