年頃の子を持つ親にとって悩ましいのが子どもの反抗期です。なるべくならいつまでも素直なままでいてほしいというのが親心ですが、子どもが反抗しないようにする方法はあるのでしょうか?
そもそも思春期に、子どもの心には何が起きているのでしょうか? 前編、中編に引き続き、臨床心理士の杉野珠理さんと、精神科医の荒田智史さんにお伺いします。
■なぜ反抗するの?
子どもが反抗するのは、心の独り立ちをするためです。これは、親から心理的に離れていくこと、つまり心理的な自立です。ちなみに、体の独り立ちをするのは乳幼児期の「イヤイヤ期」や「やるやる期」です。これは、親から身体的に離れていくこと、つまり身体的な自立です。
心理的な自立を経て、自分はこうなりたい、これを仕事(役割)にして生きていく、という自分らしさを考えるようになるのです。これは、発達段階の「アイデンティティ確立」に当てはまります。
次に思春期の子どもが抱える特有の心理(思春期危機)を大きく3つ取り上げ、その心で何が起きているかを解説していきましょう。
思春期の心理1「自分には味方がいない」
思春期になると「自立したい」という気持ちが高まりますが、「もう親の世話にならない」という反抗の心理が極端になると、その裏返しとして「もう親に頼れない」と自分を追い込んで不安を感じるようにもなります。
1つ目の心理は、自分には味方がいないと思ってしまうことです。
思春期は、自立への不安から自分のことをわかってくれそうな新しい味方を求め、(親からすると)危険な交友関係に足を踏み入れやすくなります。
思春期の心理2「大人扱いしてくれない」
2つ目の心理は、大人扱いをしてくれないと思ってしまうことです。
大人扱いしてほしいという心理は、反抗の心理として自然に湧き上がってくるものです。 本来は、親も少しずつ本人に任せていけばいいのですが、いつまでも子ども扱いしていると、本人は嫌気が差して、激しく押し返すようになります。
そして、自分が子どもではないことを親にわからせるために、親がやってはいけないということをあえてやろうとするのです。
本来、反抗は自立するという目的のためのプロセスであるはずです。ところが、そのプロセスを押さえつけられると、反抗自体が目的化されてしまう、つまり反抗するために反抗するようになってしまうのです。
思春期の心理3「何をしたいかわからない」
思春期は、「何でも自分で決めなければならない」というプレッシャー(=アイデンティティ確立へのプレッシャー)を強く感じながらも、じゃあ自分は何をしたいのか、どうなりたいのかがそもそも思いつかず、葛藤を抱えがちです。
3つ目の心理は、何をしたいかわからないと思ってしまうことです。
ときとして、とりあえず何かをするために、他の子にはできないすごいこととして、大人の真似ごとをしようとし、それが問題行動となる場合があります。
以上が、思春期の子どもが抱える不安や葛藤の心理です。思春期に反抗するのは、成長の一過程としてごく自然なことだといえます。
■行き過ぎた反抗行動はなぜ起こる?
親の言うことを聞かなくなるなど多少の反抗行動は当然に起こることですが、なんらかの要因で思春期特有の不安定さがあおられてしまうと、激しい反抗行動に発展してしまいます。
例えば、過激なSNS投稿、食べ吐き(摂食障害)、リストカット(自傷行為)、家庭内暴力、喫煙、飲酒、ドラッグ、パパ活などです。
親が条件つきでかかわり続けると、子どもは無条件に自分を守ってくれる存在(安全基地)がないと思ってしまいます。そのよりどころのなさが、子どもの自尊心を低くし、不安をより強めてしまいます。
「自分は大切にされていない」と思うと、自分を大切にしなくなります。それがリストカット(自傷行為)であったり、自分を安売りするパパ活です。
また、大人扱いされない代償として、唯一自分がコントロールできる体重にこだわるようになります。それが、食べ吐き(摂食障害)です。
以上のように、年頃の子どもに見られる問題行動には、自立を目の前にさまざまな葛藤や不安を抱える思春期心理が関係しているのです。
※本記事は書籍『臨床心理士と精神科医の夫婦が子育てで大事なこと全部まとめてみました』をベースに構成しています。
文/杉野珠理、荒田智史