岡山県津山市と万作の会、NTT西日本岡山支店、NTTスマートコネクトの四者は、未来の子どもを育てるSTEAM教育モデルを創出することを目的に、日本の伝統文化である狂言を題材にしたVR体験授業を実施。2023年2月10日には津山市立勝北中学校の1年生約40名が参加する公開授業を行った。
■教育DXの推進へ、津山市・万作の会・NTT西日本・NTTスマートコネクトが連携
津山市とNTT西日本は、2021年6月に同市におけるデジタル社会の実現に向けた連携協定を締結。教育分野では「教育データの利活用による教育DXの推進」と、「オンライン・VR等のICTを活用した新しい学びによる児童・生徒の理解力並びに教育の質・機会の向上」に取り組んでいる。
一方、狂言の公演を行う「万作の会」とNTT西日本グループは2021年3月、ICTを活用して狂言の「普及・活用・伝承」を推進するため、連携協定を締結。NTTスマートコネクトの4K360度マルチアングル配信サービス「REALIVE360」で、狂言鑑賞体験の提供や狂言の演目のデジタルアーカイブ化などを進めている。
NTT西日本が津山市・万作の会での取り組みを組み合わせ、日本文化である狂言への愛着・理解を育みつつ、「主体的・対話的で深い学び」「誰一人取り残すことのない学び」の実現をめざしたという今回の取り組み。
津山市立勝北中学校では、狂言が持つ歴史・文化(社会)や演目が表現する物語の内容(国語)、言葉の響きやリズム(音楽)など、複数教科にわたって狂言の多様な側面について横断的な学習を実施した。同時に子どもたちが学びを深めるため、VRを活用した体験授業を行う総合的な学習の時間を設けた。
このほど公開された授業には、VRコンテンツ作成に協力した万作の会の狂言師である中村修一さんと、内藤連さんがオンラインで出演。前半では「柿山伏」という演目の柿の実を木からもいで食べる型や、飲み物(酒)を飲む型などの解説や実践などを行い、後半では代表者の生徒が同演目の型を学べるVRコンテンツを体験した。
このVRコンテンツは、狂言師・野村萬斎さんの型を手本にしながら体験者が型の動きを真似すると、その動きの一致率が点数化される仕組み。
質問タイムでは生徒から「能や歌舞伎など他の伝統芸能との交流はありますか?」との質問もあり、中村さんは「能は能楽堂という同じ劇場で演じますし、僕ら狂言師も "狂言方"といって能にも一緒に出演しますので、能との関わりはとても深いです。一方で歌舞伎の方はできた時期も劇場も違いますが、(野村)万作先生が市川猿之助さんと一緒に共演したこともあります」と、回答していた。
■「いつか生で狂言を見てみたい」
授業後、「野村萬斎さんを間近で見ながら教わっているようで、動きを見て真似ることができるのは貴重な経験でした。ひとつひとつの型の動きがすごく綺麗で、かっこいいなと思いました」と感想を述べた生徒は、今回のVR体験で狂言を演じる難しさや大変さを実感できたようだ。
「手を大きく動かす時とかも体の芯が全くブレていなかったので、すごいなと思いました。同時に狂言の楽しさもわかって少し興味が湧いたので、いつか生で狂言を観てみたいです」
VRが持つ「能動的学習・探求型学習の促進」「時間・場所の制約を受けない」という強みをいかし、狂言について能動的・主体的に学ぶ姿勢の醸成を図った今回の取り組み。
勝北中学校は、NTT西日本との連携事業のモデル校であり、学習eポータルやAIドリルなどのICT活用に積極的に取り組んできたことなどが今回の授業の対象校となった背景にあるようだ。
「狂言師の方に教えていただきながら、子どもたちが勉強したことを体験できるとても貴重な機会でした。これから教育の場でVRを使った授業や体験を積極的に活用し、定着させていければいいなと思います」とは、同校教諭の中村恭輔氏。VRを活用し、さまざまな体験を擬似的に行える体験型学習のメリットを感じたという。
「VR機器を用いた授業は今回が2回目で、生徒全員が1人1回、VR機器をつけて型を練習する時間を設けました。それとは別に、狂言について学習する時間も「社会」「国語」「音楽」の中で設けました。恥ずかしがって今日は少し声が出ていなかったですが、知りたい気持ちは強いみたいで。今日の狂言師の方への質問も「社会」と「国語」の時間に考えたのですが、かなり具体的な質問になっていたと感じています」
■VRで多様な体験学習が可能に
プロジェクト全体の企画・運営支援を行ったNTT西日本岡山支店の島津帆乃夏氏は、「VRで野村萬斎さんの型を見ながら、しっかり同じように動こうとしている生徒さんたちの姿が印象的でした」とコメント。
NTTスマートコネクトが開発・提供したVRコンテンツの特徴については「VRならではの没入感と臨場感ある映像になっています。まずは楽しんでもらうことが子どもたちの学びのスタートなので、ゴーグルとコントローラーを使い、顔と両手の位置からお手本となる型の動きとの一致率を測れるようにしました」と話した。
また、プロジェクト全体の企画・運営や対象校の調整・取りまとめを担当した津山市教育委員会の河野潤氏は、今回の取り組みの背景や手応えなどを語った。
「NTT西日本様との連携協定の中で、VR活用によって子どもたちがより興味・関心を持って取り組める学習をめざしました。現場の教師からは、普段あまり主張しないおとなしい生徒さんも主体的に学習できていると伺っています。授業のコマ数の調整や子どもたちへのVRゴーグルの使用などに関しては苦労もありましたが、環境面のセッティングなどはNTT西日本様にお力添えいただき、スムーズに進められました」。
津山市では教科学習のほか、環境問題や交通安全などの多様なテーマを学ぶ総合的な学習、特別学習の時間でVRを有効に活用した体験授業の機会を増やしていく予定。今回、体験学習などの学びの機会が普通学級の子どもよりも得難い、院内学級の子どもに対してもVR体験を提供できたことから、さまざまな環境下にある児童生徒へ新たな学びの可能性を検証していきたいという。
ICTを授業に活用することのメリットや今後の展望について、河野氏は次のように述べていた。
「それぞれの児童・生徒に応じた学習が実施できる、個別最適化された学びの提供が、非常に大きな利点と感じています。本市でも平成29年度から始めたICTの活用を、この度のGIGAスクール構想に沿って、さらに拡大を進めています。AIドリルや学習eポータルを活用しながら、子どもたちに的確な指導ができるようにするための学びのデータ化や学びの可視化を、NTT西日本様と一緒に推進していきたいです」。