その際利用されたのは、細胞培養基材としても使用される汎用的な材料である温度応答性の「ポリイソプロピルアクリルアミドゲル」と、光熱変換材料である金ナノロッドを複合化することで、光刺激箇所のみ水を吐き出させ、収縮変形させることが可能である性質だ。そして、同材料にオンチップ構造形成法を適応させることで、座屈剥離に基づく薄膜・管状構造が得られることが実証されたとする。
こうして得られた生体とよく似た薄膜・管状構造は、光照射によって生き物のように滑らかに素早く動かすことが可能だ。高速応答・大変形・局所応答が可能な運動素子として、世界トップレベルの性能が実現されたとしている。さらに、光刺激を制御することで、腸管の分節運動と蠕動運動を、生体に匹敵する性能で再現することに成功したという。
生体器官の運動模倣が可能な高性能運動素子を作製するため、今回の実験では、(1)素早い変形が可能な光応答材料と、(2)大変形が可能な座屈変形機構の2点の技術的なポイントが用いられたとする。
(1)について、基材となるポリイソプロピルアクリルアミドゲルを多孔質化することで、水の出入りの高速化が実現された。また、光熱変換材料である金ナノロッドの含有量を調整することで、応答温度である35℃まで迅速に加熱できる設計にしたという。これにより、光照射による発熱で、高速収縮変形が可能なハイドロゲル材料を作製することができたとする。
(2)座屈剥離によるオンチップ構造形成法は、薄膜材料を平面状態(2次元)から座屈状態(3次元)へと大きく変形させることが可能だ。この座屈変形機構により、ハイドロゲルが水を吸って膨らむ通常の膨潤変形と比較して1桁大きい変位増幅が可能であり、世界トップレベルの性能を実現できたとしている。
今回実現された高性能な運動素子は、チップ上に生体内環境を再現する基盤技術として、細胞培養と合わせることで、オンチップ型人工臓器創製につながり、細胞生物学や再生医療、創薬などに役立つことが期待されるとする。
また、今回提唱された座屈変形機構は、幅広い薄膜材料に適応可能な運動素子の作製手法としてソフトロボティクス分野での応用が考えられるとする。さらには、チップ上に作製された流路形状の動的制御による、マイクロフルイディクス分野での利用も期待されるとした。